「アイデアはいい。でもたらればが多い」新規施策が決まらない理由【新しい成長と既存の強みを分けて考える】
「アイデアはいい。でも、この案件は『こうなればうまくいく』という前提が少し多いな」
会議で、こんなふうに感じることはありませんか。
新しい顧客接点にもなりそうだ。成長の可能性もある。
方向性そのものに、強く反対する理由はない。
それなのに、なぜか決めきれない。
今回の案件も、まさにそうでした。
既存の取引条件を守るために、対象顧客を限定する。
現場での判断を追加する。
さらに、別部署に「この形で対応可能か」の承認を求める。
一つひとつには理由があります。
しかし、話を聞くほど条件が増え、回避策が増え、関係者が増えていきました。
そして私は、もう一つのことを考えていました。
「一つの施策の中に、違う問題が混ざっているのではないか」
提案そのものが悪いわけではありません。
新しいことに挑戦する。
これまで接点のなかった顧客に近づく。
既存のやり方だけでは取れなかった成長機会を取りに行く。
方向性としては、むしろ前向きです。
しかし、その施策は、これまで自社が大切にしてきた取引条件に触れていました。
その条件は、単なる社内ルールではありません。
これまでの強みを守るための条件であり、他社が簡単に入り込めない構造の一部にもなっていたものです。
だから、簡単には外せない。
一方で、その条件をまったく変えなければ、新しい施策は進みません。
新しい成長は取りたい。
でも、既存の強みは失いたくない。
この二つを、一つの施策の工夫だけで同時に解こうとしていた。
そこに、今回の難しさがありました。
既存ルールは、ただの制約ではない
新しい施策を進めようとすると、既存ルールは邪魔に見えることがあります。
「このルールがあるから進められない」
「もっと柔軟に考えればよいのではないか」
「昔からの条件を、今も守る必要があるのか」
そう感じることはあります。
実際、環境の変化に合わなくなったルールもあります。
昔は意味があっても、今では成長の妨げになっている条件もあります。
ただし、既存ルールは、単なる制約とは限りません。
そのルールによって、守られてきたものがあるかもしれないからです。
顧客体験。
ブランドの見え方。
収益性。
取引先との関係。
現場のオペレーション品質。
安易な価格競争に入らないための境界線。
大事なのは、ルールそのものと、ルールが守ってきた価値を分けることです守るべきなのは、必ずしも今のルールそのものではありません。
そのルールが守ってきた価値です。
たとえば、顧客体験は守る。
ただし、提供方法は変える。
ブランドの信頼は守る。
ただし、取引条件は見直す。
収益性は守る。
ただし、価格やサービスの組み合わせは変える。
現場品質は守る。
ただし、承認の手続きは簡略化する。
こう考えれば、既存ルールを守るか壊すかという二択から離れられます。
新しい施策を進める時に、最初に問うべきなのは、
このルールは、何を守るために存在しているのか。
ということです。
守る価値が分からないままルールだけを外せば、強みまで壊すかもしれません。
反対に、守る価値を言語化できれば、守り方だけを変える選択肢が見えてきます。
「たられば」が増えるほど、施策は動かなくなる
現実の仕事では、すべてがきれいにルール通りに進むわけではありません。
既存ルールにそのまま当てはめると難しい。
しかし、条件を組み合わせれば進められる。
関係者と調整すれば、例外として成立させられる。
こうしたグレーゾーン対応は、実務では珍しくありません。
ルールの趣旨を理解しながら、現実に合わせて動かす。
複数の条件を組み合わせ、落としどころをつくる。
それ自体は、実務力の一つです。
ただし、グレーゾーン対応には限界があります。
一つの例外なら、工夫で済む。
二つの条件の組み合わせなら、まだ運用できる。
しかし、条件や例外が増えていくと、施策は急に重くなります。
説明が長くなる。
確認事項が増える。
関係者が増える。
例外判断が増える。
責任の所在が曖昧になる。
現場が、どう動けばよいか分からなくなる。
理屈としては成立していても、実行できない状態です。
今回の案件にも、いくつもの「たられば」が含まれていました。
対象顧客を限定すれば。
現場が適切に判断できれば。
別部署が対応可能と認めれば。
今回だけの例外として整理できれば。
既存条件との衝突が大きな問題にならなければ。
どれか一つなら、実務上の工夫として扱えます。
しかし、複数の「たられば」が同時に成立することを前提にしなければ動かない施策は、すでに実行性に問題を抱えています。
一つひとつの対応策には合理性がある。
それでも、それらがすべて想定通りに機能することを前提にしているなら、そこには少しずつ希望が混ざっています。
「できる可能性がある」ことと、「継続的に実行できる」ことは違います。
施策を評価する時は、たらればがいくつあるかだけではなく、それらが同時に成立しなければ動かない設計になっていないかを見る必要があります。
ここで考えるべきなのは、さらに良い回避策ではありません。
なぜ、そこまで多くの条件が必要になっているのかです。
一つの施策で、二つの問題を解こうとしていた
今回、私たちが同時に解こうとしていたのは、次の二つでした。
一つは、新しい成長機会を取りに行くこと。
もう一つは、既存の強みを守ることです。
どちらも重要です。
新しい成長を取らなければ、事業は広がりません。
一方で、既存の強みを壊してしまえば、自社らしさや競争優位を失うかもしれません。
だから、どちらも無視できません。
ただし、この二つを一つの施策の工夫だけで解こうとすると、議論は難しくなります。
新しい施策を進めたい人は、既存ルールを制約として見ます。
既存の強みを守りたい人は、新しい施策をリスクとして見ます。
現場は、実際に運用できるかを気にします。
責任者は、どこまで例外を認めるかを考えます。
それぞれが違う問題を見ているため、議論が噛み合いません。
この時に必要なのは、いきなり最終案を作ることではありません。
まず、既存の強みを何と定義するのか。
次に、その強みを守るために何を残すのか。
そのうえで、新しい施策のどの条件を変えられるのか。
最後に、どこまでのリスクを誰が引き受けるのか。
問題を分け、順番に考えることです。
遠回りに見えるかもしれません。
しかし、前提が未整理のまま回避策を重ねるより、問題を分けた方が、結果として早く進みます。
会議で決められないのは、判断材料が足りないからとは限りません。
そもそも、何を判断する会議なのかが分かれていないことがあります。
担当者が整理することと、責任者が判断すること
新しい施策を担当する人は、どうしても「どうすれば実行できるか」を考えます。
実行方法を考える。
関係者と調整する。
現場で動かせる形に落とす。
これらは、担当者の重要な役割です。
ただし、すべてを担当者の工夫で解けるわけではありません。
既存の強みをどこまで守るのか。
既存ルールをどこまで変えるのか。
今回だけ例外として認めるのか。
今後のルール変更につなげるのか。
どのリスクを事業として引き受けるのか。
これは、施策担当者だけで決める話ではありません。
責任者が判断すべき戦略上の論点です。
一方で、担当者が「責任者に決めてもらえばよい」と、そのまま上げても決まりません。
担当者がやるべきことは、責任者が判断できる状態まで論点を整理することです。
少なくとも、次の四つは分けておく必要があります。
今回の施策は、既存のどの条件とぶつかっているのか。
その条件は、これまで何を守ってきたのか。
変えた場合に失う可能性のある強みと、変えなければ失う成長機会は何か。
自分たちで決められることと、責任者に判断してもらうことは何か。
ここまで分けられれば、会議は決める場になります。
整理されていなければ、会議は論点を発見する場になり、最後は「引き続き検討します」で終わります。
担当者の仕事は、戦略判断そのものではありません。
しかし、戦略判断ができる形に問題を分けることは、担当者の仕事です。
施策が止まった時に確認したい四つのこと
一見よさそうな施策が会議で止まった時、さらに案を作り込む前に、まず確認したいことがあります。
その施策は、複数の「たられば」が同時に成立することを前提にしていないか。
そのうえで、次の四つを確認します。
1.何と何が衝突しているのか
新しい施策は、既存のどの条件や考え方とぶつかっているのか。
表面的なルールだけではなく、その背後にある価値まで見ます。
2.既存条件は何を守ってきたのか
その条件によって守られてきたのは、顧客体験なのか、ブランドなのか、収益性なのか、現場品質なのか。
守る価値と、守るための手段を分けます。
3.今回の対応は、守る・変える・例外・ルール化のどれか
既存条件をそのまま守るのか。
守り方を変えるのか。
今回だけ例外にするのか。
今後のルールとして見直すのか。
ここを曖昧にしたままでは、施策は前に進みません。
4.誰が整理し、誰が判断するのか
担当者が詰めるべき実行条件と、責任者が決めるべき戦略判断を分けます。
誰が決めるかが曖昧なまま、全員で考え続けると、会議は止まります。
変えるためには、まず守るものを知る
今回の件で改めて思ったのは、新しいことを始める時ほど、既存の強みを言語化する必要があるということです。
普段、既存の強みはあまり意識されません。
長く続いているルール。
当たり前になっている条件。
昔から続く運用。
なんとなく守られている境界線。
日常の中では、ただの前提に見えます。
しかし、新しい施策がそこに触れた瞬間、その意味が問われます。
なぜ守るのか。
何を守るのか。
変えると、何を失う可能性があるのか。
変えなければ、どの成長機会を失うのか。
「今までそうしてきたから守る」では弱い。
「新しいことをしたいから変える」でも弱い。
必要なのは、守る価値と変える手段を分けることです。
この時に使っているのは、社内ルールの知識だけではありません。
複雑な問題を分ける力。
制約の背後にある価値を見抜く力。
複数の「たられば」に隠れた実行リスクを見極める力。
担当者の論点と責任者の判断を切り分ける力。
案を作るだけでなく、決められる状態をつくる力。
これらは、会社の中だけで使う力ではありません。
たとえば、顧客から「この案を実現したい」と相談された時も、すぐに案を磨くのではなく、何を守り、何を変えてよいのかを分ける必要があります。
新しい事業を考える時も、サービスを設計する時も、同じです。
「アイデアはいい。でも、たらればが多い」
そう感じた時は、さらに条件を足す前に考えたい。
一つの施策の中に、違う問題が混ざっていないか。
新しい成長を取りに行くことと、既存の強みを守ること。
その二つを、一つの案の中で無理に解こうとしていないか。
変えるためには、まず守るものを知る。
そして、守る価値と変える手段を分ける。
その順番を間違えないことが、新しい施策を本当に前へ進めるために大事なのだと思います。
