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同じ月の下に選ぶ者たち 第九夜「月の下の髪長娘」(妄想歴史会話劇)

「今夜は沢山欠けているから”ご機嫌ナナメちゃん”なのかしら?」

ラプンツェルは塔の上から月を眺めている。

「……聞いてる? お月ちゃ……じゃなかった、るなっち?」

少し間。

「まあいいわ。どうせ返事なんてしないんだから」

髪を指に絡めて、ほどく。

「でもいいのよ、こういうの。ボイチャって、半分くらいは独り言でしょ?」

軽く笑う。

「今日もね、お母様から差し入れ来たの」

足元の箱に視線を落とす。

「ほんとマメよねぇ。優しすぎて逆に怖いレベル」

紐をほどく。

「ちょっと開けるわね……あ、聞こえてる? ガサガサ音」

箱を開ける。

「んー……パンに干し肉、果物……生活用品もちゃんとあるし」

一つずつ取り出す。

「ほんと、困らないのよね。ここで」

少し間。

「困らないって、便利よねぇ」

袋をひとつ手に取る。

「……あ、お菓子だ」

開ける。

「こういうのもちゃんと入れてくるの、マジ神。ずるいわよね」

ぱり、と音。

「いただきます」

少し咀嚼音。

「……聞いてる? るなっち。今、結構いい音したわよ」

くすっと笑う。

「無反応なの、逆にリアルね」

もう一つ、箱の底を探る。

「あれ、まだ何か……」

取り出した瞬間、声が跳ねる。

「あああああぁぁぁぁぁぁぁーーー
『秘密の花園第三巻』だわぁ!」

本を抱きしめる。

「流石お母様、わかっていらっしゃる!……あぁ耽美だわぁ、背徳だわぁ……」

はっとして咳払い。

「……失礼、取り乱してしまったわ」

本をそっと横に置く。

「でも、今夜は徹夜コースね……やばいわ、これ」

少し沈黙。

「……ねえ、るなっち」

空を見上げる。

「こうしてれば、全部足りるのよね」

「食べるものもあるし、読むものもあるし、話す相手も……まあ、一応いるし」

小さく笑う。

「外に出る理由、ほんとに無いのよ」

お菓子をもう一つ口に入れる。

「怖いとかじゃなくてね」

「たぶん、外の方が“正しい”のよね」

「人と会って、歩いて、選んで、失敗してさ……そういうの?」

指で窓枠をなぞる。

「でもね、それって全部、“やらなくてもいいこと”でもあるの」

少し間。

「ここにいれば、間違えないのよ」

「誰にも否定されないし、何も失わない」

「時間も、静かに流れるだけで……減ってる感じがしないの」

少しだけ声が落ちる。

「外は、違うんでしょう?」

「選んだ瞬間に、何かを捨てる感じ?」

「進むたびに、取り返せないものが増えていく感じ?」

沈黙。

「……それ、ちょっと重いのよね」

軽く笑う。

「私って、キャパそんなに大きくないっしょ?」

少し間。

「降りられるとは思うのよ。やろうと思えばさ」

「でも……なんていうか」

考える。

「ログインする理由がない感じ?」

自分で笑う。

「いや、ほんそれ、草」

間。

「……あれ?」

空を見上げる。

「るなっち?」

目を細める。

「さっきから、さらに欠けてない?」

「……寝てる?」

ため息をつく。

「人の話聞いてる途中で寝落ちとか、マジやめてほしいんですけど?」

でも少しだけ柔らかくなる。

「まあいいか」

箱の中身を見て、また一つお菓子を手に取る。

「どうせ、明日もいるっしょ」

ぱり、と音。

「……あぁ、このままじゃ太っちゃうわ」


↓第十夜

#創作大賞2026

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