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店を営むことは文化を耕すこと

2024年8月8日、東京・世田谷区で〈MA STORE(エムエー ストア)〉という店を開いた。

東急世田谷線という、東京に残る路面電車二路線のうちの一線である電車に乗って三軒茶屋駅から三駅目、松陰神社前駅のほど近くにあるこの場所は「日本のコンテンポラリーデザインと工芸を紹介するセレクトショップ」だと名乗っている。

デザインと工芸の前に「コンテンポラリー(contemporary)」という言葉をつけたのは、ここが現代の作り手を紹介する店であるということ、そして訪日客に向けたステレオタイプな日本らしさではなく、現代の日本のものづくりを紹介する店である、という主張を込めたかったからだ。

このお店を始めるまで働いていた、欧米からの輸入品を主とするインテリアショップを辞める時、「次は自分で日本のものを取り扱う店を始めよう」ということだけは心に決めていた。


「日本のものづくり」は世界中で評価されている一方で、当の日本人は欧米のものを好む傾向にある。

それは戦後から長きにわたって追い求めてきた理想のライフスタイル、つまりは流行の洋服を身にまとい、和室ではなく洋室にあるダイニングテーブルで食事をし、合理的に大量生産された既製品に囲まれた豊かな暮らし。
そのオリジナルを作ったのが欧米であり、日本は欧米から学び、模倣することで世界でもそれなりの経済大国という位置まで駆け上がってきた。

その後数十年にわたって「日本のものづくり」が目指す先にはいつもアメリカがあり、フランスがあり、ドイツ、イギリス、イタリア、そしてデンマークといった国々があった。同時に、大量に輸入されてきた映画、音楽、書籍などのあらゆるコンテンツや文化を通して欧米への憧れを醸成させてきた人々は、世界中のものがワンクリックで手に入るようになった今、日本で作られたものではなく、喉から手が出るほど欲しかったオリジナルを手に入れるようになる。

そうして日本に住む人々は、限られたものしか手に入らない時代から使っていた日本のものからは離れ、欧米の歴史に名を残すデザイナーの作品をより多く持つことが、豊かな暮らしを彩るステータス・シンボルになっていく。


ここまでが筆者の、「日本のものづくり」のこれまでの立ち位置と「日本のものづくり」に対する日本人へ抱く率直な印象である。

そして今、改めて伝えたいのは、「日本のものづくり」はずっと模倣だけを続けてきた訳ではなかったということ。
時には模倣を超えて時代を経た後に評価されるものを生み出すほどの技術、そしてものづくりに対する異常なまでの探究心は、オリジナルへの敬意を払いつつも、そこに自国の生活環境や独特の美意識を交えながら真摯にものづくりの歴史を刻んできた。


日本から世界へと提唱された美の価値観として最も有名なのは「民藝」だろう。名もなき職人たちが日々の生活の中で使うために手仕事で作った生活道具の中に真の美しさを見出そうとする運動の、この発端となった宗教哲学者・柳宗悦が河井寛次郎、濱田庄司らと共に発表した『日本民藝美術館設立趣意書』から、今年2026年でちょうど100年になる。

そんな長い時を経て、日本では工芸とデザインが自然に交わり、先人たちの貢献によって蒔かれた種の、新しいものづくりの萌芽がそこかしこに芽生えてきた。それはかつての模倣ではなく、日本独自の、日本でしか生まれえないオリジナルと言えるものづくりだ。
作り手は自身の中に工芸技術はもちろんのこと、ネイティブとして欧米のモダンデザインにも通じる感性をあわせもち、それらと土地に根付く素材や風土、技法を組み合わせながら制作活動を行なっている。

そんな多くの現代的な作り手たちと出会い、それを誇らしく思う一方で、その受け皿となり、作り手を紹介する店が現状あまりに少ない。
本来であれば作り手は店やギャラリーとの関係を通して新たな課題や視点を受け取り、作り手の魅力がより色濃く表現された作品になるよう取り組んでいくものの、作り手は数少ない店のキャパシティーを奪い合うか、自身でセルフプロデュースをしながらSNSを通じて発信し、レンタルスペースを借りて展示・販売といった活動することを余儀なくされてしまっている。

そのような「あるべき姿」と現実のギャップを目の当たりにした筆者は、前述の通り「自分で日本のものを取り扱う店を始めよう」と心に決め、手探りでもがきながら作り手とともに発信を続け、もうすぐ二年が経とうとしている。

店を開くことは文化を耕すこと。

そう遠くない未来に日本の現代のデザインと工芸が、日本を含む世界中の人々に選ばれることを目指して、MA STOREの活動を続けている。

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松尾 翼(MA STORE) 最後までお読みいただきありがとうございます。いただいたサポートは今後の更新のために使用させていただきます。