「支払いを守りながら、進められるか」~IT受託の社長が受注前に見るべき、お金の出入りの順番
はじめに
「今月も現場はフル稼働、案件も途切れない。売上だってしっかり立っている。……なのに、なぜか月末の残高を見てヒヤッとする」
IT受託会社の経営において、これは決して珍しいことではありません。
実は、IT受託というビジネスは、「受注側」でありながら「発注側」でもあるという特有の難しさを抱えています。
今回は、2024年11月に施行されたフリーランス法や新しい取引ルールをきっかけに、会社を削る「無理な売上」を卒業し、健全な成長を手に入れるための視点を整理します。
1. 利益が出ることと資金が回ることは違う
300万円の開発案件を受注したとします。
外注費が150万円、残りは自社の人件費や利益。
一見、十分に利益が出る案件に見えます。
しかし、ここにIT受託特有の「罠」があります。
出るお金は「今」: 外注エンジニアやデザイナーへの支払いは、当月末。
入るお金は「未来」: 元請からの入金は、検収が終わったあとの翌月末。
この順番がズレているだけで、どれだけ利益が出る案件でも、途中で手元の資金が尽きてしまう可能性があります。
「案件が増えたから大丈夫」という考えは、現場では通用しないのです。
2. 外注費は「経費」ではなく「会社の信用」そのもの
IT受託会社にとって、外注先は単なるコストではありません。
彼らの生活を支えるパートナーであり、その技術が自社の品質を支えています。
「元請からの入金が遅れているから、外注先への支払いも待ってもらう」
そんなことが一度でも起これば、優秀な人ほどあなたの会社から離れていきます。
支払いを守ることは、自社の信用を守ることであり、ひいては案件の品質を守ることに直結するのです。
3. 契約書は法務ではなく、資金繰りの書類
2024年に施行された「フリーランス法」では、報酬の支払期日を60日以内に定めることなどが義務付けられました。
しかし、契約書に日付を書くだけでは不十分です。
「その契約条件を守れるだけの、会社の支払い体力があるか」。
ここまで見て初めて、経営判断と言えます。
着手金や中間金はもらえるか?
検収の期限は決まっているか?
追加作業の扱いは明確か?
これら契約の中身は、そのまま毎月の資金残高を左右する「資金繰りの一部」なのです。
4. 受注ボタンを押す前の、5つの自衛チェックリスト
売上は大事ですが、外注先に無理を押しつけたり、社長自身が資金繰りに追われ続けたりする売上は、会社の土台を弱くします。
案件を受ける前に、最低限この5点を確認しましょう。
入金予定: いつ請求できて、いつ現金が入るのか?
支払予定: 外注費、給与、税金、借入返済がいつ出ていくのか?
検収条件: 顧客確認が長引いた際、請求を遅らせない仕組みはあるか?
追加作業: どこまでが見積内で、どこからが別料金か?
不足の予測: 資金が減る月を、自己資金で耐えるのか、対策を打つのか?
まとめ:数字は「構造」が生み出す結果
「支払いを守りながら進められるか」という視点を持つことで、案件の見え方は変わります。
売上や利益という数字は、あくまで結果にすぎません。その手前には、入金と支払いの順番、そして契約という構造があります。
外注先にしわ寄せをせず、社員にも無理をさせず、社長自身も心穏やかに経営に集中するために。
まずは、売上の前に「お金の出入りの順番」を見直すことから始めてみませんか?
私が代表を務める行政書士事務所ACTIONでは、IT受託会社の経営者向けに、借入・返済・入金時期・外注費を一本の線でつなげて整理する支援を行っています。
受けた後に会社が無理なく続く「構造」を、一緒に整えていきましょう。
