IT受託の社長へ。SCS評価制度で問われるのは、認証の有無ではなく「判断の順番」です
はじめに
「SCS評価制度に対応しないと、もう仕事がもらえなくなるのでしょうか?」
最近、IT受託会社の経営者の方から、このような不安の声を耳にすることが増えました。
2026年度末ごろの開始が予定されているこの制度。
結論から申し上げますが、現時点で過度に焦る必要はありません。
しかし、何も考えなくていいという意味でもありません。
この制度の本質は「セキュリティの格付けを取るか」ではなく、「増え続けるセキュリティのコストと工数を、誰が負担するのか」という、極めてシビアな資金繰りと経営判断の話なのです。
1. セキュリティソフトを買えば済む話ではない
セキュリティ対策と聞くと、ウイルス対策ソフトや監視サービスの導入費用をイメージしがちです。
しかし、IT受託の現場で本当に重くのしかかるのは、目に見えない人件費(工数)です。
社内規程や手順書の整備
取引先から届く膨大な調査票への回答
監査や確認依頼への立ち会い
従業員や外注先への教育
これらひとつひとつに担当者の、あるいは社長自身の時間が奪われます。
月に10時間対応が増えれば、その10時間は本来の「利益を生む開発」には使えません。
「なぜか最近お金が残らない」という状態の正体は、こうした「契約に含まれていない、善意の作業」の積み重ねかもしれません。
2. その保守料金、据え置きで大丈夫ですか?
特に注意が必要なのは、既存の保守契約です。
例えば月額20万円で受託している案件で、ログの提出や脆弱性確認などの「セキュリティ対応」だけが少しずつ増えていったらどうなるでしょうか。
売上は変わらないのに、現場の負担と利益率だけが悪化していく。
これはセキュリティの問題であると同時に、契約範囲と実務のズレという経営課題です。
SCS評価制度が始まろうとしている今こそ、以下の3点について整理するチャンスです。
自社を守るための基本対策
業界で一般的に求められる標準対策
特定の顧客だけが求める追加対応
特定顧客のための追加工数であれば、それは価格交渉のテーブルに乗せるべき案件です。
曖昧なまま「善意」で受けることは、巡り巡って社員の負担や品質低下、そして会社の首を絞めることになりかねません。
3. 外注先を「絞る」ことになるリスク
IT受託会社は、顧客から対策を求められる側であると同時に、フリーランスや外注先へ対策を求める側でもあります。
もしあなたが外注先に高いセキュリティ水準を求めたら、当然その外注費も上がります。
あるいは、対応できる外注先が見つからず、案件開始が遅れるかもしれません。
「自社は顧客から追加費用をもらわないのに、外注先には負担を強いる」。この構造では、いずれビジネスが立ち行かなくなります。
4. 借入の前に「何を守るための投資か」を見る
制度対応のために新しい設備やサービス導入が必要になり、借入を検討することもあるでしょう。
その際、判断基準にすべきは「金融機関の融資審査に通るかどうか」ではありません。
その投資は、年間いくらの取引を維持するためのものか
毎月の返済とサービス利用料を払っても、粗利は残るか
1社のためだけの投資になっていないか
「必要だから払う」で終わらせず、その費用をどの売上で回収するのか。
ここまで見て初めて、会社を存続させるためのセキュリティ対策になります。
結びに:まず「分けて」考えることから
SCS評価制度への対応は、セキュリティ担当者だけの仕事ではありません。契約、価格、外注、採用、そして資金繰りに関わる「経営判断」そのものです。
制度開始を前に、まずは今の頭の中の不安を仕分けしてみませんか?
主要な取引先からすでに調査票が来ているか
実際に誰が、月に何時間対応しているか
追加費用を請求できる契約になっているか
焦って「評価」を取りに行く必要はありません。
自社の取引とお金の流れを冷静に見つめ、「判断の順番」を整えること。
それが、激変するIT業界であなたの会社を守る最強のセキュリティになるはずです。
※本記事は、2026年7月21日時点で経済産業省およびIPAが公表している情報をもとに、IT受託会社の経営判断という視点から整理したものです。
SCS評価制度は現在、2026年度末ごろの開始に向けて準備が進められており、今後、制度内容や運用が変更される可能性があります。
最新情報は経済産業省・IPAの公式情報をご確認ください。
契約内容や法的責任については、必要に応じて弁護士などの専門家へご相談ください。
