短編小説「外面がいい」⑦〜共犯〜
「嫌い」で人は繋がれる?
<これまでと今回のあらすじ>
メディアでは黄色い衣装の陽気な芸人の雅也は、普段は口数が少ない。
妻の詩織は彼が何を考えているのか分からなかったが、人気お笑い番組「ヒルトーーク!!」の「奥さん大好き芸人」の回に出演した雅也の本心を知ることとなる。
一方、人気芸人の雅也のことが好きになれない理子は、共感できる意見を探し求めて苦しむ。マッチングアプリで会ったトモユキに、「雅也が嫌い」だと告げられて驚いたのだった。
1つ前の話はこちら↓
今までの話はこちら↓
「外面がいい」⑥〜共犯〜
雅也が嫌い。
私がさっきまで欲しがっていた言葉。
なのに、いざ差し出されると、つかんでいいものか迷ってしまう。
恐る恐る尋ねた。
「実は、私もそんな好きじゃないんだけど…どうして?」
「何かさ、あの人はTVが売り出したい、いい人を演じてるに過ぎないんだよね。」
なるほど。
その言葉だけでトモユキの言いたいことが半分くらい分かった。
でも、どう言葉を継げばいいのか…。
他のテーブルから、コーヒーカップとソーサーが擦れる音が聞こえる。
「今ってさ」
黙ってる私に切り込むように、トモユキは言った。
そして、語り出す。
「あんまり、言えないんだよ。色々。
っていうかさ、今まで、お笑いっていうのは、絶妙なバランスの上に立っていたと思うんだ?良いものと悪いものの丁度隙間にいて、細い針の上を歩いているような、言葉のサーカスだった。俺はそういうお笑いがすごく好きだったんだよ……..あっ、黒糖……僕もです、わぁ美味しそう、すみませんありがとうございます。」
紺色のエプロンをした店員が黒糖バナナラテを2つテーブルに置いた。
私は軽く店員に会釈をして中断されたトモユキの話を待つ。
「それを….まあなんというか、そういう芸だと分かってない奴らがさ、傷つくだとか傷つけないとか、いじりはいじめだとか、悪口は良くないとか、子どもが真似するからとか….その、引きずり下ろそうとしてるわけ。」
「うんうん….それで?」
「あの人は、雅也は、その象徴というか、そういう人たちに好かれる芸人なんだ。丁度良いんだよ、TVにとって。」
見た目は奇抜だけど、理知的で、場も回せて、誰も傷つけず、奥さんも大事にしてる。そういうのが、つまらないんだよ。と、トモユキは言った。
ネットの海に溺れていた私の周りに、地図が浮かび上がってきた。
それでも、だからこそ、あえて聞く。
「それって、彼に対する嫉妬とかじゃなくて….?」
「ひどい!違うよ!違うっていうと…余計怪しいけど、いや、まあそれもあるかもしれないけど…。」言いながら、トモユキはちょっと笑う。
「理子さんは、どう思ってるの?」
「私はね。トモユキ君…で良いかな、ああうん、トモユキ君、と同じ意見か分からないけど、フェアじゃないな、と思ってるんだ。」
「あぁね。」
「多様性って言いながら、一方の意見しか認めない風潮が、なんか嫌なの。好きもいていいし、嫌いもいていい。あの人は、嫌いな人が認められない感じがして、どこが嫌いというわけじゃないんだけどさ、なんか、苦しいんだよね。」
私がTVの中にいる雅也に何かされたわけではない。
全然、今後の私の人生にもおそらく関わらない人だ。
それなのに、ネットの意見が、世界の意見に見えて、なんだか苦しかった。
共感できる意見を探せば探すほど、迷い込んでしまっていたのだった。
初めてそれを他人に対して話した。
初対面だからこそ、話せたのかもしれない。
トモユキを前にしている自分は、なんだかいつも以上によくしゃべる。
トモユキが共犯者のように、ニヤリとする。
「でさ、アンチコメント探しちゃうんでしょ?」
「そうそう、朝ずっとそれやってた!」
「うわっ!相当性格悪いぞ、この女は!」
「自分だって!」
軽い言葉の応酬を交わして2人で笑った。
今までマッチングアプリで会った人とは、当たり障りのない話で終わってしまっていた。
それは、私自身が「性格良く見せなければならない」と思い込んでいたからかもしれない。
トモユキの前なら、性格が悪くても構わない。
そう思えた。
ただ、一つ引っかかることがあった。
考えていると、つい口に出てしまう。
「嫌い、で繋がるのは、ちょっと癪だよね…。」
トモユキも同じことを考えていたようだ。
「そうそう、一生、彼に感謝しないといけなくなるしな。」
「一生」など、急にドキッとすることを言う。
気にしない振りをして話を続けた。
「悪口でつながるのって、なんか不健全だよね…好きな芸人さんとかいないの?」
聞けば、トモユキは好きな芸人に最近出会えていないのだと言う。
その後、お互いの毎日のことや仕事のこと、マッチングアプリあるあるなど一通りのことを話してカフェの会計を済ませた。
13時に入ったはずなのに、もう夕方近くである。
「次のM-1で、お気に入りを見つけよう!」と約束して、その日は別れたのであった。
〜つづく〜
たねあかし
登場人物の名前の由来
アンチの物語を書くにあたって、同じ名前の方がいたら気を悪くしないだろうかということが心配になったので、それぞれの登場人物の名前の由来をお伝えしておきたい。
雅也:AIが考えた。内向的な優しさがありそうなので採用。
詩織(雅也の妻):文学研究してそうで、「織」という字に丁寧さが表れている。また、「シオ」というニックネームで呼ばれることで、「小さく、白い」雰囲気が出て、年下味が増して尊いと思ったから。
理子:フェアさ、や世の中の「理(ことわり)」を重んじている真面目なキャラだから。また、現代っぽい名前の響きもある。
トモユキ:マッチングアプリをカタカナで登録していて、まだどんな漢字が聞けていない。5ちゃんねる創設者で論破王、「ひろゆき」の弟分みたいなキャラにしたかったけど、店員さんにも丁寧ないい奴になってしまった。
いいなと思ったら応援しよう!
チップのご検討、ありがとうございます。
3歳児を育てつつ、スキマ時間に創作を続けています。
いただいたチップは、家事の時短や創作時間の確保に使わせていただき、より楽しい文章をお届けする力に変えていきます。応援が本当に励みになります。