[連載小説]第四話犬だけど何?野良犬の俺がホームレスのアイツに出会ってスミカをゲットする話④
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第四話 高架下のヒエラルキー
「お前、ゲラゲラ笑いやがって、俺にばっかり名前聞いてきて、お前の名前は言わないのかよ」
「いやいや…ごめんて……ああ、面白かった。おれはソラだよ」
「ソラって、あの?」
俺は鼻先を上に向けて言った。
「そう!その空」
そう言って、ソラは「空」を指差した。
空を見上げると、雪はやんで青く晴れ渡っていた。朝の日差しは、街全体に積もった雪に反射してまぶしかった。でも、溶けてきたせいか、降っている時より温度は下がっていた。だけど、ソラのくれたご飯とお茶のおかげで、夜よりずっとあたたかくかんじていた。
俺はそれから、地面で朝のルーティンをした。まずは一回体をブルブルっとふるわせた。次は、ちょっと前足?を伸ばして、しっぽを高く上げた。
いやいや待てよ。やっぱ自分で言った前足は訂正する。手だよなぁ?「お手!」と言われてのせる「手」だもんな。
まあとにかく、右の手と左足、左手と右足をクロスさせて、交互に伸ばす朝のストレッチをした。固まっていた体がほぐれて、しっぽの具合も絶好調だ。
ソラは、
「寒いだろ?」と言って、俺をベンチの上、ソラの横に座らせてくれた。
「で、お前、ホームレスって、これから、どうするんだ?」
「まあな…最初はさ、渋谷とかのネカフェにいたんだけど、いられなくなったじゃん?で、あちこちの炊き出しありそうな所をみつけては、ウロウロして、ここまで来たんだ…」
「ふぅ〜ん…」
「てか、まあ、ホームレスはホームレスで、すでに場所取りの順番があって、いい場所は、取られてるワケよ。先住ホームレスに」
俺がソラの顔を見上げていると、ソラは言葉を続けた。
「高架下のヒエラルキーって言うことかなぁ…」
「スゲー!お前、むずかしいコトバ、さらっと言うなぁ!センジュウとか、ヒエラルキイとかさ。お前、頭いいな」
「え?そこ?ほめられるって、なんか…お前すげーいいやつだな!」
ソラは俺をなでて、言った。
「お前もなかなかにいいヤツじゃないか。さすが相棒。にしても、寒くなる前に今日の寝床探さないとな」
「そうだよな。また降り出したらおれたちヤバいもんね」
そういってソラは不安そうに上を見上げ、ぼそっと続けた。
「…なんかこうしてると、野生動物の気持ちわかる気がするよな」
「動物って、俺ら二匹とも動物だからな!むしろ野生に近い…」
「ははは!まあな~、野生はさすがにやばいけどな笑」
「ああ、アイツらは感心するよなぁ…俺なんて、一晩、ばあちゃんのところからさまよっただけで、もう無理…俺、一匹狼タイプじゃないみたい」
「あ!それちょうど聞こうと思ってたよ。でも昼の間に、今夜の寝る場所を確保しないとだな」
俺らは、新宿の街をてくてく歩いた。
雪の上に二つと、四つの足跡をつけながら。
最初、公園辺りの雪はふかふかだったが、駅に近づくにつれて、周りが足跡だらけになっていくと、雪はシャーベットの様になっていて、一歩進むたびにそれは足もとを奪った。そこをすべらないように、俺らは注意深く歩いた。
俺のはじめて見る都会の街は不思議だった。犬の俺が言うのもなんだが、こんな雪の中、みんな家にいればいいのに…
この新宿駅の辺りには、この雪のせいで、人がごった返していた。ソラが言うには、早朝からの雪除けのセンロセイビのおかげで、ツウジョウウンテンを再開したらしい。こんな日も人間たちは、吠えることもなく誰にかみつくでもなく、静かに何列も列を作って並んでいた。
凍えながら待つ間も、横の人とは会話することもなかった。ただ体を縮めてスマホに目を落としていた。
雪の積もった街で着込んだ人間たちは、それぞればらばらの方向へと向かい、やがて地下に吸い込まれていった。
そんな様子を見ながら、俺は口を開いた。
「家があれば、家にいたらいいのになぁ」
「ほんとにそれだよな…いや俺の心が余計冷えるから、そんな事言うなよ」
「普通の動物ならこんな日、遠出しないよな…俺らは、ねぐら探しているってのに…」
俺らは、人の波と逆行して、駅の陰に向かった。
地下のベストスポットはクラスター対策とやらで、規制が厳しかったから、俺らは寝床を探してさまよった。
高架下にちょうどいい場所を見つけたソラが言った。
「ここいいじゃん」
俺はそこを見た。ダンボールがいっぱい並んでいた。よそでは回収のゴミだが、そこでは、とても貴重な品として置かれていた。
俺にとっても、なつかしい仔犬の頃のねぐらだったダンボール。あれは俺の宝であり城だった。ママや、兄弟犬の匂いの染み込んだ…
ここのは違う。
いろんな人の臭いの染み込んだダンボール。
一緒なのは誰かにとっての城だということ。
「誰もいないな」
「うん。多分みんな炊き出しに行って、飯食ってるのかもな」
「早めに来て、正解だったな」
「そうだな」
「ここらで伏せるか」
そうして俺らが伏せようとした時、
後ろから、だれか人間の吠える声がした。
「お前ら、何してんだ!」
俺らが驚いて振り返ると、五十前くらいの男が俺らをにらんで、こっちに向かってきた。
「そこは、おやっさんの場所だ!ここも、そこも、みんなの場所決まってんだぞ!」
俺は、びっくりして、しっぽを丸く縮めた。
その時、その後ろから、低いしわがれた声が聞こえてきた。
「おお、お前ら、わけぇのに、どっから来たんだ?こだんな、しばれる雪の日に」
振り返ると、七十過ぎくらいのじいちゃんが立っていた。
「おやっさん、コイツら、すぐにどけますんで…おい、お前ら、今日はもう、ここは満杯だから、あっちへ行きな」
そう言って、俺らを追い払おうとした。
すると、すごみのある声で、じいちゃんは言った。
「おい、お前が出ていくか?こんな雪の日に、出て行けたぁ、この高架下は、そんな、仁義の無いところか?」
「おやっさん、すみません。オレはただ…」
「ほれ、これを一枚持っていけ」
そう言って、自分の風よけに使っていたダンボールをソラに渡してくれた。
「さすが、おやっさんは、太っ腹だ」
すると、別の男も口をはさんだ。
「そこの若いヤツ、ワンこうまで連れて、ホームレスか?ここには、ここの掟があるのよ。この真ん中がおやっさんの場所。他も順に場所が決まってんだ。風の当たらない所は、力関係の順番よお。お前ら、あそこの入り口な」
そう言って、入り口を指差した。
それに従って、俺らは、入り口付近に、おやっさんにもらったダンボールを敷いた。北向きだから、道路には雪がかなり積もっていた。そこからの風が冷たい。
おやっさんは、また、こちらをチラッと見て、ソラを手招いた。
「これ、持っていけ。こんな日は新聞を体に巻き付けるんだ。ちったぁ、ましになる」
そう言うと、自分の風よけのダンボールの中に断熱用にはさんでいた、古新聞をバサっと取ると、ソラに渡した。
「おやっさんも、コイツに甘いな。この雪では、しばらく、古紙回収の新聞も湿ってて、使い物にならないから、貴重な新聞を…」
「お前も、よくしゃべるヤツだな。オレは北の出身だから、これくらいの雪、なんてこたぁないんだ。ほれ、何枚かあるから、ワンこうにも巻いてやれ」
「ありがとうございます」
ソラは新聞紙を受け取って頭を下げた。俺も、おやっさんに向かって、しっぽを振ってお礼をした。
「礼儀のわかるワンこうだなぁ。いいしつけを受けていたんだな」
俺は、ばあちゃんに会った時と同じ匂いに安心した。
「あの、おやっさんは、犬好きなんだな」
ソラは俺に新聞紙を巻き付けてくれたら、寒かったカラダが不思議と温かくなった。
俺はソラにくっついて寝た。
向こうから声がした。
「おお、いいなぁ。ワンこうの湯たんぽみてぇだな」
昨日の疲れで俺は眠くなってきた。
長い一日だった…
シッポの感覚がないくらいに冷える。
鼻もカラカラだ。
また外の雪、降り出してきたみたい…
俺はソラにピッタリくっついて寝た。
第5話に続く
第5話
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