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同じ月の下に選ぶ者たち 第七夜「月明かりの導く方へ」(妄想歴史会話劇)

夜の甲板。

帆は風を孕み、船は暗い海を裂いて進む。
雲の切れ間に、かすかな月。
船長のドゥアルテ・ダ・ガマは、甲板で祈りを捧げている神父に近寄った。

ド「……神父さんよぉ」

神父「はい」

少し間。

ド「祈って――人は、苦しみから逃れられるのかい」

神父はすぐには答えない。

神父「……逃れられるとは、限りません」

ドゥアルテは小さく鼻で笑う。

ド「だろうな」

波の音。

ド「逃れられねえものを、いくつも見てきた」

わずかな間。

ド「……逃がさなかったことも、ある」

風が帆を鳴らす。

ド「俺たちはな、海に線を引いてきた」

神父「線、ですか」

ド「見えねぇが、確かにある。港と港を繋いで、金を流す道だ」

神父「その線の上に、人も流れる」

ド「ああ。流してきた」

間。

ド「南へ下り、焼ける海を越えた。
 風も潮も、こっちの都合なんざ聞かねぇ」

神父「それでも進んだ」

ド「進むしかねぇんだよ。戻れば何も残らねぇ」

少し笑う。

ド「回り込んで、香りの強いものを積んだ。
 あんな小さな粒が、国を動かしやがる」

神父「人の欲が、海を越える」

ド「欲だけじゃねえ。意地もだ」

風が強くなる。

ド「同じ海を狙う連中もいた。
 西から回ろうとするやつら、北から奪おうとするやつら、
 陸の端で門を握って通さねえやつら」

神父「争ったのですね」

ド「譲れば、全部持っていかれちまう」

神父「力で守り、広げた」

ド「金で繋ぎ、人で埋めた」

間。

神父「変えられる側は、それを望んでいますか」

ド「……望むかどうかは、後で決まる」

神父「決めるのは、誰です」

ド「辿り着いた奴だな」

静かな波。
神父は海を見る。

神父「救いは、那辺にあるのでしょう」

ドゥアルテは答えない。
風が帆を鳴らす。

ド「神父さん」

神父「はい」

ド「正しいことをしてる、なんて顔はできねぇ」

沈黙。

ド「積んできたものの中にゃ、血の匂いも混じってる」

神父は何も言わない。

ド「港は増えた。道もできた。
 だがな――残ったのは、それだけじゃねぇ、が」

間。

ド「太陽が昇る方角は、目指せねぇ」

雲が流れ、月がのぞく。

ド「せめて――月の明かりが導く方へ、だ」

波が船腹を叩く。

神父「光は同じでも」

神父「見ているものは、違うかもしれません」

ド「それでも、目印にはならぁ」

間。

神父「導かれた先で、人は何を得るのでしょうか」

ド「手に入るものだ。まずはそれでいい」

神父「それで満たされないものは」

ドゥアルテはわずかに笑う。

ド「神父さんの出番だろ」

風が少し落ちる。
月明かりが甲板に薄く広がる。
神父は静かに言う。

神父「……救いは、那辺にあるのでしょうか」

神父「私には、まだ分かりません」

長い沈黙。
遠くで舵がきしむ。

ド「……あんたの名前、聞いたことがある」

神父は振り向かない。

ド「フランシスコ・ザビエル、だったか」

わずかな間。

ザビエル「はい」

ドゥアルテは短く息を吐く。

ド「なら、覚えとく」

波音だけが残る。

月は、誰のものでもないまま、海に光を落としていた。


↓第八夜

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