感想文/メイクは人生を導く
私はメイクが苦手だ。
大の面倒くさがりで、せっかちだから。
シミ・ソバカスは別として、肌質は健康。敏感肌ならぬ鈍感肌。
幼少期に、魚の目玉周りと鮭の皮、鶏の皮ばかりを食べていたからだと思っている。(個人の見解です)
だけど、興味がないわけではない。
特に、人が、美しく変わっていくのを見るのは、好きだ。
では、「メイクで美しく」とは何か。
こういうことだ、と再認識させてくれる物語がこちら。
髙塚しいもさんが創作大賞2025に出していた
「ギャルが結局、この世のすべてを解決するってなんのハナシ?」
である。
佐倉遼は、いたって普通の男子高校生。
誰にも言えないが、「自分にメイクする」ことが生きがいだった。
ある日、同じクラスのギャル、花森叶恵の美しいネイルに出会ったことが彼の運命を変えていく。
──メイクは隠すんじゃない。導くもの。
──そのメイクは、誰のため?
花森の不思議な力、そしてたくさんのコスメが出迎える、路地裏の小さなお店「レアリゼ」。自分の可能性を見つめ直すその空間で、そしてそこを訪れる人々の生き方が、変わっていく。
冒頭にいきなり「男子高校生」と書いてあるので、なんとなく想像できる部分はあるかもしれない。でも、それだけではない。
物語は、大きく2つの構成で成り立っている。
第1章は、メイク男の「佐倉遼」君の話
第2章は、地味な学級委員長「竹之山さん」の話。
そして全体を通して、ネイルやメイクで悩める人を救うのが、「ギャルの花森さん」だ。
現在では、一般の男性でも脱毛やスキンケアだけでなくメイクをしている人も珍しくない。ただ、女性みたいにチークや口紅を塗るわけでもないと、メイクしていることは目立たない。
佐倉くんも、自分の事を「どこにでもいる、およそ一般的な男子高校生の俺」と言っている。そしたらやっぱり、少し勇気いるよね。普段の学校生活で好きなようにメイクするなんて。よほどキャラが立ってないと。
ただ、姉がふたりいて、女性の気持ちがよく分かるとか、パシリにさせられるとか、メイクに自然と詳しくなるとか。
そして、もし「俺、メイクが好きなんだ」とバレても、バカにしたりしないだろうという男友達がいる。
そこが、その設定がリアルだと思った。
彼は、女性になりたいわけでもないし、周囲にバレてあからさまにイジメが始まるわけでもない。もし、そのような設定なら、この文字数で書ききれずに浅い話で終わることを予想して読む気が失せてしまったかもしれない。
身近にありそうな穏やかな設定に、逆に、私は続きが気になった。
でも、だったら彼は、何を悩んでいるの?
物語はどこにあるの?
それは、みなさんもぜひ読んで確かめて欲しい。
彼の、はじまりの物語が、そこにあるから。
💄
第2章の、竹之山さんの話。
学級委員とはいえ、リーダーシップがあるわけではない。勉強ができるわけでもない。
そして、親子関係に少し悩みを抱えていることが判明する。
幼少期の彼女は、好きな色を言っても必ず母親に否定されていて、いつのまにか「自分が好きな色」さえ分からなくなっていた。
そんな彼女が花森さんによって3話目で「自分の好き」が取り戻せて、ハッピーエンド………………ノンノン! そんな単純ではない!
彼女の人生を取り戻すためには、やらなければいけないことがある。
4話目まである「物語」をしっかりと見届けて欲しい。
彼女と母親の、はじまりと再生の物語が、ここにあるから。
ちなみに、第1章で登場した佐倉君が、身も心もイイ男に成長した佐倉くんが!ひきつづき第2章に登場します。
竹之山さんが恋に堕ちたときの描写が可愛らしくて可愛らしくて(*´ω`)ウフフ、キュン ってなります。
💄
ところで
この話の一番の特徴は、お店とメイク道具たち。
ギャル花森さんの家は、「レアリゼ」というコスメの店を営んでいる。
フランス語で『実現する』っていう意味。お客さんの要望とか夢、こうなりたい、って気持ちを、しっかり救い上げて実現する。それが、この店のコンセプトなんだよ」
物語全体を通して、作者しいもさんのメイクやメイク道具に対する「愛」が詰まっていることがよく分かる。
たとえば佐倉君が最初に「レアリゼ」を訪れた時。
俺はふらふらと導かれるように、その整然として気高く、どこか誇らしげに並んでいるメイク道具たちに近づいた。それらは、まるで意思を持っているかのように感じられた。それぞれの役目を理解し、その自分の持つべきものを全力で全うするべく、その出番を今か今かと待っている。そんな決意が感じられたのだ。
この物語の登場人物は多くはない。
前述の、花森さん、佐倉くん、竹之山さんの他、主要登場人物として「メイク道具たち」が、しっかりと存在していた。
私は、その自分を変えてくれたコスメたちを見つめた。みんな、変わらない様子でその場に鎮座している。役目を終えて、どこかほっとしたようには見えるけれど……声は、私にはまだ聞こえない。
ファンタジー小説ではないので、実際にメイク道具たちが喋ったり動いたりするわけではない。けれど、読んでいる最中や、読み終えたとき、「助演女優賞」をあげたいくらい、良い働きをしている可愛い俳優さんたち💞という気持ちが残る。
いや、もしかしたら「主演」なのかもしれない。
この子たちに……会いたい!
そんな気にさせられるのだ。
勿論、メイクテクニックも満載なので勉強になる。
でも、メイクに興味ある人だけが楽しめる話ではない。
一言で言うと、愛。
愛だなぁ。
花森さんの、メイク道具たちに対する愛。
それは佐倉くんや竹之山さんにも伝播する。
高校生の淡くて可愛らしい愛もあれば、親子の深い愛もある。
そして、メイク道具たちが老若男女問わずに与える愛。
そんな、「愛を通して人生が美しくなる」話だった。
💄
そうはいうても……
私は相変わらずメイクは「隠す」ためだけに使うのが精いっぱい…
だって……面倒なんだもん…
でも、それが私のメイクだとしても、それでもいいよね。
だって、面倒くさがりな私にとっては、それが何より「生きやすい」んだもん。
この感想文を書くにあたって、紹介したい文章を抜粋して集めていたのだけれど、感想文中にうまくまとめられなかった言葉たち……
「こんな素敵な言葉がある小説ですよ」を伝えたいので、引用させてください!!
でも、きっとちがうんだ。世界はそんなもんじゃない。もっと広くて、きっともっと美しい。この指先を見つめていたら、そんな希望が湧き上がってくる。
大きなシャンデリアの輝きに包まれると、その色は青にも赤にも見えるし、別の色にも見えた。見つめる方向によって。見つめる環境によって。すべては色を変えていく。そういうもの、なのかもしれない。
俺もさ。レアリゼに初めて行ったとき、泣いたよ。泣けた。でも、嬉しかったからなんだ。本当の自分に会えたって気がした。そこから、なんていうか。めちゃくちゃ、生きやすいんだよ。俺、そういう人がもっと増えたらいいと思うよ。
「メイクやネイルをするというのは、『隠す』んじゃない。『導く』んです」
髙塚しいもさん
素敵な愛の話をありがとうございました💞
※ 欲を言えば、別の人で、もう一章あるといいなと思いました~ こっそり続きを待ってます✨
ご本人に通知が届くように、ちょっと関連した記事を引用↓m(_ _)m
いいなと思ったら応援しよう!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
サポートしていただいた分は、創作活動に励んでいらっしゃる他の方に還元します。