【初投稿】遣唐使物語(プロローグ)
灼熱の太陽が容赦なく照りつける砂漠。どこまで歩いても果てしない砂の海が続き、遣唐使の青年、船穂広麻呂はついに力尽きて砂漠に倒れ込んだ。熱砂に頬を押し付け、かすかに呼吸をするのが精一杯だった。
(……これまでか)
乾ききった喉からは声も出ない。目を開ける力すらないまま、広麻呂はゆっくりと意識を手放そうとしていた。
どれほどの時間が経っただろうか。遠くの方で、乾いた大地を叩く規則的な音が聞こえたような気がした。幻だと思いながらも、彼はかすかにまぶたを持ち上げた。
陽炎の向こうから、一筋の影が近づいてくる。それは、紛れもなく一頭の馬と、それに跨る人影だった。
広麻呂が砂埃の中で朦朧とする視線を上に向けたとき、太陽を背にして佇む人物の姿が目に飛び込んできた。豪奢でありながらも機能的な唐の武官の装束を身にまとった、凛とした佇まいの女性だった。風に舞う深紅の衣が砂の色と鮮やかな対比を描いている。
(これが、砂漠に現れると伝え聞いた幻か……)
過酷な旅の果てに見えた美しい幻影。そう呟こうとした広麻呂の視界に、女が馬から飛び降りて駆け寄る姿が映った。彼の肩を抱き起こし、その顔を覗き込んだ。意思の強さを感じさせる瞳。それは決して幻ではなく、確かな温もりを持つ人間だった。
「立てるか?」
凛とした、唐の言葉が遣唐使の耳に届く。
彼は言葉を発することができなかった。女は何も言わず、細い腕に似つかわしくない力強さで広麻呂を抱え上げると、軽々と自らの馬の背に乗せた。
手綱を引いた彼女は、青年を後ろから支えるように鞍に腰を下ろす。
「行くぞ。つかまれ」
彼女が一声かけると馬は力強い足取りで砂を蹴り上げ、走り出した。吹き付ける砂嵐の中、背中に感じる確かな人の体温と馬の揺れに包まれながら、広麻呂はかすかな安堵と共に再び意識を深く沈めていった。
