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AIに仕事を覚えさせても、会社は賢くならなかった——「第二の脳」を作って分かった、記録と学習の違い

「書いてあるはずなのに、出てこない」
半年前から進めている案件について、AIに聞きました。
「これまで何を決めてきたか、順番に出して」
会議の記録もある。
見積に関するメモもある。
途中で方針を変更した記録も残っています。
ところが、AIから返ってきたのは、
「会議録があります」
「見積に関するメモがあります」
「途中で方針変更がありました」
という、ぼんやりした答えでした。
私が知りたいのは、そこに情報があるかどうかではありません。
3月に、この方針を決めた。
4月に、問題が見つかった。
5月に、方針を変更した。
現在は、この判断で動いている。
そうした流れです。
情報は残っている。
それなのに、必要なときに正しく取り出せない。
このとき私は、記録を増やすだけでは、会社は賢くならないことに気づきました。
記録が増えれば、賢くなると思っていた
私は、ChatGPTやObsidianを使って、自分の仕事や考えを残す「第二の脳」を作っています。
会議で決めたこと。
取引先とのやり取り。
見積金額。
現場で起きた問題。
思いついた企画。
途中で変更した方針。
人間の頭だけで、これらを全部覚えておくことはできません。
そこで、日々の仕事を記録してAIに読ませれば、
「あの案件で、以前は何を決めた?」
「似た仕事を、過去にいくらで見積もった?」
と聞くだけで答えてくれる仕組みを作ろうと考えました。
最初は、記録が増えるほど第二の脳も賢くなると思っていました。
しかし、実際にはそう簡単ではありませんでした。
AIが悪いのではなかった
最初は、AIの性能が足りないのだと思っていました。
もっと賢いAIを使えば、過去の記録から正しい答えを探してくれるのではないか。
けれど、原因はAIだけではありませんでした。
私の記録が、人間向けのメモとしては読めても、AIにとっては判断しにくい状態だったのです。
例えば、同じ案件について、次の三つの記録があったとします。
AIが、
「来場者目標を800人にしてはどうか」
と提案した。
その後、私が、
「1,000人以上を目標に進める」
と決めた。
さらに別の日に、AIが、
「1,200人案も考えられる」
と提案した。
AIから見れば、どれも同じ案件に関係する情報です。
しかし、経営上の現在地は一つです。
今の正式な判断は、私が決めた「1,000人以上」です。
だから記録には、内容だけでなく、
「これはAIの提案」
「これは人間が決めたこと」
「これは今も有効」
「これは後から変更された」
という区別が必要になります。
ほかにも、
いつの情報なのか。
何の案件なのか。
誰が決めたのか。
確認済みの事実なのか。
まだ検討中の案なのか。
こうした情報が分からなければ、AIは関連する記録を探せても、現在の正式な判断を特定できません。
第二の脳は、倉庫ではなかった
ここで、第二の脳に対する考え方が変わりました。
第二の脳は、情報を保管する倉庫ではありません。
本当に必要なのは、
過去に何を考え、何を決め、その結果どうなったかを、次の仕事に使える状態にすること
です。
情報を保存しただけでは、記録です。
その仕事の結果まで戻ってくることで、記録は経験になります。
そして、その経験が次の判断に反映されて、初めて会社の知恵になります。
この違いは、町工場の見積で考えると分かりやすくなります。
過去の見積書を100件保存しても、見積は正確にならない
過去の見積書を100件保存しておけば、似た仕事が来たときの参考にはなります。
しかし、それだけでは次の見積は正確になりません。
本当に残す必要があるのは、
見積時に予定していた工数。
実際にかかった工数。
想定した材料費。
実際の材料費。
追加作業の有無。
予定と実績に差が出た理由。
です。
例えば、
見積工数が90時間。
実際にかかった工数が115時間。
この数字だけを見れば、25時間の見積不足です。
しかし、次の仕事へ生かすには、なぜ25時間増えたのかまで分からなければなりません。
歪み修正に時間がかかった。
現場合わせが必要になった。
仮組みをやり直した。
材料に追加加工が発生した。
そこまで残っていれば、次に似た図面が来たとき、AIはこう教えられます。
「この形状は、過去に歪み修正で工数が増えています」
「通常より工数に余裕を見た方がよい可能性があります」
ここまで来て初めて、過去の仕事が会社の資産になります。
見積書を保存したことではなく、見積と実績の差が、次の判断へ戻ったことに価値があるのです。
今の第二の脳に、足りていないもの
現在の仕組みでは、日々の記録、案件、会議、判断、アイデアなどを、ある程度残せるようになりました。
AIの提案。
私が決めたこと。
確認済みの事実。
まだ分からないこと。
現在有効な判断。
すでに変更された判断。
こうした違いも、少しずつ分けて扱えるようにしています。
スマートフォンからAIに指示を出し、記録の方法そのものを修正したり、正しく取り出せるかを試したりするところまで進みました。
けれど、まだ最大の課題が残っています。
それは、仕事が終わった後の結果が、十分に戻ってきていないことです。
見積書は残っている。
現場の写真もある。
案件が終わったことも分かる。
しかし、
結局、何時間かかったのか。
材料はいくらだったのか。
利益は想定どおりだったのか。
追加作業は発生したのか。
次回は何を変えるべきなのか。
そこまで残っていない仕事があります。
これでは、AIは過去を覚えることはできても、経験から学ぶことはできません。
「完了」の意味を変える
施工が終わった。
納品した。
請求した。
通常であれば、ここで一つの仕事は完了したように見えます。
しかし、会社としての学習はまだ終わっていません。
見積。
実行。
実績。
見積との差。
差が出た原因。
次回の判断基準。
ここまで戻して、初めて一つの仕事が閉じます。
この循環ができれば、AIは単なる記録係ではなくなります。
過去の経験を整理し、次の見積や工程計画に使える参謀になっていきます。
反対に、この循環がなければ、どれだけ高性能なAIを導入しても、毎回ほとんど同じところから考え直すことになります。
会社の中には記録が増えているのに、会社としての経験は増えていない。
そんな状態にもなりかねません。
AI社員を作る前に、会社の記憶を作る
最近は、「AI社員」という言葉をよく聞くようになりました。
しかし、AIに会社のファイルを読ませるだけでは、仕事を任せられる社員にはなりません。
AIが仕事をするためには、
過去にどのような判断をしたのか。
なぜ判断を変えたのか。
現在の正式な方針は何か。
仕事の結果はどうだったのか。
どの条件で失敗したのか。
どの条件でうまくいったのか。
どこから先は人間に確認すべきなのか。
こうした会社の記憶が必要です。
つまり、AI社員を作る前に必要なのは、AIの名前や性格を決めることではありません。
会社が何を覚え、何を学び、どのように判断するのか。
その仕組みを作ることです。
第二の脳は、ノートの数では測れない
以前は、記録が増えるほど第二の脳が成長しているように感じていました。
今は、見るべき数字が違うと思っています。
必要な情報を、必要なときに取り出せたか。
現在有効な判断を特定できたか。
AIの案と、人間が決めたことを区別できたか。
仕事の結果が記録へ戻ってきたか。
過去の経験によって、次の判断が改善されたか。
同じ失敗を減らせたか。
第二の脳とは、たくさんのノートを保存する場所ではありません。
過去の経験を、次の判断へ変える仕組みです。
私の第二の脳は、まだ完成していません。
けれど、
「忘れないための記録」から、
「過去の判断を引き継ぐ仕組み」へ。
そして今、
「仕事の結果から学ぶ仕組み」へ進もうとしています。
AIが私の代わりになることが目的ではありません。
私たちは過去に何を考え、何を決め、その結果どうなったのか。
それを理解したうえで、次の仕事を手伝える状態をつくる。
それが、私が現在考えている「第二の脳」の姿です。
会社が賢くなるのは、AIが多くを覚えたときではない。
過去の仕事の結果が、次の判断へ戻り始めたときです。

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