映画『落下の王国』に魅了されたのは、そこに心を救う思いやりと物語の力を見つけたから
2008年に日本でも公開された映画、「落下の王国」。2025年に4Kデジタルリマスターで蘇った映画です。まだあちこちの映画館で上映していますので、映像美に浸りたい方にオススメします!
(ネタバレありです。先に結末を知りたくない方は、観た後、帰ってきてくれるとうれしいです。)
映像美は言うまでもなく素晴らしいのですが、このnoteでは物語の力について書いています。語ることの大切さを常に感じているコーチ兼キャリコンとして、感じるものが多く、この映画が大好きになりました。是非、皆さんにシェアしたいです。
この映画と再会させてくれたのは美容師さん
美容師Tさん:「ラッカの王国」っていう映画、知っていますか?
私:え?落花?
Tさん:いえ、落下です。下へ落ちるの落下。
私:えー、知らない。どうして?
Tさん:いや、お好きそうな映画だと思ったので、もしかしたらご覧になったかなと思って。私は観たんですが、もう1回観たいんですよね。
タイトルを聞いてもピンとこなかったですが、気になって後で検索してみて、画像を見て思い出しました。

4Kデジタルリマスター? カルト的映像体験? これは観に行かなくちゃ! 教えてくれてありがと〜!
◇物語の力
聴く人は虜になり、夢中になる
足を怪我して入院しているロイ。動けない自分の代わりに病院で出会った同じく入院中の少女、アレクサンドリアに魅力的な物語を聞かせ、薬局からほしい薬を盗ませようとします。
物語は誰かを手懐ける(てなずける)ほどの魅力がありますよね。
続きが聞きたい! この後どうなるの? その心理を使ったお話はたくさんあります。もっとも有名なもので言うと、千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)でしょうか。
すっかりロイのお話に夢中になったアレクサンドリア。
ロイに、病院内のチャペルから盗んできた聖体を分け与えます。まるで聖職者が信徒に与える儀式のように、口に入れてあげます。
薄いクラッカーのような聖体をただの食べ物だと思っているアレクサンドリアでしたが、それが何かを知っているロイは、『私の魂を救済しようとしているのか?』という言葉を発します。皮肉なジョークのつもりだったと思いますが、子供のアレクサンドリアにはよく理解できません。
しかし、思えばあの時から、アレクサンドリアはロイを救い始めていたのかもしれないと後で感じて、じんわりと心があたたかくなりました。
変化する物語。物語作りに参加するアレクサンドリアがいとおしい
物語はロイの作り話であったのですが、だんだんとアレクサンドリアと対話しながら作っていくようになっていきます。
(黒山賊とエブリン姫がいいムードになってきたので)
アレクサンドリア:そこでキスよね!キス!キス!キス!
ロイ:いや、まずは結婚だ。
しかし、ここからつながる美しい婚礼のシーンは眼福です。
自殺をするための薬だとは知らないアレクサンドリアは、ロイを助けるために必要だと信じて薬局に忍び込みます。1度は成功するのですが、2度目は、棚から落ちて大怪我をします。
そんなアレクサンドリアのロイへの思いが、ロイを変化させ始めます。
ロイ:僕の物語はハッピーエンドじゃないんだ。
アレクサンドリア:私の物語でもあるのよ。
物語は語る人も癒し、気づきを与え、変化させる
物語の中でルイジが自爆した場面での2人の会話。
アレクサンドリア:ルイジ、どうして死んでしまったの?(泣く)
ロイ:✕✕✕✕✕✕。
正確な英語のセリフも、日本語訳も覚えていないですが、『(死んでしまうなんて)不本意だよね。』とロイが言ったように感じました。
あれ?と思った場面でした。ルイジの命を惜しむ発言? 自暴自棄で自殺願望に取り憑かれていたロイが?
私の個人的解釈で間違えているかもしれませんが、はっとしたシーンでした。
それはロイの中で生きることの意味が変わった瞬間のような気がしたのです。
・・・
カウンセリングの手法にナラティブ・カウンセリングというものがあります。ナラティブとは物語のことです。
例えば、自分のキャリアを物語として語ることで、自分の歩みを少し距離を置いて客観的に見る事ができます。また、これまでの自らの歩みを細切れの出来事ではなく一連の流れとして受け止めることができ、自分がやってきたことが意味があったと確認することができます。さらに、自分のキャリアの「物語」の先を想像して、築きたい未来のキャリアイメージをよりくっきりとさせることもできます。
また、コーチングでも同じように、クライアントの心に浮かんだ空想の物語を語ってもらうことがあります。そうすると、クライアントの大切にしている価値観が現れたり、物語から起こった事の自分にとっての意味付けに気づいたりして、はっきりしていなかった大切なものに気づくこともあります。
そういう点で物語はすごい力を持っていると日頃から感じているのですが、その力がこの映画にも宿っていると感じています。
ロイの物語は作り話ですが、ロイの人生の断片、甘い思い出も、悲しい出来事も、両方が盛り込まれています。
ロイは物語を語りながら心を癒し、何かに気づき、変わりつつあるのではないかと思いました。
◇思いやりを送り、送られる。「コンパッション」の3つの流れ
物語の復讐の勇士の5人が死んでしまって、最後の1人となった黒山賊(すなわちロイ)を殺さないでと懇願するアレクサンドリア。
ロイのことが好きだから生きてほしいと願う少女。
ここにコンパッションの流れを感じました。
コンパッションとは、思いやり、慈愛の感情のことです。
コンパッションを他者、自分に向けることで幸福感、満足感、職場においては心理的安全性やエンゲージメントを高め、成果を上げる組織に変化していく効果があるとも言われています。

アレクサンドリアからロイへ向けた思いやりはたくさん見られますが、ロイからもアレクサンドリアへ思いやりが向けられ始めました。
その結果、ハッピーエンドではなかったはずのロイの物語が変化します。
水の底に沈んで死んでしまったのかと思われた黒山賊は、息を吹き返し、敵を倒します。チビ山賊のアレクサンドリアを抱きあげ、颯爽とその場を去ります。
殺さないでと懇願する少女の思いは、ロイに向けられた思いやりでした。大好きな人に生きてほしいと願う思い。物語の中の黒山賊を生かしたのは、ロイが他者からの思いやりを受け取った瞬間でもあったと感じました。
映画では描かれていませんが、治療を終えたロイは自分にも思いやりを向けて、生きることに前向きになったのではないかという気がしています。
これでめでたく、他者に思いやりを送り、他者からの思いやりを受け取り、自分への思いやりを送るというコンパッションの3つの流れが完成します。そうであってほしいと願っています。そして退院後のロイは幸せな人生を生きていると信じたいです。
この映像美を4K対応シアターで観たい!
こんな夢のような光景、実在するの?と思うような場面の連続。20カ国でロケをしたという映像は、この世のものとは思えないほど美しかったです。ドローンもない時代にどうやって撮影したのかと感心するアングルのシーンにも酔いしれます。
病院の廊下のドアの鍵穴がピンホールカメラになって光が上下逆さまの馬の映像を結ぶシーンも大好きだった。
アレクサンドリアの手術シーンのストップモーションアニメもかわいかった。
そして石岡瑛子さんデザインの衣装。ド派手でぎゅっと特徴が凝縮されていてかっこいい。サイコーです。
ターセム監督の好きなもの、全部盛りという感じの映画。監督の情熱を隅々まで感じる映画です。
この映画は2回観たのですが、いずれも2Kでの上映でした。いつか4K対応のシアターで観たいな〜と思っています。
映像美と思いやりの物語、何度でも繰り返し楽しめます!
