『神の器 幻燈の館』 後日談1 「静かなる告発」
後日談1 神依典彦&真崎美緒 静かなる告発
一緒に見舞いに来た春一は、今は病室の外。持参した花を生けるため、花瓶と花を抱えて病室を出たばかり。
ドアの脇に立つ付き添いの刑事が、時計をちらちらと気にしている。
その無言の圧を背中で感じながら、典彦はわずかに息を整え、心の中で真崎に向ける言葉を組み立てた。
「…なあ、真崎さん」
声をかけた瞬間、真崎の肩がぴくりと動いた。ぎこちなく顔を上げる。
「愛する者を守れなかった。それこそが、あんたの本当の罪だ」
その言葉が落ちた瞬間、真崎の瞳が揺れる。
まるで、胸の奥を鋭く抉られたような反応だった。頬から血の気が引き、唇はわずかに引きつり、視線は虚空を彷徨った。
典彦の声には、どこか自嘲めいた棘が混じる。
しかし、その鋭さは容赦なかった。
真崎は目を伏せ、浅く呼吸を繰り返した。口を開こうとして、うまく声が出せず、唇だけが乾いたように動いた。
「あんたは加害者の未来だけじゃなく、自分が向き合うはずだった責任まで切り捨てたんだ」
その一言ごとに、真崎の表情は崩れていく。目を見開き、何かを言いかけて、けれど言葉にならない。喉が詰まり、唇を開いてもただ空気を吸い込むばかり。
典彦は、目を逸らさずに告げた。
「結局、あんたが殺したのは“あんたのため”だ。それだけは忘れるな」
言葉が落ちた瞬間、真崎の肩は落ち、崩れるように前かがみになった。思考の支柱が一気に崩れたかのようだった。
そして典彦は最後に、低く、呟くように締めくくる。
「愛してるなら、護らないといけなかった。
…あんたも、俺も。兆候を見逃した、置き去りにした、それが罪でないはずがない」
その言葉のあと、病室の空気がぴたりと凍った。
全ての言葉を飲み込みながら、動こうともしない。
真崎は呆然と宙を見つめていた。
時間の流れから取り残されたように、ただそこにいた。
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