「借りられるか?」より、「返せる構造になっているか?」が重要
IT受託会社は「融資が通るか」より「返済しながら回るか」を先に見たほうがいい理由
はじめに
IT受託会社が資金調達を考えるとき、まず気になるのは「いくら借りられるか」「今回の融資は通るか」です。
受託開発やSESの会社では、資金を借りられれば安心につながる、とは限りません。
なぜなら、IT受託会社のお金の動きは、売上の見え方と手元資金の動きがずれやすいからです。
案件は動いている。
見積もりも出ている。
売上の予定もある。
それでも、検収がまだ、請求がまだ、入金は来月末、その間に給与や外注費は先に出る。
このような構造があるため、融資を受けても、返済が始まったあとのほうが苦しくなることがあります。
日本政策金融公庫も、借入金は返済が始まると資金を減らす要因になり、利益が出ていても資金繰りが厳しくなることがある、と説明しています。
つまり、借入は「通ったかどうか」で終わる話ではなく、返済しながら会社が回るかどうかまで見て考える必要があります。
この記事では、IT受託会社の経営者が、
「融資を受けるべきか」ではなく
「返済しながら採用・外注・投資まで進めても無理がないか」
を判断するための見方を整理します。
借りられたことと、安心して返せることは同じではない
IT受託会社では、融資が通った直後は少し安心しやすいです。
預金残高が増えるからです。
ただ、そのあとに待っているのは毎月の返済です。
帳簿の上では利益が出ていても、手元資金が足りなくなることはありえます。
IT受託会社でここが難しいのは、案件の進み方と入金のタイミングがそろわないことです。
たとえば、こんな流れは珍しくありません。
エンジニアを先に採用する
案件に入るまで待機が出る
稼働が始まっても請求は月末締め
入金は翌月末、または翌々月
その間も給与、社会保険、外注費、家賃は出ていく
さらに融資の返済も始まる
この状態で「借りられたから大丈夫」と考えると、後で苦しくなりやすくなります。
大事なのは、借りられる額ではなく、返済が始まったあとに資金が細くなる月がないかを見ることです。
返済は毎月の固定負担になり、受託会社の資金繰りを静かに圧迫する
返済のやっかいなところは、急に大きく見えないことです。
毎月少しずつ出ていくため、最初は耐えられそうに見えます。
ですが、IT受託会社はもともと、月ごとの入金の波が出やすい業種です。そこに返済が乗ると、資金繰りはじわじわ苦しくなります。
特に受託開発では、売上が立つ時期と現金が入る時期がずれることがあります。
契約によっては、検収が終わるまで請求できません。
月額の準委任でも、請求締めと入金サイトの関係で、売上計上と入金にずれが出ます。
SESでも、稼働は始まっていても、実際の入金まで1か月以上空くことがあります。
資金繰りを考えるうえでは、売上代金の受取条件と支払条件を把握する必要があります。
つまり、金額だけでなく、いつ入るか、いつ出るかが重要です。
IT受託会社の資金繰りでは、ここにさらに次の支出が重なります。
エンジニアの給与
社会保険料
業務委託・外注先への支払い
採用費
オフィス費用
ツールや開発環境の費用
借入返済
ひとつずつ見れば耐えられそうでも、同じ月に重なると一気に苦しくなります。
返済は、その重なりを強くする固定負担です。
借入後に経営判断はむしろ大変になる
採用・外注・投資を進めるほど「返せる構造」が問われる
融資は、借りた時点で終わりではありません。
むしろ、借入後のほうが経営判断は大変になります。
IT受託会社は、売上を増やすために人を増やす場面が多いです。
採用を進める。外注先を広げる。営業を強くする。教育に時間をかける。
どれも間違った判断ではありません。
ただし、先にお金が出て、売上化や入金は後ろになることが多いため、返済が始まった状態で一気に進めると危うくなります。
たとえば採用です。
エンジニアを採用しても、その人がすぐフルで売上をつくるとは限りません。
待機が出ることもあります。研修期間が必要なこともあります。
案件アサインまで時間がかかれば、その間は給与だけが先に出ていきます。
外注も同じです。
案件を回すために外注を使うのは自然です。
ですが、外注費の支払いが先、発注元からの入金が後という構造だと、粗利が出る案件でも資金繰りは苦しくなります。
借入金の返済原資は利益であり、今後の収支見込みを立てて返済可能性を考えることが大切です。
IT受託会社では、これをもっと実務に引きつけて考える必要があります。
返済できるかどうかは、利益の有無だけでなく、採用後の稼働率、案件開始時期、請求条件、入金サイトまで見ないと判断しにくいからです。
追加融資を前提にしている会社ほど、最初の借り方を慎重に見たほうがいい
創業期や拡大期のIT受託会社では、最初の融資だけで終わらないことがあります。
数か月後、あるいは1年後に、追加融資を考える場面が出てきます。
ここで起こりやすいのが、
「まずは借りられるだけ借りよう」
「足りなくなったらまた借りればいい」
という考え方です。
もちろん、追加融資そのものが悪いわけではありません。
ただ、追加融資を前提にするなら、最初の借り方と返済計画がとても重要です。
すでに返済が始まっている借入があると、そのぶん毎月の固定負担が増えます。
その状態で採用や投資を重ねると、次の融資を受ける前に資金が細くなることがあります。
資金調達を考える際は、資金使途に応じて短期と長期の借入を適正に使い分ける必要があり、長期借入では将来の返済能力が重要です。
つまり、IT受託会社が追加融資を前提にするなら、
「今回いくら借りるか」だけではなく、
「返済が始まったあと、次の融資が必要になるまで持つか」
「その間に採用や外注を進めても回るか」
まで見ておく必要があります。
返せる構造を見るときに必要なのは、売上見込みより先に「月ごとの資金の流れ」
IT受託会社の社長が「返せる構造」かどうかを見るとき、最初に必要なのは大きな理屈ではありません。
月ごとの資金の流れを並べてみることです。
資金繰り表を使うことで、現金収支の動きや資金不足の予測ができます。
IT受託会社なら、少なくとも次の数字を月ごとに並べたいです。
1. 今後の入金予定
どの案件が
いつ請求できて
いつ入金されるか
ここでは「受注済みかどうか」だけでなく、検収条件、請求条件、入金サイトまで見ます。
2. 毎月ほぼ固定で出る支払い
給与
社会保険料
家賃
ツール利用料
借入返済
3. 案件ごとに増える支払い
外注費
再委託費
採用費
教育コスト
営業費
4. これから予定している判断
何人採用するか
いつ採用するか
外注を増やすか
投資をいつ行うか
5. 手元資金が一番薄くなる月
ここが見えないと、返済が本当に無理ないかは判断しにくいです。
社長が迷いやすいのは、売上見込みがあると安心してしまうことです。
ですが、IT受託会社では、売上予定と入金予定は別です。
返せる構造かどうかは、売上の総額より、そのお金がいつ現金になるかで決まります。
「いくら借りるか」より先に確認したいこと
借入を考えるとき、社長が先に確認したいのは金額より順番です。
特にIT受託会社では、次の順で見ると整理しやすいです。
まず確認したいこと
今の手元資金で、固定支出を何か月まかなえるか
受注済み案件の入金は、いつ入るか
外注費や給与は、いついくら出るか
返済が始まったあとに、資金が薄くなる月はどこか
採用や投資を重ねるなら、どの月から危なくなるか
追加融資が必要になるなら、その前に準備できるか
この順番で見ると、「借りるべきか、借りないべきか」ではなく、
どう借りて、どう返しながら進めるかが見えやすくなります。
相談前に手元にあると整理しやすい資料も、そこまで多くありません。
直近の試算表
通帳の入出金
借入返済予定表
案件ごとの請求予定
入金予定一覧
給与、社会保険、外注費の支払予定
今後の採用予定
大きめの投資予定
このあたりがあると、受託会社特有の「売上はあるのに現金が足りない」をかなり具体的に見やすくなります。
まとめ
IT受託会社にとって、融資で本当に大事なのは「借りられるか」だけではありません。
返済しながら、採用・外注・投資を進めても会社が回る構造になっているかが重要です。
受託開発やSESでは、
検収のタイミング
請求条件
入金サイト
エンジニア採用の先行コスト
外注費の先払い
借入返済の固定負担
こうしたものが重なって、資金繰りを苦しくします。
だからこそ、社長が先に見るべきなのは、希望融資額そのものではありません。
月ごとの入金予定、支払い予定、返済額、採用や投資の時期を並べて、資金が一番薄くなる月を見つけることです。
そこまで見えてはじめて、
「この金額なら借りても返せそうか」
「採用は今か、少し後か」
「外注を増やしても大丈夫か」
が判断しやすくなります。
融資はゴールではありません。
返済しながら回る形をつくれているか。
IT受託会社の資金繰りでは、そこがいちばん大事です。
参考情報
日本政策金融公庫「経営Q&A」 (jfc.go.jp)
日本政策金融公庫「分かりやすく解説 ~アフターコロナを見据えた『収支計画』を立てる」 (jfc.go.jp)
J-Net21「資金繰り表って何ですか?また、どのようにして作成するのですか?」 (j-net21.smrj.go.jp)
J-Net21「資金繰り改善のための資金調達手段」 (j-net21.smrj.go.jp)
中小企業庁「中小会計要領の手引き」 (chusho.meti.go.jp)
