売上はあるのに資金が苦しいIT受託会社が、契約条件で見落としがちなこと
はじめに
IT受託会社の社長と話していると、資金繰りの問題が「売上不足」ではなく、契約条件から起きていることがあります。
案件はある。
売上も立っている。
忙しく仕事もしている。
それなのに、なぜか手元資金が苦しい。
その原因をたどっていくと、検収日、請求日、入金日、外注先への支払日、仕様変更時の追加費用が曖昧なまま進んでいることがあります。
契約条件は、契約書の中だけの話ではありません。
資金繰り表の中にも現れます。
契約条件は「法務の話」だけではない
よく、契約書というと「トラブルになったときのために作るもの」と考えられます。
たしかにそれは大事です。
・責任範囲を決める。
・納品物を決める。
・支払条件を決める。
・問題が起きたときの取り扱いを決める。
どれも欠かせません。
ただし、IT受託会社の経営者として見るなら、それだけでは足りないと思っています。
契約条件は、資金繰りにも直結します。
たとえば、次のような条件です。
・検収はいつ終わるのか。
・請求できるのはいつなのか。
・入金は請求後何日以内なのか。
・仕様変更が起きたとき、追加費用は請求できるのか。
・外注先への支払いは、元請からの入金より先に来ないかどうか。
これらは、法律の話であると同時に、経営の話です。
受注金額だけを見て「いい案件だ」と判断してしまうと、あとで資金繰りが苦しくなることがあります。
売上が増えても、お金が残るとは限らない
たとえば、500万円の案件があったとします。
金額だけ見れば、大きな案件です。
受けたくなる気持ちもわかります。
でも、条件をよく見ると、
検収は納品後。
請求は検収後。
入金は請求月の翌々月。
外注費は毎月発生。
追加作業は「柔軟に対応」。
仕様変更時の費用負担は曖昧。
こういう条件だった場合、どうでしょうか。
売上は立つかもしれません。
でも、入金より先に外注費や人件費が出ていきます。
借入返済や税金、社会保険料の支払いも待ってくれません。
結果として、売上は増えているのに、手元資金は減っていくことがあります。
これは、決して珍しい話ではありません。
IT受託の現場では、仕様変更や追加対応が起きやすいです。
顧客都合で確認が遅れることもあります。
検収がずれ込むこともあります。
そのとき、契約条件が曖昧だと、現場の努力で吸収するしかなくなります。
中小企業庁の情報サービス・ソフトウェア産業向けガイドラインでも、「契約外の追加作業が必要になった場合、委託事業者が追加費用を負担しないことで中小受託事業者の利益を不当に害するときは、問題になり得る」とされています。
つまり、追加作業を「いつものこと」で片づけるのではなく、契約とお金の流れに戻して考える必要があります。
受ける側でもあり、発注する側でもある
IT受託会社は、仕事を受ける側であると同時に、外注先へ仕事を出す側でもあります。
ここが難しいところです。
元請からの入金が遅い。
でも、外注先への支払いは先に来る。
自社の資金繰りが苦しいからといって、外注先への支払いを簡単に後ろへずらすわけにはいきません。
フリーランス法では、業務委託における報酬の支払期日について、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で定めることが求められています。
また、今年1月から施行されている取適法でも、発注した物品等を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めることなどが示されています。
大事なのは、自社の入金条件と、外注先への支払条件を別々に見ないことです。
元請からの入金は遅い。
外注先への支払いは早い。
その差を自社の資金で埋める必要がある。
この構造を見ないまま受注すると、会社の資金繰りはかなり苦しくなります。
契約書は、資金繰り表の入口になる
私は、お客様からご依頼を受けて契約書をチェックするとき、金額だけでは判断しません。
その案件を受けた後、会社が無理なく続けられるか。
外注先に支払いのしわ寄せが行かないか。
社員に過剰な負担がかからないか。
借入返済と入金時期がぶつからないか。
ここを見ます。
売上は大事です。
でも、どんな売上でもいいとは思いません。
大きな案件でも、入金が遅く、追加作業が曖昧で、外注費だけが先に出るなら、その案件は会社を苦しくするかもしれません。
逆に、金額は少し小さくても、条件が明確で、入金と支払いのバランスが取れている案件は、会社を安定させます。
これは、きれいごとではありません。
資金繰りを見れば、かなり現実的な話です。
契約書は、トラブルになったときだけ読むものではありません。
その案件を受注してよいかどうかを判断するための資料でもあります。
受注前に確認したいこと
IT受託会社が受注前に確認したいのは、少なくとも次の項目です。
検収予定日はいつか。
請求できる日はいつか。
入金予定日はいつか。
外注先への支払日はいつか。
人件費が増える時期はいつか。
借入返済日と重ならないか。
仕様変更時の追加費用は決まっているか。
中途解約時の精算条件はあるか。
これらを、資金繰り表に落とし込んでみる。
それだけで、案件の見え方は変わります。
「売上になるか」だけでなく、
「資金が先に出すぎないか」
「外注先に無理を押しつけないか」
「社員の負担で吸収する前提になっていないか」
「会社が続けられる条件になっているか」
そういう見方ができるようになります。
契約条件を見ることは、信用を守ることでもある
資金繰りが苦しくなると、判断が雑になりがちです。
本当は確認すべき契約条件を流してしまう。
外注先への支払いを後ろにずらしたくなる。
追加作業を無理に飲み込んでしまう。
次の案件を焦って取りに行く。
そうなると、短期的には何とか回っても、長期的な信用を失うことがあります。
だからこそ、受注前に契約条件を見ることは大事です。
法的に問題がないか。
たしかにそれも必要なことです。
でも、それだけではなく、
人として納得できる条件か。
外注先や社員にしわ寄せが行かないか。
その案件を受けた後も、会社が無理なく続けられるか。
ここまで見て、初めて経営判断になると思っています。
わたしが代表をつとめる行政書士事務所ACTIONでは、IT受託会社の資金繰りや借入返済、契約条件をバラバラに見ず、つなげて整理することを大切にしています。
契約条件を、資金繰り表の一部として見る。
それだけで、受けるべき案件と、慎重に考えるべき案件の見え方は変わります。
売上金額だけで判断しない。
入金日と支払日まで見て判断する。
地味ですが、会社を続けるためには、とても大事な視点だと思います。
