退職勧奨が違法となるケース4つ!判例や慰謝料相場と簡単な対処法
会社から「辞めてほしい」と言われる退職勧奨は、労働者にとって大きな不安を伴うものである。
外資系企業や管理職として働く方々を数多く支援してきた経験から言えば、正当な範囲を超えた強引なやり方は決して珍しくない。
これから、退職勧奨がどのような場合に違法となるのか、具体的なケースや対処法について、法律の視点からわかりやすく解説していく。



1章 退職勧奨は違法?
退職勧奨そのものは、会社が労働者に対して「自分から辞めてもらえませんか」とお願いをする行為であり、原則として違法ではない。
会社には経営上の理由などで、誰に働き続けるか、あるいは辞めてもらうかを話し合う自由が認められているからである。
しかし、これはあくまでも「お願い(勧誘)」の範囲にとどまらなければならない。
労働者が「辞めたくない」とはっきり断っているにもかかわらず、何度も執拗に繰り返したり、無理やり退職届を書かせようとしたりすれば、それはもはや勧奨ではなく「退職強要」という違法な行為になる。
法律の世界では、労働者の「辞める・辞めない」という自由な意思が尊重されているかどうかが、白黒をつける大きな分かれ目となるのである。
2章 退職勧奨が違法となるケース4つ
退職勧奨が違法となるかどうかは、その手段や方法が「社会通念上相当(世の中の常識の範囲内)」であるかどうかで判断される。
ここでは、裁判所が「それはやりすぎだ」と判断しやすい4つの具体的なケースについて詳しく解説していく。
2-1 執拗・長時間の面談
退職勧奨の回数が異常に多かったり、1回の面談時間が長すぎたりする場合は、違法と判断されやすい。
例えば、以下のようなケースがある。
・数か月の間に、20回を超えるような執拗な面談を繰り返す。
・1回の面談が3時間を超え、労働者が「帰らせてほしい」と言っても拒否して拘束し続ける。
・仕事を与えずに、一日中別室に閉じ込めて退職の説得を続ける。
労働者が明確に拒絶の意思を示しているのに、それを無視して延々と説得を続けることは、もはや自由な選択を妨げる嫌がらせに他ならない。
2-2 人格を否定する発言
退職を促す際に、労働者の人間としての尊厳を傷つけるような言葉を浴びせることは、パワーハラスメントにも該当し、違法性を強める。
例えば、以下のようなケースである。
・「君のような無能な人間は、うちの会社に必要ない」と暴言を吐く。
・「どこへ行っても通用しない」「給料をもらう資格がない」と能力を全否定する。
・他の社員がいる前で、わざと大きな声で退職を迫る。
退職の話し合いにおいて、相手を侮辱したり精神的に追い詰めたりする必要性はどこにもないからである。
2-3 嫌がらせ・不利益行為
退職に応じないことを理由に、仕事の内容を不当に変えたり、労働条件を悪化させたりすることも許されない。
例えば、以下のようなケースが該当する。
・これまで専門職として活躍していた人に、草むしりやシュレッダー係などの単純作業だけを命じる。
・合理的な理由がないのに、役職を解任したり給料を大幅に減額したりする。
・1人だけ別の部屋に席を移し、他の社員との接触を禁止する。
これらは、労働者が自ら「辞める」と言わざるを得ない状況を無理やり作り出す卑劣な手段である。
2-4 脅迫行為
恐怖心を与えて無理やり退職届を書かせるような行為は、明らかに違法である。
例えば、以下のようなケースである。
・「自分から辞めないなら懲戒解雇にする。そうなれば再就職もできないぞ」と根拠なく脅す。
・机を叩いたり、壁を蹴ったりして威圧的な態度をとる。
・「辞めないなら、家族や次の就職先にこれまでのミスをバラす」と告げる。
懲戒解雇という言葉をチラつかせて退職を迫ることは、多くの事案で違法な「退職強要」と認定されている。



3章 違法な退職勧奨をされたら
もし会社から不当な扱いを受けていると感じたら、感情的に反論するのではなく、法的に有効な「武器」を揃えることが大切である。
適切な手順を踏むことで、会社側も強硬な態度を改めざるを得なくなるからである。
以下の4つの対処法を順番に確認していこう。
3-1 証拠を残す
違法性を証明するためには、客観的な証拠が何よりも強力な味方になる。
会社側は後になって「そんなことは言っていない」「労働者が納得して辞めたはずだ」と主張してくることが多々あるからである。
例えば、以下のような準備をしておくとよい。
録音データ:面談の際は、スマートフォンの録音機能などで内容を記録する(自分が出席している会話の録音は、基本的には違法ではない)。
詳細な日記:面談の日時、場所、誰が同席したか、どのような暴言や威圧的な態度があったかを細かくメモに残す。
メールや書面:会社から送られてきた退職を促すメールや、不当な配転命令の通知などは、すべて保存しておく。
「いつ、どこで、誰に、何をされたか」が明確であればあるほど、後の交渉が有利に進む。
3-2 弁護士に相談する
自分の置かれている状況が「違法」なのか「正当な範囲内」なのかを一人で判断するのは難しい。労働問題に詳しい弁護士に相談することで、進むべき道が明確になる。
例えば、以下のようなメリットがある。
・今受けている退職勧奨が、法的に見て「退職強要」にあたるか判断してもらえる。
・弁護士があなたの代わりに会社と交渉することで、精神的なプレッシャーから解放される。
・万が一退職することになっても、より有利な条件(解決金の増額など)を引き出せる可能性が高まる。
早い段階で専門家の意見を聞くことは、自分を守るための最大の防御策である。
3-3 通知書を送付する
口頭で「辞めません」と伝えても無視される場合は、書面で正式に意思表示をする方法がある。
例えば、内容証明郵便を利用して「退職勧奨には応じない」「これ以上の面談や嫌がらせはやめてほしい」という趣旨の通知書を会社に送る。
これにより、会社側に対して「労働者が法的手段を辞さない覚悟である」という強いメッセージを伝えることができ、強引な勧奨をストップさせる効果が期待できる。
3-4 労働審判・訴訟を提起する
会社との話し合いが平行線に終わり、一向に違法な退職勧奨が止まらない場合には、裁判所の手続きを利用して解決を図ることになる。
まず検討されるのが「労働審判」という制度である。
これは裁判官と労働問題の専門家が間に入り、原則として3回以内の期日でスピーディーに解決を目指す仕組みである。
通常の裁判よりも手続きが早く進むため、精神的な負担を抑えつつ、会社側に解決金を支払わせるなどの現実的な落としどころを見つけやすい。
労働審判については、以下の動画で解説している。
もし労働審判でも決着がつかない場合は「訴訟」へと移行する。
これは裁判官が証拠に基づいて、退職勧奨が違法であったかどうか、あるいは慰謝料を支払うべきかどうかを最終的に判決で下す手続きである。
時間はかかるが、会社の責任を公的に認めさせ、正当な償いを求めるための最も強力な手段といえる。
退職勧奨されたらどうすればいいのかについては、以下の記事で解説している。
4章 退職勧奨が違法な場合の慰謝料|20万~100万円程度
違法な退職勧奨によって受けた精神的な苦痛は、法律上「損害」として認められ、会社に対して金銭による賠償を求めることができる。
慰謝料の相場は、一般的には20万円から100万円程度となることが多い。
この金額は一律に決まっているわけではなく、会社が行った行為の悪質さや、それによって労働者が受けた不利益の大きさによって変わってくる。
例えば、以下のような要素が金額を左右する。
・退職勧奨が数か月から1年以上にわたって長期間続けられた。
・面談の回数が数十回に及び、執拗に辞めるよう迫られた。
・暴言を吐かれたり、仕事を取り上げられたりといった嫌がらせを伴っていた。
・会社からの過度な圧力により、労働者がうつ病などの精神疾患を発症してしまった。
ただし、慰謝料金額は低廉となりがちなので、これが認められるためのハードルも高い。
退職届を書いたり、診断書を提出したりする前に、一度弁護士に見通しや方針を相談することをおすすめする。



5章 退職勧奨を違法とした判例
裁判所がどのような基準で「違法」と判断しているのかを知ることは、あなたの今の状況を客観的に見つめ直す大きな手がかりになる。
過去の代表的な事例では、勧奨の回数や期間、そして手段の悪質さが重要なポイントとなっている。
5-1 最判昭和55年7月10日[下関商業高校事件]
【事案】
市立高校の教員に対し、市教委が退職勧奨を行った。短期間に多数回、長時間に及ぶ執拗な説得がなされた。さらに退職しなければ、宿直廃止などの組合要求に応じないという、強硬な態度で退職を迫った事例である。
【結論】
退職勧奨は、社会的相当性を欠き、違法である。
【理由】
退職勧奨は、被勧奨者の自由な意思を尊重すべきである。本件は、回数や態様が執拗で、許容限度を超えている。
さらに、退職を拒む限り他の労働条件の改善に応じないという、不当な圧力を加えた。これにより教員の精神的自由を侵害した。
したがって、社会通念上相当な範囲を逸脱しており、違法と判断された。
5-2 大阪高判平成13年3月14日[全日空事件]
【事案】
航空会社の客室乗務員が労災で休職した。復職後、会社は能力不足を理由に訓練を行い、不合格とした。さらに仕事を与えず、多数回の面談で執拗に辞職を迫り、最終的に解雇を強行した事案である。
【結論】
退職勧奨は違法であり、解雇も無効である。
慰謝料は80万円とされました。
【理由】
面談の頻度や時間の長さ、上司の言動が社会通念上の限度を超えている。これは単なる勧奨ではなく、違法な退職強要に当たる。
会社が早期に退職させる方針を固め、不当に厳しい訓練評価を行った疑いも否定できない。
労働者の人格権を侵害する不法行為を構成するため、会社には慰謝料等の支払義務が認められた。
5-3 大阪地判平成27年4月24日[大和証券事件]
【事案】
証券会社の社員がグループ会社へ出向した。出向先で別室に隔離され、一日百件の飛び込み訪問を命じられた。
さらに獲得した契約の決済を拒否された。これらを退職強要と訴え、損害賠償を求めた事案である。
【結論】
組織的な退職勧奨は違法であり、賠償を命じた。
慰謝料は150万円とされました。
【理由】
別室への隔離や会議への不参加は不自然である。また新卒より過酷な新規開拓に一年間専従させた点も合理的ではない。
一日百件の訪問指示や正当な理由のない口座開設拒否も、退職に追い込む目的の嫌がらせと推認できる。
これらは社会通念上、許容される範囲を超えた組織的で違法な退職勧奨であり、不法行為に当たる。
6章 退職勧奨についてよくある疑問
退職勧奨を受けると、多くの人が「断ったらどうなるのか」「自分の権利はどう守られるのか」と不安になる。会社側の言い分をすべて鵜呑みにする必要はない。
ここでは、一問一答形式で4つの疑問を解消していく。
6-1 Q1:退職勧奨は拒否できる?
拒否できる。
退職勧奨はあくまで会社からの「相談」や「お願い」に過ぎない。
あなたが「この会社で働き続けたい」と思うのであれば、同意する必要はない。
6-2 Q2:退職勧奨で自宅待機を命じるのは違法?
自宅待機命令自体が直ちに違法になるわけではない。
ただし、労働者が退職勧奨を拒否して職場復帰を求めているのに退職させる目的で職場から孤立させるために自宅待機を継続している場合には、違法になることもあるだろう。
6-3 Q3:退職勧奨で録音するのは違法?
退職勧奨の面談は、録音することをおすすめする。
退職勧奨はあなたに向けて行われているものですし、これを録音したことで業務に支障が出るとも言い難いので、退職勧奨を録音することは通常違法とは言えないだろう。
退職勧奨の録音については、以下の動画で解説している。
6-4 Q4:うつ病の人に退職勧奨するのは違法?
うつ病の人に退職勧奨をすること自体は、直ちに違法になるわけではない。
ただし、安全や健康に配慮したうえで行われなければならない。



7章 退職勧奨の相談はリバティ・ベル法律事務所へ
退職勧奨をされたら、是非、リバティ・ベル法律事務所に相談してほしい。
この分野は、専門性が高い分野であるため、弁護士であれば誰でもいいというわけではない。
法的な見通しを分析したうえで、あなた自身の意向を踏まえて、適切に方針を策定する必要がある。
リバティ・ベル法律事務所では、解雇や退職勧奨事件に力を入れており、とくに外資系企業や管理職の不当解雇問題に圧倒的な知識とノウハウを蓄積している。
初回相談は無料となっているため、まずはお気軽にご相談いただきたい。
8章 まとめ
以上のとおり、今回は、退職勧奨が違法なのかについて説明した。
退職勧奨をされたら、安易な発言や態様は控え、証拠をとって弁護士に相談するのがおすすめである。
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