同じ月の下に選ぶ者たち 第四夜「月だけは知っている」(妄想歴史会話劇)
暗い取調室。
灯りは一つ。影が濃い。
高い位置の小窓から、かすかな光が差している。
鉄格子の向こうに、雲に滲んだ月がある。
椅子にふんぞり返るのは、アル・カポネ。
立ったまま見下ろすのは、エリオット・ネス。
カ「でよォ、俺ァ何をやったって話になってんだ?」
ネ「あなたが関与したと見られる事案については、概ね把握しています」
カ「“見られる”ねぇ。便利な言い方じゃねえか」
ネ「断定には証拠が必要です」
カ「つまり証拠がなきゃ、俺ァ真っ白ってわけだ」
ネ「法の上では、そうなります」
カポネが肩を揺らして笑う。
カ「いい世の中だなァ。やったかどうかじゃねえ、“証明できるかどうか”だ」
ネ「それが秩序です」
カ「秩序ねぇ……そりゃお前らの都合だろ」
間。
カポネは机を指でトントン叩く。
カ「なァ、ネス。人ってのはよ、真実なんざ見ちゃいねえ」
ネ「では何を見ると?」
カ「分かりやすい話だよ。筋が通ってる“気がする”やつだ」
ネ「それを利用しているのが、あなたでしょう」
カ「利用? 違ぇな。用意してやってんだよ」
ネ「何を」
カ「信じやすい形ってやつをな」
ネ「それは虚偽です」
カ「虚偽かどうかは関係ねえんだよ。広まっちまえば、それが“事実みてえな顔”すんだ」
ネ「私は、それを是正する立場にあります」
カ「どうやってだ?」
ネ「証拠を積み上げ、記録に残します」
カポネは鼻で笑う。
カ「遅ぇなァ」
ネ「何がでしょう」
カ「証拠ってのはよ、コツコツ積むもんだろ? 噂は一晩で街じゅう回る」
ネ「しかし、残るのは証拠です」
カ「残るのは“語られた話”だっての」
ネスは一瞬だけ沈黙する。
カ「新聞が書く。街が騒ぐ。ガキが真似する。――それで十分だろ?」
ネ「あなたは現在、この部屋にいる」
カポネはニヤリとする。
カ「それもまた“いい話”になるだけだ」
ネ「事実です」
カ「事実もよ、どう語るかで味が変わるんだよ」
間。
ネスは静かに椅子に腰を下ろした。
ネ「では伺います。真実とはどこにありますか」
カポネは即答する。
カ「誰も見ねえ場所だ」
ネ「……」
カ「お前は真実を集めてる。だがな、街は“面白ぇ話”を集めてんだ」
ネ「それでも、最終的に裁くのは法です」
カ「覚えてんのは民衆だ」
ネスの視線がわずかに上へ逸れる。
小窓の外、雲に隠れかけた月がある。
カ「でよ、どっちが強ぇと思う?」
沈黙。
ネ「双方とも、無視はできません」
カ「綺麗事だなァ」
ネ「現実です」
カ「理想だろ」
ネ「理想であっても、実行します」
カ「好きにしな」
ネスは立ち上がり扉へ向かい、
カ「おい、ネス」
振り向かずドアに手をかける。
カ「結局よォ――」
一拍。
カ「人は“正しい話”じゃねえ、“信じてえ話”を広めるんだよ」
ネ「それでも私は、“正しい話”を残します」
カポネは小さく笑い、
カ「残るといいなァ」
扉が静かに閉まる。
暗闇に、わずかな光だけが残った。
月はそこにあるが、誰も見ていない。
↓第五夜
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