[連載小説]第六話 犬だけど何?野良犬の俺がホームレスのアイツに出会ってスミカをゲットする話⑥
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第六話 ソラの夢への一歩
ガレージの壁の高い所にある小さな窓からは、まぶしい朝の光が注いでいた。
朝日に俺が目を覚ますと寅造じいちゃんは、もうすでに起きていた。ストーブで沸かした湯を注いで、コーヒーを飲もうとしている所だった。
ソラはまだ眠っていた。
じいちゃんはコーヒーを飲みながら、昨夜、源じいちゃんが渡していた紙に目を通しだした。
ストーブの湯気はゆらゆらと上がっている。あのもくもくを見ると、なぜか落ち着く。
ソラが目を覚ました。
「おはようございます」
「起きたか。お前にもコーヒー入れるな。砂糖入れるか?」
ソラは首をふると、寅造じいちゃんは、そのままカップを渡した。
「その菓子パンもゆんべ『朝の分な』って源ちゃんが置いてったから、それも食おう」
寅造じいちゃんは自分の分のソーセージパンを半分ちぎって、俺に向かって言った。
「お座り!」
俺は「俺のイヌ生史上最高」のお座りをした。俺のお座りを見たじいちゃんは、俺の皿にパンを置いた。
「まだだ、待て…」
俺が背筋を伸ばして、じっと寅造じいちゃんを見つめていると、
「よし!」
じいちゃんの言葉で、俺はパンにパクついた。
「ああ、群れでいる、何とも言えない安心感。俺はこの空気が大好きだ」
そして、今度は、その深い紙皿に牛乳を入れて、お湯を注いだ、ちょっと薄いけど温かいミルクを入れてくれた。
寅造じいちゃんは、しばらく黙っていたけど、ちょっと視線を上げて言った。
「おら、決心した」
ソラと俺がじいちゃんを見ていると、じいちゃんはさらに言った。
「前から相談員さんが、弁当配布する時言ってた。あそこに行く!」
そう言って、源じいちゃんが置いていった紙をソラに渡した。
「おらよ…自分の事、あぎらめてたんだ。けんどよ、お前たち見て、考えたんだ。もったいないって。人生あきらめんの、もったいないって…」
じいちゃんは、ゆっくり、言葉を続けた。
「お前、若いんだ。夢あぎらめんな。ミュージシャンやんの、まだ、あぎらめんな」
そう言うと、じいちゃんは、残りのコーヒーをゴクゴク飲んだ。
「おらよ、人にそう言っておらが、あぎらめてたら、説得力ないからよ。相談員さんからこのパンフレットもらったって源ちゃんが渡した時は、オラ、『いらねー』って、つっぱねてたんだけんど、これ行く」
ソラは、その”パンフレット”を見ていた。
「このまんまじゃ、仕事も行けねーけど、シャワー浴びるサービスもあっからって言ってたんだ。そいで、とりあえずの服もくれてよ。部屋も探してやっからって…そして仕事も相談員さんと探せるんだ。こんな、じいちゃんにも、そんな話あんだ。お前は、まだ若えから、いっぱいあるってよ、仕事。そいで、金貯めながら生きていけば、音楽やれる時がくるかもしれねー。コロナもずっとは続かないだろ」
ソラは黙って、パンフレットに目をやっていた。
その時、ガラガラっと音がして、シャッターが開くと薄暗かったガレージにまぶしい朝の光がドッと入ってきた。
「寝られたか?寅ちゃん。寒かったな…昨日は吹雪までなって。来てくれて良かったよ。雪ん中、寅ちゃんどうしてるか、おら、気が気でなかったんだ。そう言えば、昨日は名前も聞かなかったけど、その子は、なんてんだ、名前」
「ソラです。昨日はありがとうございました。ご馳走様でした。弁当もパンも」
「いいんだ、いいんだ。寅ちゃんの両親、おらたち一家の命の恩人なんだ。親父の会社倒産した時、身投げしようとして、おら達を連れてる時、助けてもらったんだ。おらは、ちっちゃかったから、ピンと来てなかったけどな。で、寅ちゃんのところの離れ貸してくれて、おばちゃんが、ご飯とかいつも食わしてくれてよ。その後、今度は、父ちゃんの仕事も世話してくれてよ。何とか、生きて来たんだ。奨学金で、学校行って、今、こうしてっけど、本当に、寅ちゃんの両親いなかったら、おらの息子も孫もいなかったんだ」
「源ちゃん、おら、これ行ってみる」
「そうか。よく決心したな。一度で決まらなかったら、しばらくここに居ていいんだからな、遠慮すんな」
「ありがとうな」
「わんちゃん、孫がアレルギーあっから上は入れられねぇけど、ガレージでなら置いてってもいいぞ」
「いや、こいつは連れて行きます」
「そうか…ああ、そう言えば、昔、犬、飼ってた頃のリードがあるぞ…つけてけ。孫がアレルギーで人に譲って手放したんだけど。そこらに…あった、あった!役所とか行く時、そのままじゃあ、ダメだろ。その間、ここ置いてってもいいからな」
そう言って、俺にそのリードをつけてくれた。
誰かの家族、と認められた誇りが、どこからか湧き上がってきて、なんだか胸のあたりに、温かい気持ちが広がった。
第7話に続く
第7話
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