治療家のための〈治療以外の治療〉シリーズ 【解釈モデル①】
解釈モデルとは?
解釈モデルとは、
「患者さんが、自分の体に起きていることを、
頭の中でどう説明しているか」
その人なりの考え方・物語のことです。
もう少し固い言葉で言うと、
患者さんが自分の「病気」や「不調」を、どのように意味づけ、理解しているかという、個人的な枠組みのこと。
この概念は、医療人類学者の アーサー・クラインマン(Arthur Kleinman) が提唱しました。
クラインマンは、
医療者が見ている「病気」
患者さんが生きている「つらさ」
この二つが、あまりにもすれ違っている現場を数多く見てきて、
「これは別々のものとして整理しないと、話が噛み合わない」と考えたんですね。
ほとんどの人は使ってない
正直に言わせてもらうと、
「解釈モデル」を
僕はほとんど使ってませんでした。
「問診」をしている
つもりではあったけれど、それは
「こちらが欲しい情報」を
集めていただけでした。
そこで集められたものは、
患者さんの頭の中にある「一部」でしかなかったんですね。
患者さんの頭の中には、すでに“答え”がある
たとえば、「風邪で発熱した患者さん」がいたとします。
患者さんの頭の中には、すでにこんな考えが浮かんでいます。
「昨日、雨に濡れて身体が冷えたからだ」
「職場で誰かにうつされたのかもしれない」
「最近、寝不足だったしな」
これはすべて、患者さんなりの原因の説明です。
さらに、
「寝れば治るだろう」
「ドラッグストアで薬を買おう」
「会社を休んで病院に行くべきかな」
といった対処法や治療のイメージもあります。
予後についても、
「2〜3日で熱は下がるはず」
「こじらせたら大変なことになるかも」
と、人によって大きく違います。
これらはバラバラに存在しているわけではなく、
患者さんの頭の中では、ひとつのストーリーとして同時に存在しているんですね。
正しい・間違っている、の話ではない
ここで大事なのは、
患者さんの解釈モデルは、
医学的に「正しい」「間違っている」という評価の対象ではない
という点です。
これは、
患者さんの考えをすべて肯定しなければならない
という話でもなければ、医学的に誤った理解を放置しろ
という話でもありません。
「すでに、その人の頭の中に存在しているものとして把握する」
それが、解釈モデルという考え方です。
Disease(病気)と Illness(病い)
クラインマンは、病気を次のように分けて整理しました。
1. Disease(疾患)
医療者が扱う「病気」です。
骨や筋肉、内臓に起きている生物学的な異常
検査値、画像、触診所見などで確認できるもの
これは、専門家の視点で見た病気です。
2. Illness(病い)
患者さんが体験している「病気」です。
「この痛みで仕事に行けるだろうか」
「家族に迷惑をかけてしまう」
「前と同じことがまた起きている気がする」
こうした感情や意味づけを含んだ、主観的な体験です。
こちらは、患者さん本人の視点。
つまり、
医療者は「疾患の地図」を見ており、
患者さんは「生活としての病いの地図」を見ている
この違いがある、ということです。
解釈モデルを構成するもの
患者さんの解釈モデルは、だいたい次のような要素でできています。
原因:なぜこの症状が出たと思っているか
発症時期:なぜ「今」なのか
病態:体の中で何が起きていると思っているか
深刻度:どれくらい大変な状態だと思っているか
対処法・治療法:どうすれば良くなると思っているか
治療への期待:医療者に何をしてほしいか
予後:この先どうなると思っているか
ただし、これらがきれいに整理されていることは、ほとんどありません。
断片的だったり
感情が強く混ざっていたり
論理的に矛盾していたり
するのが普通です。
だから、解釈モデルは「完成した設計図」ではなく、
パズルのピースの集合体のようなものだと考えた方がしっくりきます。
解釈モデルは「地図」であり「物語」
これらのピースを丁寧に拾っていくと、
少しずつ患者さんの頭の中にある「地図」が見えてきます。
そして重要なのは、
これらのピースは必ず、
過去(なぜこうなったか)
現在(今、何が困っているか)
未来(これからどうなると思っているか)
のどこかに位置づけられる、ということ。
この点を踏まえると、
解釈モデルとは、
患者さんの頭の中にある「病いの物語(ストーリー)」
と言い換えることもできます。
さて、
私たち医療者は、問診の中で
この「物語」を、ちゃんと聞けているでしょうか?
それとも、
自分の見ている地図だけを頼りに、話を進めてしまっているでしょうか。
――この続きは、また別の話で。
治療家の方や一般の方の
「解釈モデルはどのようなものか?」
を知りたいと思っています。
「治療」というのは
「解釈モデルのピースのひとつ」ですから。
ご協力していただけると
とてもうれしい。
【解釈モデル】について、実践で生かすコツについてはこちらの記事で。
