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相手が泣いているのに、正論を返したことはないだろうか。

コミュニケーションには「球速」がある。合わせた人だけが、届く。

── 人口4万人の港町で、毎日5件以上、 年間1,200件の経営の相談を受けている、荒川健生です。
前回は「「口に出すだけで、速くなる。なのに、黙る。現実が動き出す理由。」について書いた。

今回は、その手前の話。 人との向き合い方、コミュニケーションの「温度と球速」について。


■ キャッチボールには「球速」がある

キャッチボールをしたことがある人なら、わかると思う。

相手がゆるく投げてきたら、こちらもゆるく返す。
相手が少し強めに投げてきたら、こちらも少し力を入れる。
自然にそうなる。

でも、たまにいる。
こちらがふわっと投げたのに、いきなり本気で投げ返してくる人。

びっくりする。
そして、ちょっとイラっとする。

「なんで、今そのスピードで来るの?」と。

コミュニケーションも、まったく同じだ。
会話には、目に見えない「球速」がある。

相手がどんなスピードで、どんな力加減で投げてきているか。
それを見ずに返すと、ボールは届かない。
届かないどころか、相手の手を弾いてしまう。

■ 感情で話す人に、理性で返すと何が起きるか

相談の現場で、よくある場面がある。

事業がうまくいかなくて、悔しくて、不安で、
感情があふれている状態で話してくれる方がいる。

「もう、どうしたらいいかわからなくて……」

そのとき、こちらが、
「まず数字を整理しましょう。売上の内訳はどうなっていますか?」
と返したら、どうなるか。

正しいことを言っている。
間違いではない。
でも、相手の顔が少し曇る。

なぜか。
相手は「わかってほしい」と思って投げたボールに、
「分析しましょう」という別の球種が返ってきたからだ。

感情で話している人に、理性で返す。
これは、泣いている子どもに
「泣いても解決しないよ」と言うのと同じだ。

正しい。でも、届かない。

■ 理性で話す人に、感情で返すと何が起きるか

逆もある。

冷静に、淡々と、数字と事実を並べて相談してくれる方がいる。
「今期の売上がこうで、原価がこうで、利益率がここまで下がっています」と。

そこに、 「大変でしたね……! 本当によく頑張っていますね!」 と返したら、どうなるか。

相手は、少し戸惑う。
「いや、そういうことじゃなくて……」という空気になる。

理性で整理してきた人は、理性で受け止めてほしい。
「なるほど、利益率がここまで下がった要因は何だと思いますか?」 こう返すと、会話が前に進む。

つまり、こういうことだ。
感情には感情を。理性には理性を。

相手の「球速」に合わせて、返す。

■ 甲子園で学んだ「受け方」

自分は高校時代、甲子園に出た。
予選の決勝の試合に勝った直後のベンチは、もう、めちゃくちゃだ。

全員が叫んでいる。
泣いている。抱き合っている。
理性なんか、どこにもない。
感情だけの空間になる。

あの瞬間に、監督が 「よし、次の試合の反省点を整理しよう」と言ったらどうなるか。

たぶん、誰も聞いていない。
聞いていないどころか、「この人、何を言っているんだ」と思うだろう。

あの場で必要なのは、一緒に叫ぶことだ。
一緒に泣くことだ。
「やったな!」と、ただ同じ温度で返すこと。

分析は、翌日でいい。

コミュニケーションには「順番」がある。
まず、相手と同じ温度に立つ。
その上で、次のステップに進む。

この順番を間違えると、どんなに正しいことを言っても、相手には届かない。

選手もびっくりするだろう

■ 賢い人ほど、理性で返してしまう

ひとつ、補足しておきたいことがある。

感情に理性で返す人は、悪気があるわけじゃない。
むしろ、賢い人に多い。

たとえば、子どもがピアノの発表会から帰ってくる。
「ねえ、聞いて!最後まで弾けたよ!」
目がきらきらしている。
全身で喜んでいる。

ある親は、こう返す。
「よかったね。でも途中、左手のリズムがちょっとずれてたから、来週そこ練習しようか」

間違っていない。
次につながる助言だ。
でも、子どもの目から、きらきらがすっと消える。

あの瞬間にほしかったのは、
「すごいじゃん!頑張ったね」の一言だけだった。

相手のため。そう思って言ってしまう。
だからこそ、たちが悪い。
善意だから、止まらない。

「勉強ができる人」と「頭がいい人」は、違う。
よく言われる話だ。
でも、自分はちょっと違うことを思う。

勉強ができる人は、答えを出すのが速い。
だから、目の前に問題があると、つい解きにいく。

相手が「聞いてほしい」と思って投げた球を、
「解いてあげよう」と受け取る。
善意だ。まっすぐな善意だ。

でも、頭がいいと言われる人は、もう一歩手前で止まる。
「この人は今、答えがほしいのか。それとも、うなずいてほしいのか。」 その見極めを、先にやる。

どっちが正しいとか、そういう話ではない。

感情に理性で返す人には、芯がある。
自分の軸を持っていて、ぶれない。
だからこそ仕事で信頼される。
だからこそ、結果を出す。
そして突き抜ける。

ただ、その強さが、目の前の相手との「間」を一瞬ずらすことがある。
それだけのことだ。

■ わかりあえない、という着地もある

もうひとつ、書いておきたいことがある。

球速を合わせる。温度を合わせる。
それでも、届かないことがある。

相手と自分の「受け取り方」が、根本的にちがう場合だ。

どれだけ丁寧に受けても、どれだけ相手の温度に合わせても、 最後の最後で、かみ合わない。

「わかりあえない」という着地もある。

これは失敗じゃない。
合わせる努力をした上で、それでも届かなかった。
それは、ただの結果だ。

大事なのは、
「合わせなかった」のか、
「合わせても届かなかった」のか。
この二つは、まるで違う。

全部わかりあえると思うのは、たぶん幻想だ。
でも、わかりあおうとしたという事実は、自分のなかに残る。

すべてがうまく分かり合えるわけじゃないと頭に入れておく。

無理しすぎる必要はない

■ まとめ 受ける&いつ、どの温度でいうか。

アドバイスは、「何を言うか」で決まると思われがちだ。

でも、本当に届くかどうかは、
「いつ、どの温度で言うか」で決まる。

相手が感情で話しているなら、まず感情で受ける。
相手が理性で話しているなら、まず理性で受ける。

同じ球速で返す。

それだけで、相手は「この人はわかってくれている」と感じる。
わかってくれている、と思えた瞬間に、人は耳を開く。

だから、まずやれることはシンプルだ。

  1. 相手が今、感情と理性のどちらで話しているか、を見る。

  2.  同じ温度で、まず受ける。共感か、整理か。

  3. 受けた後に、自分の意見や提案を出す。

この「受けてから投げる」の順番を守るだけで、
同じ言葉でも、届き方がまるで変わる。

そして、それでも届かないときがある。
それは失敗じゃない。合わせた上での結果だ。

全部わかりあえなくていい。わかりあおうとしたことが、残る。

キャッチボールは、受けることから始まる。
コミュニケーションも、同じだ。

追伸
追伸交流会で名刺を渡したら「面白そうなお仕事ですね!」と言われた。嬉しくて、ヒミビズの実績を5分語った。相手の目がだんだん泳いでいった。球速を見ろ、自分。

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