見出し画像

第2-1回プラットフォーム側のコストについて~配信サイトUstream編~

*今回はUstreamCheckerの要素がかなり少ないのでタグは外しています。

前回はUstreamChecker(チェッカー)を中心に私の記憶とともに配信サイトの移り変わりを記した。
ピアキャスト、ニコニコ生放送、Ustream、Justin、FC2など他。そして現在主流のTwitchとyoutubeLiveへ。


1.はじめに

かつて2011年頃。配信界隈では広告がなく高画質でラグがない配信サイトが好まれていた。
この要望は今現在2026年でも大して変わっていない要望であると思う。
このわがままなニーズは配信サイト側からするとどれくらい負担があるものだったのだろうかとふと思った。
そこで、かつての思い出深かった配信サイトが今どのようなことになっているのだろうと思ったのがこの文を書くに至ったきっかけである。
以前の記事「UstreamCheckerという配信コミュニティの歩み:2002年〜2026年」は記憶優先だったが、今回は調べられることはなるべく調べている。疲れない程度に。
書く予定にあるのは、Ustream、ニコニコ生放送、Justin/Twitch、FC2、Youtube。

思った以上に内容が多くなったため、配信サイトごとに投稿していくことになった。
今回はUstreamについてまとめている。

思えば現在どのような形で残っているのか知らないままだった。UstreamCheckerに張り付いて、お気に入りの配信者が高画質でゲームをしているのを眺めていたあの時間。私たち視聴者は無料であることを当然のように受け入れていた。
しかし、その裏側で動いていた金額は、想像を絶するものだった。
今回のリサーチは、あの頃の楽しかった記憶を、あえてコストという冷徹な数字で答え合わせしてみようという試みでもある。

2.Ustream 2007年~2015年

2007年~2015年:Ustream。運営米Ustream / Ustream Asia
この時代、運営は米UstreamとUstream Asiaだった。
ソフトバンクが出資をした時代でもあり、孫正義が期待していた発言も見て取れた。
ターゲット層は個人と一般企業であり、収入基盤は配信からの広告だったようだった。

2007年〜2010年。
当初、米Ustreamは誰もが無料で放送局になれるという理想を掲げ、プレロール広告、動画開始前の広告を主な収益源とするC2Cモデルで急成長した。
収益体系は 基本無料。視聴者が増えるほど広告収入が増えるという、現在のYouTubeに近い。
日本市場の誤算があったようだ。2010年にソフトバンクと共にUstream Asiaを設立した際、日本の極めて高い回線コスト(帯域費)が壁となったようだった。広告単価が数円の世界で、配信コストがそれを上回る『見られるほど赤字』という構造的な矛盾を抱えながらのスタートだった。

2011年〜2015年。
2011年の東日本大震災での活用など、社会インフラとしての地位を確立する一方、経営の帳尻は合わなくなっていった。
その中で課金モデルの試行を行う。 広告だけでは回線費を賄えず、チケット制や月額315円のプレミアムメンバーを導入。しかし、ニコニコのような熱狂的な課金コミュニティは育たなかった。
徐々にUstream Businessなどの法人向け有料プランへ注力するようになる。
ソフトバンク自身が広告塔となり、決算説明会(第34回~第36回)に採用するなどしたが、安定性やカスタマイズ性を求める企業ニーズに対し、C2Cベースのシステムでは限界が見え始めた。

余談
招集通知PDFには株主総会の模様をUstreamにてライブ中継をする旨が記されていた。もう過去ライブの録画を見ることはできない。
第37回以降からはBrightcoveが使用されていた。これらを使用している回は録画を見ることができる。

3.Ustream 2016年~2017年

2016年~2017年:Ustream(IBM傘下)。運営IBM(Watson Media)
2016年1月、IBMがIBM米Ustreamを買収。
2016年2月、ソフトバンクがUstream Asiaを解散。ソフトバンク系統のTVバンクがUstream Asiaを吸収合併。
一般向け動画サイトとしてのUstreamは事実上終わりを迎えた。
Ustreamは楽しむための場所ではなく、企業の生産性を上げるためのツールへと変化していくことになる。
2017年にはブランド名がIBM Cloud Videoへ統合された。

4.IBM Cloud Video 2017年~2018年

IBM Video Streamingへの移行期間。
この期間に無料ストリーミングを終了し、無料アカウントのすべてのビデオはアクセスできなくなった。
視聴者が触れる機会はもう全くなかった。

5.IBM Video Streaming 2018年~現在

現在の料金体系は、かつての無料モデルとは対極にある、完全なB2Bサブスクリプション体系になっている。
かつて無料で使えたなんて思えない料金体系になっていて驚いた。
企業の生産性を上げるためのより高価なツールへと変化していた。

料金体系(税別 月額)
ビデオストリーミング: 社外・一般向け。プロモーションや公開IR用。
シルバー/ゴールド/プラチナ:2.4万円/12.3万円/ 24.7万円
エンタープライズ版ビデオストリーミング:社内限定。SSO連携やAI(Watson)による検索・学習機能。
シルバー/ゴールド/プラチナ:14.3万円/35.8万円/ 89.5万円

6.推計資料 配信設定等

詳しくないので誤りがあったら訂正します。
あくまで後述する計算用の参考資料として。
ライブ配信1時間あたりのデータ転送量(1人あたり)
画質設定720p、ビットレート4,000 kbps、約 1.8 GB/1時間
画質設定480p、ビットレート2,500 kbps、約 1.1 GB/1時間
画質設定380p、ビットレート1,000 kbps、約 0.45 GB/1時間
Ustreamが人気だった2011年頃の話。
2011年頃の配信だと360pが通常。480pで高画質だったと記憶している。
高音質を求めるものはビットレートを1Mbpsにするものがいたらしい。

7.推計 配信サイトのコスト

配信サイト側が負担している費用についてです。
帯域コスト、サーバー代、CDNの3つらしい。
2026年と、Ustreamをなじみ深い年の2011年を比較したいと思う。
2026年はクラウド全盛期で転送量1GBあたり数円〜10円程度。
2011年は1Mbpsあたり月額◯円という帯域課金が主流だった。
2011年の帯域相場(日本国内): 1Mbpsあたり 約10,000円〜20,000円 / 月(データセンター利用時)
転送量換算(1GBあたり): 推計 約100円〜150円
2026年の転送量単価が1GB = 10円程度だとすると、2011年は10倍〜15倍のコストがかかっていた計算になる。
1配信あたりのコストはどうなるのかをシミュレーションしてみる。
前提資料を基に計算。
2026年のコスト
・720p / 6時間: 10.8GB × 1,000人 = 10,800 GB(約10.8TB)
コスト:約 194,400円
(1時間だと 約 32,400円)
・480p / 6時間: 6.6GB × 1,000人 = 6,600 GB(約6.6TB)
コスト:約 118,800円
(1時間だと 約 19,800円)
・360p / 6時間: 2.7GB × 1,000人 = 2,700 GB(約2.7TB)
コスト:約 48,600円
(1時間だと 約 5,400円)

2011年のコスト(帯域課金)
・720p / 6時間: 10.8GB × 1,000人 = 10,800 GB(約10.8TB)
コスト:約 1,944,000円~約 2,916,000円
(1時間だと 約 324,000円~約 486,000円)
・480p / 6時間: 6.6GB × 1,000人 = 6,600 GB(約6.6TB)
コスト:約 1,188,000円~約 1,782,000円
(1時間だと 約 198,000円~約 297,000円)
・360p / 6時間: 2.7GB × 1,000人 = 2,700 GB(約2.7TB)
コスト:約 486,000円~約 729,000円
(1時間だと 約 81,000円~約121,500円 )


2011年、私たちが無料で楽しんでいた1時間の高画質配信の裏側では、運営側が数万円から十数万円の持ち出しをしていたことになる。
もし 1,000人 が同時に6時間視聴した場合、運営側はたった一つの配信のためになら約48万円~約170万円 のコストを支払っていたことになる。
視聴者数が100人だったとしても約4万円~約17万円くらいかかっていたと考えるとかなりの高コストである。
これに対し、2011年のプレロール広告、動画前の広告の収益は1再生あたり数円程度。
これがUstream、Ustream Asiaが直面した『見られるほど赤字』の正体のようだ。
ニコニコのように課金の仕組みがないとどうしようもなかったのも頷ける。

8.おわりに Ustream編まとめ

Ustreamの歴史は、無料の裏側に潜む巨大なインフラコストを、誰が払うのか?という問いへの回答の歴史でもあった。
初期は広告主が払うと期待したが、日本の高額な回線費には足りなかった。
中期は視聴者、ファンに払ってもらおうとしたが、文化として定着しなかった。
現在はセキュリティとAI利便性を求める大企業に、高額な利用料として負担してもらうことで、ようやくビジネスとしての帳尻を合わせた。
2026年の感覚では10万円強で済む480p/6時間の1,000人同時視聴配信。
しかし、帯域単価が2026年の10倍〜15倍した2011年は、たった1回の配信で100万円から180万円近い回線代がプラットフォーム側に請求されていた計算になっていた。
1,000人が楽しむ裏側で、軽自動車1台分が消えていく。広告収益でこれを取り戻すのは、物理的に不可能だった。
当たり前の話になるが、無料で使えるサービスなんてどこにもないということがわかった。

訂正・更新

2026.03.23
文章が統一されていなかったため確認し修正。
IBM Video Streamingの金額体系について明記するように変更。

いいなと思ったら応援しよう!