なぜ森の中に学校が?自然との共生・多世代交流を大切にする「愛知保健看護大学校」
愛知県長久手市の雑木林の中に、まるで森と一体化しているような専門学校があります。周辺は木々に囲まれており、校舎自体も天然杉の木造建築。敷地内に一歩足を踏み入れると、四季折々の自然を感じることができます。ここが専門学校愛知保健看護大学校です。
なぜ、このような自然の中で教育を行っているのでしょうか。創始者である吉田一平さん、水野昌子校長、そして学生たちに話を聞くと、意外な答えが見えてきました。
看護と保健がどちらも学べる専門学校

愛知保健看護大学校は、平成5年に開校した専門学校です。看護師と保健師の一貫教育を行っており、卒業時は全員が両方の国家試験を受ける資格が得られます。また、高度専門士の称号が付与されるので、希望すれば大学院へ進むこともできます。




この学校の教育の基本は「人との共生・自然との共生」。通称「もりのがくえん」と呼ばれています。
学校の周辺には「愛知たいようの杜」(特別養護老人ホーム、ケアハウス、デイサービスセンターなど)、「もりのようちえん」などの施設が併設されています。約1万坪の雑木林の中にあるこれらは、総称して「ゴジカラ村」と呼ばれており、小さい子からお年寄りまで多世代の人たちが交流しながら学べる環境となっています。

なぜ自然に囲まれた学校をつくったのか?
コンクリート造りのビルのような専門学校も多い中、なぜこのような自然と調和した校舎を作ったのでしょうか。創始者である吉田一平さんにお聞きしました。

「自然というのは基本的にめんどくさい、つまり手間がかかります。緑を多く残していると、狐が出てきたり、木も放っておくと倒れたりして危ないし、校舎にも虫が入り込んできたりする。そういう“めんどくさいもの”を、人間はずっと排除してきたんです。自分たちが快適に過ごせるようにと。
これは人間関係にもよく似ていると思います。 誰かと関われば、トラブルやめんどうなことが起きる可能性がありますからね」
人との関わりを避け続けると、次第に生き辛くなります。それが、自殺や子どもの不登校、離婚率の高さなどの社会問題につながっているのではないかと、吉田さんは問題提起します。
「最近の若い人たちは、“手入れ”を知らない人が多いと思うんです。自然と同じように人間関係は、もともとめんどくさいものなんですよ。楽なものじゃない。でも、だからといって逃げちゃダメ。まずは、手間がかかるものだと受け入れる。そしてうまくいかないと感じてもすぐにあきらめるのではなく、“手入れ”をすること。そうやって向き合ってると、不思議と相手のことがもっと大事に思えてくるんですよ」
ありのままを受け入れること、そして手入れを怠らないこと。自然を通して、この大切さを体感してほしいと吉田さんは考えています。

多世代交流を通して「自分を知り、他者を理解する」
「自然との共生」だけでなく、この学校にはもう一つ理念があります。それが、「人との共生」です。この理念が生まれた背景についても、吉田さんは教えてくれました。
「今の子どもたちは、勉強や習い事など、毎日目の前のことで精一杯なんですよね。何が自分にとっての喜びなのか、どう生きていきたいのか……そんなことを考える余裕なんてないまま、大人になってしまう。自分について考える機会がないんですよ。しかも、そういう大事なことに限って、学校で教えてくれないんですよね」
吉田さんがこう語る背景には、自身がさまざまな方と接してきた経験があります。敷地内にある高齢者施設「愛知たいようの杜」には、高学歴で有名企業で働いてきた入居者も大勢います。しかし、そういった学歴や職歴がある人でも、「どう生きればいいのか迷いがある」と語ることは多いそうです。
吉田さんは、人生を豊かに生きていくためには、「さまざまな属性の人と関わる機会」が不可欠であると考えています。そのために、愛知保健看護大学校では多世代交流を大切にしているのです。
では、具体的にどのように多世代交流が行われているのでしょうか。水野昌子校長に教えてもらいました。

「愛知保健看護大学校は、学校という場所でありながら、誰もが自由に訪れることができます。敷地内にある『愛知たいようの杜』の入居所である高齢の方々、『もりのようちえん』に通う子どもたち、そしてゴジカラ村の施設スタッフ、近隣のボランティア団体のみなさんなど、多様な人たちが日常的に行き来しています。広い校内の休憩スペースでは、食事をしたり、会話をしたりして、交流を深めているんですよ」
実際、この取材当日も、たくさんの方が吉田さんや水野校長を訪ねて来ました。その一人が、近隣のボランティア団体に所属する男性です。抱えていた箱の中には、たくさんのホタルが入っていました。以前、水野校長との会話で話題になり、「ぜひ学校でも飼いたい」とお願いしていたものを持ってきてくれたとのこと。こうした日々の交流が、学校の活動につながることも珍しくないそうです。これこそが、創始者・吉田さんが大切にする「さまざまな人が関われる機会」といえるでしょう。


こうした開かれた交流は、はじめからあったわけではありません。少し前まで、多世代交流はあくまで授業の一環としてプログラムを設け、決められた時間に行うものでした。それを水野校長が、現在のような誰もが自由に行き来できる形に変えたのです。
水野校長は多世代交流について「無理に言葉を交わそうとしなくても、同じ空間を共有することだけでも十分」と語ります。
「たとえば若い人の中には、自分の祖父母以外の高齢者と話したことがないという人も少なくないんです。そういう人たちは、『高齢者施設にいる=病気で元気がない』というイメージを持っていることが多いです。
でも、この学校には『愛知たいようの杜』の高齢の方々と学生が同じ空間で一緒に過ごす場があります。すると学生たちは『施設にいてもこんなにハキハキお喋りができる人もいるんだ!』と気づけるんですよね。
将来、看護師として働く上では、専門知識はもちろん必要です。でもそれと同じくらい、このようにさまざまな方と接して学ぶ経験も必要不可欠だと思っています」

近々、愛知保健看護大学校では学食が新設される予定です。これも単に、「ご飯を食べることができる、お腹を満たすことができる場」を作ることだけが目的ではありません。「人との共生」を感じる場をさらに増やしたいという想いで、水野校長が長年構想していたものが、ついに形になるのです。
「学生にも、食事の配膳など積極的に手伝ってもらう予定です。スープの注ぎ方一つでも、性格が出るんですよね。そういった生活を通して、学生一人ひとりの人柄が伝わって、そこから交流が生まれたら楽しいかなと考えています」
校長の教育観「教え導くのではなく、周りの人と共に育つ」
水野校長の教育観は、いわゆる「トップダウン、教え導く」というものではありません。
「私も、周りの人と共に育っているんですよ」と穏やかに語ります。校長という立場でありながら、どんな人からも学べることがあるという謙虚な姿勢。これは水野校長自身の考えであると同時に、この学校全体が大切にしている文化でもあります。
その理念が体現されている、ある職員と学生とのエピソードを教えてくれました。

「以前、昼食の時間になると、毎日学校に割り箸をもらいに来る学生がいたんです。ある職員がその子に対応していたんですけど、毎日割り箸をあげ続けているんですよね。渡すついでに、毎回ちょっとした会話もしていて。その様子をしばらく見ていたんです。そうしたらその子、初めは声も小さくてコミュニケーションが苦手そうだったんですけど、だんだんと声も大きくなり、性格も明るく変わっていきました。
もし、『割り箸は自分で持ってきてね』と注意だけで終わっていたら、その子に良い変化は生まれなかったでしょう。人と関わり続けることが成長につながることを、この職員と学生の姿から改めて気づかされました」
またあるときは、事務長の一言に勇気をもらい、自身の教育観に自信を持てたといいます。役職や立場に関係なく、この学校に関わる人々は、互いに良い影響を与え合っていることがわかります。
国家試験合格率100%!教育の成果は実績にも
豊かな人間性を育てるだけでなく、愛知保健看護大学校はしっかりとした実績も残しています。水野校長が着任して1年目には保健師国家試験合格率100%、2年目と3年目は連続して看護師国家試験合格率100%という成果を上げているのです。

学生の学力を上げるために、補習の回数を増やしたり、進級条件を厳しくしたりするなどの取り組みを行っている学校もありますが、この学校が成果を出している理由はそうした制度によるものではありません。「人と自然との共生」を大切にする温かな校風が、学生の心の豊かさを育み、結果として学力の向上にもつながっているのです。
実際、実習先からの学生の評判が良く、最近では愛知医科大学病院、徳洲会病院、公立陶生病院など、複数の病院から指定校推薦を受けるようになりました。
「この学校はいわゆる高偏差値校ではありません。でも、それは学生に能力がないわけではなく、これまで学ぶ環境や機会に恵まれなかっただけなんです。ここに来てから学習習慣をつければしっかり伸びていきます。そのために、教師は学生に声をかけて個人指導をすることもあります。大切なのは、スタート時の学力ではなく、素直さと誠実さだと思っています」
「先生が全員優しい」「就職サポートが万全」学生が語る学校の魅力
学生たちは、この学校の環境についてどう感じているのでしょうか。4年生のみなさんが話を聞かせてくれました。

この学校の良いところについて聞くと、真っ先にあがったのは「先生が全員優しくて、相談しやすいところ」でした。高校時代は、担任の先生くらいしか話さなかったそうですが、この学校では、どの先生とも気軽に話せるといいます。

また、「就職サポートも素晴らしいんです」と学生のみなさんは口を揃えます。国家試験対策だけでなく、各病院ごとに異なる面接対策、小論文添削も、先生が積極的にサポートしてくれるとのこと。「先生が就職に向けて寄り添ってくれる安心感があるよね」と学生さん同士で語り合う場面も見られました。
愛知保健看護大学校には、系列の母体病院がありません。そのため、就職で不利になってしまうのではという不安も始めはあったそうです。しかし、それゆえに実習ではさまざまな病院などに行くことができるため、どんな規模や雰囲気の職場が自分に合っているのかを知ることができます。入学時は不安だった点も、いざ実習を経験すると「この環境で良かった」と感じたといいます。

将来どんな看護師になりたいか聞くと、一人の学生さんが「ご家族の気持ちにまで気を配れる看護師になりたいです」と話し、全員がいっせいに頷きます。
「もし私の家族が入院していたとして、看護師さんが私にも丁寧に対応してくれたら『この人なら安心して任せられる』と思えますよね。だから私も、患者さんとそのご家族、両方に安心を届けられる看護師になりたいんです」
将来への想いを語る学生さんたちの目は、希望に満ちていました。
最後に、「この学校に入学して良かったですか?」と質問したところ、全員が「もちろんです!」と笑顔で答えてくれました。
取材を終えて
創始者である吉田さんの理念、それに共感する水野校長の行動が体現されたことで、今の学校が作り上げられたということがよくわかりました。
また、取材中、お会いした方々全員から優しさが伝わってきたのも印象的でした。一人ひとりの元からの人間性は元より、「自然との共生」「人との共生」を大切にしている環境が、学校の雰囲気をより温かなものにしているように感じました。
愛知保健看護大学校では、一年を通して学校見学会を行っています。参加は事前予約制ですので、看護師・保健師への道を考えている方は、ぜひ足を運んでみてください。

専門学校愛知保健看護大学校
[住所]愛知県長久手市根嶽1216
[電話]0561-63-7676
[HP]https://aichi-skf.ac.jp/
[Instagram]https://www.instagram.com/aichi_morigaku/
