泥のなかの水葩 #0プロローグ
巻頭詩
泥の中に浮かび
雨に打たれながら咲く
一凛の水葩
藍色の沼から
儚げで
純粋な愛がある

* プロローグ:
やめて!母をそんな目で見ないで!もうやめて!
* 第一章:
淡緑(たんりょく)の初恋 ――白いマフラーの誓い
* 第二章:
薄黄(うすき)の男 ――遅すぎた赤い車
* 第三章:
深青(しんせい)の男 ――安寧の檻、一目惚れの代償
* 第四章:
濃紫(のうし)の男 ――支配という名の甘い毒
* 第五章:
真紅(しんく)の男 ――犬の首輪、官能の十年
* 第六章:
落藍(らくあい)の男 ――四度目の首肯(しゅこう)
* 第七章:
枯茶(こちゃ)の底で爪先立つ ――終わりのない雨
『泥のなかの水葩』 冒頭
(プロローグ)
「やめて!
母をそんな目で見ないで!
もうやめて!」
あの狭く、殺伐とした家の中で、私はいつも喉が千切れるほど叫んでいた。
父親から放たれる暴力のすべてを、
私は怯える母親の前に立ちはだかって、
代わりにその小さな身に受け続けた。
体中に刻まれた青アザの鈍い痛みだけが、
私が母親を命がけで愛した証だった。
すべては、母親をあれほど愛したから。
なのに、その痛みは、
何ひとつ報われることはなかった。
母は私を地獄から連れ出してはくれず、
ただ怯えるだけで、
私の流した血を拭うことさえしなかった。
愛した人に命を差し出しても、救われない。
母が私を置いて出て行った後、
私は初潮を迎えた。
父親は母のいない寂しさと怒りを、
益々激しく私へとぶつけてきた。
一人の男となり、
その指で私の身体まで弄び始めた。
恐怖と怒りと、張り詰めた緊張の支配の中で、
私は悦楽を覚えさせられた。
その冷たい真実が、幼い私の胸の奥に、
決して埋まることのない巨大な空洞をぶち抜いた
大人になり、貧乏を抜け出し、
どれだけ努力して幸せを掴んでも、
安寧な場所にたどり着いても、
私の爪先はいつも床から浮いている。
どれだけ男たちが本気の愛を注ぎ、
私の飢えを埋め尽くそうとしても、
心が満足を拒絶する。
男たちの優しい愛を知れば知るほど、
脳裏にはあの痛みに耐えた夜と、
親への消えない憎悪が逆流してくるのだ。
「なぜ、
あの人は私をこうして愛してくれなかったのか」
だから私は、私を愛する男たちを、
父親への復讐のように、
母親への当てつけのように、
憎み、裁き、切り捨てていく。
美しい純粋な愛が、醜いほどに貪欲に、
この身体の中で渦巻いている。
男たちの残骸を置き去りにして、
私はまた孤独という檻のなかでもがく。
それでも、
私の目は次の獲物を探して光っている。
すべては、
母親をあれほど愛したあの日に始まった。
私の人生は永遠に、
あの報われなかった痛みのなかを
回り続けている。
さあ、次の雨が降る。
この物語に、LèRê(@アカウント名)が美しいテーマ曲を添えてくれました。
泥の底から見上げるような、繊細で、どこか救いのある旋律。
音と一緒にこの藍沢澪の感情物語の
波に乗って感じてみてください♪′
#恋愛小説#創作物語
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