ワンダー京都に迷い込む異世界旅
ワンダー京都への招待状
ある日、旅仲間から「京都の映画のまちに古墳があるんですけど誰か一緒に行きませんか?」というお誘いと一緒に不思議なリンクが送られてきた。
古墳? 巨石? ほんとに京都?
思わず3度見、4度見してみる。
気になる! 気になりすぎる!
秒で参加することを決意。はやる気持ちを抑えつつ、梅雨真っ只中の京都へと向かった。
1.ワンダー京都を歩く〈蛇塚古墳〉
JR太秦(うずまさ)駅に集まったのは、全国各地の旅仲間約8名(途中参加、途中離脱などで人数変動あり)。

「太秦」という地名の由来だが、「太」は拠点を意味し、朝鮮半島から渡来した秦氏(はたうじ)の拠点(=「太」)ということで、「太秦」となったそう。
※この秦氏、この後ずっと登場するので頭の片隅に置いといてください。
JR太秦駅を出発し、大映通り商店街を抜け、歩くこと15分弱。
ごくごく普通の住宅街が続く。
こんなところに古墳が??と、キョロキョロしながら歩いていると…

ん? もしかして…。
住宅街のどん詰まりに、何やらこんもりと草木に覆われた塚のようなものがある。正面に周ってみると、

大迫力の巨石が積みあがっている。 古墳というより、まるで岩船のよう。巨石信仰による祭祀場のようにも見える。
事前に許可を取れば中にも入れるそうで、古墳の目の前に住んでおられる「蛇塚古墳保存会」の方にお願いして鍵をあけていただいた。

何か説明があるのかと思いきや、おじちゃんは「終わったら鍵閉めてね~」とゆるーい感じで言い残し、去って行った。
国指定史跡なのに無料。
国指定史跡なのに見学自由。
これだけでも冒険感があり、かなりテンションがあがる。

鉄筋で支えられた石室の入口をくぐると、巨石に囲まれた不思議な空間が広がっている。

「蛇塚古墳」の名前は、石室内に蛇が多数生息していたことに由来するそう。「インディージョーンズやん!」と言うメンバーの言葉に、「たしかに! 」と頷く一同。ピンと来ない方のために説明すると、映画「インディージョーンズ」1作目の『失われたアーク(聖櫃)』の中には、毒蛇がうじゃうじゃいる地下神殿が出てくる。

秦氏の最高権力者・秦河勝(はたのかわかつ)の墓とされているそうだが、重苦しい感じはなく、あっけらかんとした感じがする。日常と切り離された不思議な空間で、なんだかUFOがふらっと遊びに来そう。
大勢でわいわいしていたせいか、近所の方に「見学の方?」「中には入った?」と気さくに声をかけていただいた。それにしても、自分の家のそばにこんな不思議な遺跡があるって、どんな気分なのだろう。すっかり生活の一部になっていて何とも思わないのか、それともぼーっと眺めつつ物思いに耽ったりするのだろうか。
「こんなに大きな石を運んでくるなんて秦氏っていったい何者? 」という疑問を持ちつつ、次のスポット「広隆寺」へと向かった。
2.ワンダー京都を歩く〈広隆寺〉

鉄道ファンにはおなじみの撮影スポットなのだとか。
次に訪れたのは、徒歩10分ほどの場所にある「広隆寺」。ワンダースポットというには、失礼すぎるほど有名な寺院である。「広隆寺」といえば、『弥勒菩薩半跏思惟像(はんかしいぞう)』。30年以上前の日本史のテストの記憶が、未だに出てきてしまうとは。恐るべし、日本の受験教育。

「広隆寺」は、秦氏の氏寺※で、「四天王寺」、「法隆寺」と共に聖徳太子建立の日本七大寺の一つといわれている。秦氏は、日本の発展に大きく貢献した渡来系氏族で、聖徳太子と主従関係を結んでいたのだそう。秦河勝(先ほども出てきた)が太子から賜った仏像が、国宝第一号の『弥勒菩薩半跏思惟像』といわれている。
※氏寺…飛鳥時代以降、特定の氏族により、一門の冥福と現世の利益とを祈るために建立され、信仰された仏教寺院。

境内にある「新霊宝殿」には、たくさんの国宝や重要文化財が安置されているが、その中でも、やはり『弥勒菩薩半跏思惟像』の佇まいは別格である。その周りだけ空気が柔らかく穏やかで、心がすーっと凪いでいくような感じがする。特徴的なのは、なんといっても有名な「アルカイックスマイル※」。目線をさげて静かに微笑む表情は、天界から人類を優しく見降ろし、地上で起こるすべてのことを受容しているように見える。「人間だけじゃなくて、仏像にもオーラってあるんだ」と時が経つのも忘れ、しばらく見入ってしまった。
※アルカイックスマイル…古代ギリシア のアルカイク美術の彫像に見られる表情。顔の感情表現を極力抑えながら、口元だけは微笑みの形を伴っているのが特徴。
3.ワンダー京都を歩く〈蚕ノ社〉

「広隆寺」から徒歩約10分の場所にある「蚕ノ社(かいこのやしろ)」。正式名称は「木嶋坐天照御魂神社(このしまにますあまてるみたまじんじゃ)」。とにかく名前が長い。
本殿の東隣にある「養蚕神社(こかいじんじゃ)」は、秦氏がもたらした養蚕、織物、染織の祖神を祀っているとされ、これまた秦氏が関係している。地名、古墳、寺、神社。これだけあらゆる角度から秦氏の名前を耳にすると、この土地において秦氏の影響力がいかに大きかったかを思い知らされる。
私的に、ここはかなりのワンダースポットだと思っている。まず、電車通りから少し入っただけなのに、不浄なものがすべて別空間に吸い込まれているのではないかと思うくらい静かなのだ。何かが息をひそめて私たちの様子を窺っているような気配。嫌な感じではないが、遠くからじーっと見られているような気がする。
そんな「蚕ノ社」の見所のひとつが、「三柱鳥居(みはしらとりい)」である。三つの鳥居を組み合わせた珍しい形体をしており、四方より拝することが出来るよう建立されている。中央の組石は神座となっており、さらにその頂きに御幣が立っている。宇宙の中心を表わしているというのもうなずけるくらい不思議な空間である。ちなみにここは禁足地となっており、鳥居に近づくことはできない。

鳥居のあたりには、「元糺の池(もとただすのいけ)」と称する泉があり、かつては水が湧き出ていたそう。
摩訶不思議な「三柱鳥居」に見入っていると、「なんか怖い! 」と言う声とともに、本殿に向かって左側の狛狐の奥からメンバーの1人が飛び出してきた。奥にある祠が怖いのだという。

行ってみると、2,3人が入れるくらいのスペースの石室にお稲荷さんが祀られている。「白清社」と書かれた祠は昼間なのに薄暗い。「石で作られている祠なんて珍しいなぁ」と思いつつ、祠内に入ってみると、強い圧を感じ、私も反射的に祠内から飛び出てしまった。説明が難しいが、「落ち着く」とか「心地よい」という空間ではなく、かといって心霊的な怖さでもない。感覚的にいえば、一番近いのは「畏怖」だろうか。写真を撮るのも憚られたのか、後から見返すと「白清社」の写真は一枚もなかった。
調べてみると、秦氏の首長一族を埋葬したとされる「天塚古墳」を発掘調査する際に、そこに祀られていた「伯清稲荷大明神」を「蚕ノ社」に遷移したのだそう。夢のお告げもあり、調査後また元の場所にもどされたそうだが、もしかしたら「白清社」にはまだ何かが残っているのかもしれない。
4.ワンダー京都を歩く〈坊主バー「salon&bar SAMGHA」〉
「蛇塚古墳」から始まったワンダー京都旅もいよいよ大詰め。締めくくりは、みんなが楽しみにしていた「坊主バー」である。「坊主バー」というワードのインパクトが凄まじく、事前確認のLINEでも大いに盛り上がっていた。
「坊主バー」と聞いて、私が想像したのは、古びたアパートの和室の一角にあるバーカウンターにいる袈裟を着たお坊さんの姿。裸電球が灯る店内には、小さな音で声明(しょうみょう)が流れ、お香がうっすらと漂っている。バーテンダー兼お坊さんであるマスターが、お客さんの悩みを聴きながら、ありがたい仏法を説く。不定期で開催される「生読経タイム」が人気で、それを肴にみんなちびちびとお酒を飲む、というやけにリアルなイメージであった。もちろん料金は「お気持ちで」というお布施スタイルである。
しかし、旅仲間に案内してもらった坊主バー「salon&bar SAMGA(サンガ)」は、そんな私のイメージをみごとに一新した。

まず、外観からして驚くほどオシャレ。白っぽい外壁は、まるでカフェか、イタリアンのよう。ぱっと見、バーとは思えない。店内も想像以上に広くて明るい。女性一人でも安心して来れそうな落ち着いた雰囲気である。

店名の「SANGA(サンガ)」は、サンスクリット語で❝集まり❞を意味し、「僧侶」のもとになった言葉なのだそう(お店のHPより)。そういえば、京都のプロサッカーチームも「京都サンガF.C.」だったと思い、京都の人にとって、「サンガ」という言葉は意外と馴染みがあるんだろうなぁと勝手に納得してしまった。
団体用のお座敷に通されると、ちらほらと「坊主バー」らしきアイテムがある。


お酒の種類は、ウイスキー、ワイン、ビール、ノンアルコールカクテル、日本酒、焼酎と幅広い。「十二節※」や、「諸行無常」「色即是空」などの仏教用語の名前がついたユニークなカクテルもあり、どんなカクテルなのか想像するだけでも楽しい。
※十二節…中国で考案された一年の季節区分法で、四季をさらに三分して干支に基づく12の節に分けた暦法および占術上の概念。


私は、ジントニックを使ったノンアルコールカクテル(写真左)を頼んだが、甘すぎずさっぱりしてとても美味しかった。
お酒の席が苦手な私でも、「京都に来たらまた来てみたい」と思う素敵なワンダースポットであった。

おわりに

「蛇塚古墳」から始まった京都旅だったが、自分では見つけられない場所や、行くことがない地域に連れて行ってもらい、とても興味深く有意義な一日となった。何度訪れても、京都にはまだまだ不思議な場所がたくさんある。
帰りに街中をぶらぶらと歩いていると、祇園祭のお囃子の練習をしているところに遭遇した。
コンチキチン♪ コンチキチン♪
夜の街に響くお囃子の音を聞いていると、また新たなワンダー京都に誘われるような気がした。
