#11 自信のない1年目課長と、1年間1on1し続けた話


いきなり課長になって、うまくいく人には共通点がある。ある程度、苦労している人だ。そうでなければ、人を動かすという役割の変化に、すぐには対応できない。

今の時代はなおさら難しい。自分より年上の部下は珍しくないし、異性の部下に対しては、言うべきことを言い切れないこともある。何かを指摘すればパワハラを疑われ、距離を縮めようとすればセクハラを疑われ、飲み会に誘えばアルハラを疑われる。もはや、どうすればいいのか分からなくなってしまう——そんな状況に陥っているのは、あなただけではない。

二人の新人課長

その年、二人の課長が同時に生まれた。

一人は女性で、お子さんは小学生になったばかりだった。幼稚園から小学校に上がったばかりのこの時期は、育児にとりわけ手がかかる。そのタイミングでの登用だった。彼女は、仕事と育児を両立できるだろうか、という悩みを抱えていた。

もう一人は、若い男性課長だった。目立った実績があったわけではない。かといって動きが悪かったわけでもない。ある意味、上司に引っ張られる形で登用された。彼もまた自分に自信がなく、部下には気の強いメンバーが揃っていたこともあって、なかなかリーダーシップを発揮できずにいた。

タイプはまるで違う。だが、二人とも「自分にできるのか」という同じ不安を抱えていた。

週1回、30分

私は、この二人と週1回、30分の1on1を、1年間続けた。

話す内容の8割は、メンバーのこと、そして課長自身のことだった。残りの2割は、私がまだ報告を受けていない案件について。とはいえ、案件そのものの進め方で悩むことはほとんどなかった。二人とも、解決の方向性まではすでに自分で考えられていたからだ。悩んでいたのは、その先——人をどう動かすか、だった。

課長からの話と、メンバーからの話は、まず一致しない

1on1で私が確認していたのは、"課長から見たメンバーの姿"だった。ただ、それを聞くだけでは足りない。私自身も、それぞれのメンバーに第三者として接点を持ち、周囲からどう見られているかを別ルートで拾っていた。

課長が語る内容と、私が周囲から聞く内容が一致したことは、まずなかった。

これは、責めているのではない。自分は頑張っているつもりの課長は多い。だが、自分がメンバーと接する中で感じていることと、メンバーが上司に対して実際に思っていることは、ほとんどの場合、違う。違っていること自体は構わない。問題は、そのズレの大きさだ。ベクトルが違いすぎると、仕事が前に進まなくなる。

そして厄介なのは、外からどう見られているかではなく、自分がどう思っているかだけを見ていると、このズレに気づくのが遅れる、ということだった。

気づかせるだけでいい人、武器を渡すべき人

私が1on1でしていたのは、基本的には「気づかせる」ことだった。メンバーとの方向性そのものを教えることはしない。「こうしたほうがいい」とは言わない——そう思っていた。

だが、二人を見ていて気づいたことがある。それだけでは足りない相手もいる。

女性課長は、コミュニケーションの土台がもともと強かった。両立の不安そのものを解決してあげることはできないが、彼女自身が見えていない景色——メンバーが本当はどう感じているか——に気づかせれば、あとは本人が動いた。視座を上げる問いかけだけで十分だった。

男性課長は違った。特に男性の管理職は、コミュニケーションそのものが得意でないことが多い。逆に言えば、コミュニケーションがもともと強い課長は、いわば半分できあがっているようなものだ。視座だけで十分なのは、その人たちだけである。

彼には、視座だけでなく武器が必要だった。悩むことをやめさせ、解決の方法や、メンバーをどう動機づけるかという戦術そのものを渡した。新任課長には、気づきだけでなく、武器を渡すことが必要な場合もある。

一年後、二人はどうなったか

女性課長は、家族との時間をどう作るかという課題そのものは消えなかった。それでも、視座は見違えるほど上がっていった。小さなことで一喜一憂しなくなり、現場での衝突も減っていった。

男性課長は、真逆の変化を見せた。以前は一人で悶々と抱え込むタイプだったのが、メンバーに質問しまくるようになった。時には、嫌がられるくらいの頻度で。悩みを溜め込む人から、聞きに行く人へ。渡した武器を、実際に使い始めた証拠だった。二人とも、出発点とは違う場所にたどり着いた。

「励ます」は、聴き続けることでしかできない

一年間、毎週30分。特別なことは何もしていない。

けれど、この積み重ねが、二人をここまで変えた。「励ます」というのは、ただ元気づける言葉をかけることでも、答えを教え込むことでもない。本人にもともとある視座を引き出すべき時もあれば、本人にまだない武器を渡すべき時もある。その見極めは、話を聴き続けることでしか、できない。


【分類】⑧ 人材育成・キャリア論 / 公開順 12本目(計画上)/ 関連記事:#5「ダメな上司に出会ったら、勝ちかもしれない」(育成シリーズ)


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