[連載小説]第三話犬だけど何? 野良犬の俺がホームレスのアイツに出会って すみかをゲットする話③
第三話 雪の公園でアイツに会った
雪は、夜更けまで続いた。
何時間も雪の上を走った足はしびれて、次第に感覚がなくなってきた。
このまま、どこかで横になって寝たい。
眠りそうになったけど、こんな中で寝たらいけない。
ばあちゃんがパトラッシュっていう犬がでるアニメを見ながら言ってた。
「寒い中で眠っちゃいけないよ、凍死しちゃうから。
こんな時はがんばるんだ。
朝になったらお日さまが上がって暖かくなるから…」
あの時ラストシーンを見て涙もろいばあちゃんは、そう言いながら泣いていた…
思い出すと悲しくなってきた。
ばあちゃんも、がんばっているはずだ。
ばあちゃんのために、俺も生きのびるんだ!
よし、どこか今夜すごせる温かい所を探そう。
たくさん走って喉もかわいたから、道路の脇に積もった雪をパクッと食べた。冷たすぎて、お腹の中が冷えてしまった。
この辺りの匂いは嗅ぎ覚えがあるぞ…ここは健太が車で連れてくれた公園の近くの匂いだ。
あの公園に行ったら寝られる場所があるかもしれない。
俺は、また歩き出した。
公園に行くと、軽トラが見えた。
その荷台にはホロがついてて、下の方にスキマがある。
「よし!あそこに入って眠ろう」
俺は、その車に飛び乗ると焼いた肉のニオイがした。
「あれ?カラカラになった、干し肉が、転がっているよ!」
ウインナーも数本。俺はそれをパクッと食べた。
すると近づいて来る足音と声が聞こえてきた。男の人だ。
「ほいっ、自販機でホットコーヒー買って来たよ」
「サンキュー!あったけえな」
「にしても、正解だったね。テント閉じて、早めに切り上げたの。まさか、こんな降るなんてな」
「マジ…『軽トラの後ろでもキャンプセット積めばキャンピングカーと変わらないっすネ』とか言ってた時は楽しかったのにな。いつまで続くかね」
「ねえ。それにしてもスノータイヤつけてて、よかったな」
「それな」
俺は、キャンプセットの横に、ひざ掛けを見つけた。それは、ばあちゃんが掛けてくれたのと、同じ肌触りだった。
車は、シャリシャリと音を立てて、走り出した。俺は荷台でひざ掛けに、くるまって、いつのまにか眠ってた。
目を覚まして、隙間から外を見ると、そこら中が真っ白になっていた。見回すと向こうには、でっかいビルがそびえたっていた。朝日がまぶしい。
「何とか、着いたね」
「とりあえず事故らなくて、よかった。ここの取り付け作業終わったら、早めに帰ろうか」
「うん。夜また、凍結するかもしれないしね」
男たちが後ろに来る気配がした。
俺は、気がつかれないうちに、その車からヒョイって降りた。
広い公園の周りには、たくさんの高いビルがあった。ばあちゃんの家の付近とは、景色がまったく違う。都会のビルは、ばあちゃんの近所のマンションの何倍もデカい。二個同じ高さのビルが並んで建って、つながったのもある。
「おや?公園の向こうの端からいい匂いがするよ」
美味しそうな匂いにつられて俺は歩いた。人が長い行列を作って並んでいる。その先には、白い湯気の上がる、でっかい鍋があった。
「ありがたいな。今日みてえな雪の日に炊き出しは、しみるね」
「ガード下も、この雪ではね。昨夜は凍死するかと思ったよ」
「ほんと、寒かったな」
「白飯に豚汁、うめぇな」
「たくさんは、ありませんけど、あったまってくださいね。あちらにお茶もありますから」
匂いを嗅いでいると、なおさら俺の腹は空いてきた。
「グゥー」と、腹の虫が鳴く。
嗅ぐのも、つらいから、ちょっと離れた風上の方のベンチの所に行って、ベンチの下の雪のない所で目を伏せて、丸まって寝た。丸まってシッポにクルンと顔を埋めたら鼻先があったかいし安心するんだ。ママと一緒にいた時みたいな気分なのかも…。
しばらくすると向こうからトレーを持った健太くらいの年のやつがやってきた。
そいつは「俺のベンチ」に座って食べ出した。
「せっかく、匂いのこない所に来たのに、よりによって。俺の横で食べやがって」
俺は独り言で、「クゥン」と声を出して、ため息をついた。
すると、そいつが、
「ホイっ、お前も食え」
チラッとそいつの方を見ると、そいつはベンチの下をのぞきこみ、食べ終わった豚汁の入っていたスチロールカップにご飯を分けて、さっきの豚汁に入っていた豚肉を三切れのっけて、俺の前に差し出した。
「ありがとう!いいの?」
俺は心で礼を言って、パクパクとそれを平らげた。
「こんな、雪の日にこんな所にいるなんて、お前、野良犬か?」
野良犬…?初めて聞く言葉だった。
「オレと一緒だなぁ…」
寒さと空腹で鼻が鈍ってたけど、コイツは、ばあちゃんや健太と同じ、犬好きの匂いがしてる。
「オレさ、ミュージシャン目指してたんだ。飲食でバイトしながら。ボイトレとか行ったりしてさ…」
コイツも、健太やばあちゃんと同じ様に、当たり前のように、俺に話しかけてきた。
「でも、コロナでさ、バイト先つぶれて、アパート代滞納して、そこ出て、ネカフェに居たんだ、それでバイトで食いつないでたんだけど、ネカフェも泊まれなくなったじゃん…で、とうとう、ホームレスよ」
俺はむくって起きて、顔を見ながら、そいつの話を聞いた。
そいつは俺にくれたトレーに、自分のペットボトルから、お茶を注いだ。
「ほいっ。飲め。まだ、温かいぞ」
ペチペチっと、音を立てて飲んだ。お茶は、ばあちゃんがいつも飲んでたけど、俺は初めて飲んだ。お腹が温かくなって体もあたたまった。しっぽも動くようになったから、俺はお礼を言いたくて、ブンブンと回した。
「美味かったか?」
俺は思わず、つぶやいた。
「…そう言えば、さっきの話だけど、ばあちゃんの見てたドラマとなんか、似てる。そんな時は食堂の外の『バイト募集』の張り紙はがして、バイトさせてもらうんだぜ。住み込みでさ」
そしたらさぁ、ソイツが返してきた。
「バカだなぁ。今どき、このコロナで飲食店、つぶれる店だらけなのに、住み込みバイトなんてないさ」
「え?コイツ、俺の話、わかるの?」
「そう。オレの特殊能力!」
そう言って、そいつは得意げな顔をした。俺が、そいつを見て驚いていると、
「お前、名前何て言うんだ?」
と、俺に聞いてきた。
実は飼われて半年以上経つのに、うっかりものの、ばあちゃんは、俺に名前をつけてくれてなかった。まあ、名前呼ばれ無くても、俺はいつも、ばあちゃんのそばにいたから。
もしか、あれが名前?ばあちゃんが見守りの人の車が来る前、逃げてと言ったとき、俺を呼んでくれたイ、ヌ、って言葉。
そうだ、そいつに答えてやった。胸を張って。
「イッヌッ!」
「お前、そりゃ犬だけどさ。で、名前は何だよ」
「『イヌ』だけど、何かまずい?」
俺はちょっと眉間にシワを寄せて、そいつをにらんで言った。
そいつは、ゲラゲラ笑ってる。
どうやら、俺はバディを見つける事ができたようだ。
第4話に続く
第4話
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