本当の日本人のルーツ① -4つの主要論文が示す3つの起源-
0. 最初に
(1) 4つの論文で分かったこと
古代ゲノム(全ゲノム)解析で、現代日本人のルーツは従来の2重構造(縄文系と弥生系)ではなく、縄文系、北東アジア系(弥生系)、東アジア系(古墳系)の、3つの祖先集団から成る3重構造であることが明らかになった。
全ゲノム解析によって、現代日本人はこの3成分(縄文系、弥生系、古墳系)すべてを保持していることが分かった。
古墳時代(紀元後300-700年頃)に東アジア系の遺伝子が日本に流入し、現代日本人のゲノムに寄与したと推定される。
縄文人は、数千年以上にわたりおよそ複数の1000人という小規模集団(社会)を継続していた。
現代日本人男性の主要な Y 染色体ハプログループとして、遺伝的に大きく異なる2つの源流 D と O が確認された。更に、少数系統として C と N が確認された。
ハプログループD(縄文人に多く見られる系統)は、現代日本人男性の約34.7%に確認され、約20,000年前に日本で拡大が開始されたと推定される。(既存の仮説の基づくため、年代は最近に設定されている)
ハプログループDは、本州と比較して、アイヌ、沖縄(琉球諸島)で特に高頻度な地理分布を示した。
ハプログループO(弥生人に多く見られる系統)は、現代日本人男性の約51.8%に確認された。大陸由来の遺伝子と推定され、弥生時代に朝鮮半島や中国大陸から渡来した農耕民の主要系統として流入したとされる。
O系統のサブクレードO-47zが、約4,000年前に拡大開始したと推定される。
O系統は、九州で最高頻度で存在し、北と南が少なく、本州で多い地理分布を示した。
ハプログループCは、日本集団では割合が少ない少数系統(マイナークレード)。約12,000年前に拡大開始したと推定される。(拡大年代は推定幅あり)
従来の解析では捉えにくかった微細な構造として、「東北」「沖縄」「本土」のグラデーションをする、3つの主要なクラスター(遺伝的まとまり)が存在することが明らかになった。
縄文人は、大陸集団から 約2万〜1万5千年前に分岐したことが推定され、これは海面上昇によって日本列島が島嶼化(とうしょか = 陸続きが島になること)した時期的に整合する。(既存の仮説の基づくため最近に設定されている)
日本人男性が持つ縄文系Dは、約72,000年前に分岐したと推定される。
他の主要論文でも、現代中国人には縄文系(D系統)の遺伝子が極めて稀であることが示されているが、今回取り上げた論文においても中国南部の漢民族、北京の漢民族には縄文系(D系統)の遺伝子が存在しないか、極めて稀であることが示されている。
他の主要論文でも示されているように、今回検証した論文においても、中国南部の漢民族、北京の漢民族の遺伝子は、現代中国人と同じく、O系統が中心で、N系統、C系統も含め、分岐の時期は、いずれも約52,000年〜約38,000年前で、縄文系よりも新しい。
現代日本人には、デニソワ人やネアンデルタール人といった古代型人類由来の遺伝子領域が含まれている。解析により、デニソワ人由来の特定の遺伝子領域(NKX6-1など)が、2型糖尿病への感受性と関連していることが特定された。また、「アルコール代謝」や「肥満度(BMI)」に関わる領域については、日本列島での環境適応による自然選択を受けてきたことが示唆された。
(2) これらのことから言えること
日本人の起源は、黄河文明(BC 4,000年)時の中国人ではない。
現代日本人の起源(約72,000年)は、現代中国人(約52,000年)よりも古い。
D系統および全ゲノム解析によると、日本人と中国人(さらには韓国人)は異なる系統の民族である。
日本人の起源は、縄文、北東アジア系(弥生)、東アジア系(古墳)の、3つの祖先集団から成る3重構造である。
縄文人が弥生人に滅ぼされた訳では無いことが分かる。
日本が2度に渡り大陸から大きな侵略を受け、殲滅ではなく、融和が行われたことが推定される。(殲滅した場合は父系は消える)
侵略が必ずしも殲滅するとは限らず、また、ただの流入では今ほど弥生や古墳の遺伝的要素は大きくならないものと推定される。侵略後、侵略者が融和政策を取ったと考えるのが妥当。
邪馬台国(約200年頃 ~ 250年頃)、ヤマト朝廷(約250年頃 ~ 670年代)は、いずれも古墳系であった可能性が推定される。
三層構造は、縄文以降、出雲王朝(弥生)、大和王朝(古墳)があったとする最近の説にも合致する。
(3) 用語

◉ ゲノム(Genome):
人間の体を作り、働かせるための遺伝情報すべてを指す「肉体の設計図の完全版」。人間一人の設計図すべてを指す。
この中には、目の色や体質などを決める遺伝子だけでなく、遺伝子の働きを調整する領域や、進化の歴史を示す情報も含まれている。
約30億対の塩基(DNA用の文字)から成る膨大な情報で、細胞1個の中に父親由来と母親由来の2セット(1対)として収められている。
ゲノム = 細胞核内全ての染色体 (46本) + ミトコンドリアDNA(核の外)
◉ 染色体(Chromosome):

人間は、細胞1個の中に、23対(合計46本)の染色体を持っていて、それぞれの染色体は、父親由来と母親由来の1本ずつの対になっている。
(この46本分の)約60億対もの膨大なDNAが、細胞内で絡まらないよう、タンパク質に巻き付いて折りたたまれ、整理された構造が染色体である。
分裂時には画像のように凝縮して棒状に見える。
色素で染色するとよく染まって見えるため、染色体と呼ばれる。

◉ DNA:

Deoxyribonucleic acid(デオキシリボ核酸)。
遺伝情報を記録している非常に細い分子の糸。
幅はわずか約2ナノメートル(1ミリの約50万分の1)しかない。
細胞1個に含まれる、全てのDNAをつなげた長さは約2メートル。
DNA は、4種類の塩基(文字)の並びによって構成されている。この4文字の配列(並び順)が、遺伝情報そのものになる。
A(アデニン)
T(チミン)
G(グアニン)
C(シトシン)
例えるなら、DNAはアルファベット4文字の組み合わせで書かれた長文。
遺伝情報は、どの塩基があるか、どの位置にあるか、どの順番で並んでいるかで決まる。
A は T と対になり、G は C と対になる。DNA が二重らせん構造になるのは、この対の関係があるため。
さらに、この対の関係により、片方の鎖の配列が分かれば、もう片方の配列も自動的に決まる。
DNAは、二重らせんがほどけて分かれたそれぞれの鎖を手本にして、それぞれに対応する新しい鎖を正確に合成する。これによって、親から子へ遺伝情報が正確に受け継がれる。

◉ 遺伝子(Gene):
人間の遺伝情報全体(ゲノム)は、約30億対の塩基(文字)からできているが、そのすべてが遺伝子ではない。
DNA中で、特定のRNAまたはタンパク質を作るための部分を遺伝子と言う。
ゲノムの中では、遺伝子は全体の約1.5%、約2万個存在する。
◉ Y染色体:
男子だけが持つ染色体。
男子にだけ、父親から基本的にそのまま渡る遺伝情報。
通常、染色体は父方と母方の情報がシャッフル(組換え)されるが、Y染色体の大部分はこのシャッフルが起きない。
この性質があるため、何世代前まで遡っても直系の父方ラインを特定する強力な手がかりになる。
◉ 性別が決まる仕組み:
男性は X 染色体と Y 染色体を 1 つずつ持っている(XY)。
女性は X 染色体を 2 つ持っている(XX)。
子どもは、母親と父親からそれぞれ 1 本ずつ染色体を受け取る。
母親は X しか持っていないため、必ず X を渡す。
父親は X か Y のどちらかを渡す。
父親が X を渡した場合 → 女の子(XX)になる。
父親が Y を渡した場合 → 男の子(XY)になる。

◉ ハプログループ:
同じ祖先を持つ人たちの遺伝的なグループのこと。
特定の1塩基多型(SNP)を共有している人たちを、一つのグループとしてまとめたもの。
Y 染色体のハプログループは、父から息子へほぼそのまま受け継がれるため、父系の血統(父 → 祖父 → 曾祖父…)を示す。
人類の歴史の中で、ある時代に、ある一人の祖先のDNAに、たまたま1つの1塩基多型(SNP)が発生する場合がある。その1塩基多型(SNP)が子孫に受け継がれた場合、その同じ1塩基多型(SNP)を持つ人たちは同じ祖先から来たと分かる。この共通の目印である1塩基多型(SNP)を持つ集団がハプログループである。
ミトコンドリアDNAのハプログループ: 卵子を通じて母から子(男女両方)へ受け継がれるため、母系の血統(母 → 祖母 → 曾祖母…)を遡る指標となる。
◉ 1塩基多型(SNP):
人の DNA の中で、個々人ごとに1文字だけ違う場所のこと。ごく一般的に見られる遺伝的な違い(個人差)の一種。
人間のゲノムには、このような違いが何百万か所も存在する。
多くの 1塩基多型(SNP)は体質などに大きな影響を与えないが、祖先から受け継がれてきた遺伝的な目印として利用できる。
この研究では、膨大な1塩基多型(SNP)の中から、系統の違い(祖先の違い)を見分けるのに適した 81 箇所を選んで比較した。
◉ セントロメア(Centromere):
日本語では 動原体領域(セントロメア) と呼ばれる。
染色体の中央付近にある「くびれ部分」で、細胞分裂のときに染色体を正しく2つに引き離すための分配装置。セントロメアがないと、染色体は正しく分割されない。
細胞分裂の際、染色体は両側に引き離され分割されるがそのときに、引っ張る糸(紡錘糸)が結合するのが、セントロメア上に形成されるキネトコア(動原体)。
◉ テロメア(Telomere):
染色体の末端(端)にある、DNA を保護するためのキャップ(保護構造)。
日本語では 染色体末端部とも言う。
細胞分裂のたびに DNA は少しずつ短くなる。
染色体の端を保護する。重要な遺伝情報が削られないように先に削られる緩衝材として働く。
染色体同士がくっつくのを防ぐ。
テロメアが一定以下になると細胞は分裂を停止する。細胞の寿命や老化との関連があると考えられている。
生殖細胞やがん細胞、一部の幹細胞ではテロメラーゼという酵素がテロメアを継ぎ足して伸ばすため、分裂回数の制限を受けずに増殖し続けることができる。
1.日本人男性2つ(狩猟民と農耕民)の Y 染色体
(1) 論文タイトル:
日本人2重の起源:(多くの日本人男性の)基盤となる狩猟採集民と農耕民のY染色体
Dual origins of the Japanese: common ground for hunter-gatherer and farmer Y chromosomes
(2) 発表年:2006年
(3) 要約:(Y染色体の研究)
本研究では、日本列島 各地6集団が含まれる、アジアの 39集団 2,500人以上の男性を対象に解析を行った。
この研究では、Y染色体の1塩基多型(SNP)を、81種使用して父系遺伝的な起源を追跡し、
縄文人に多く見られる遺伝子系統(旧石器時代)と、
弥生人に多く見られる遺伝子系統(新石器時代)が、
現代日本人にそれぞれどの程度含まれているかを検討した。現代日本人男性の主要な Y 染色体ハプログループとして、 遺伝的に大きく異なる2つの源流(2重構造モデル)D と O が確認された。
更に、少数系統(マイナークレード)として C と N が確認された。
そして、それぞれに複数のサブ系統(サブクレード)が存在することがわかった。
また、これら(Y 染色体ハプログループ)は、地域ごとに混合割合が異なることがわかった。本研究のサンプルにおいて、現代日本人男性の Y 染色体の、STR 多様性を用いた共祖(コアレセント)解析により下記のことがわかった。
【ハプログループD】(縄文人に多く見られる系統):
当時の呼称でD1b、現在のD1a2aなど。
現代日本人男性の約34.7%に確認された。
約20,000年前に日本で拡大が開始されたと推定される。
アイヌ、沖縄(琉球諸島)で高頻度に存在する、U字型(北と南で多く、真ん中で少ない)の地理分布を示した。
この遺伝子は、日本列島内で独自に多様化したと考えられる。
【ハプログループO】(弥生人に多く見られる系統):
現在のO1b2、O-47zなど。(O系統 = O1 → O1b → O1b2 → さらに細かい枝(O-47z など)
現代日本人男性の約51.8%に確認された。
O系統のサブクレードO-47zが、約4,000年前に拡大開始したと推定される。
九州で最高頻度で存在する、逆U字型(北と南が少なく、真ん中が多い)の地理分布を示した。
大陸由来の遺伝子と推定され、弥生時代に朝鮮半島や中国大陸から渡来した農耕民の主要系統として流入したとされる。
【ハプログループC】:
C系統は日本集団では割合が少ない少数系統(マイナークレード)。
約12,000年前に拡大開始したと推定される。(拡大年代は推定幅あり)
これらの結果は、縄文文化と弥生文化の双方が、現代日本人に対して独立した遺伝的寄与を行ったこと、および、日本列島内での、両者の混合(アドミクスチャー)の程度が、地域ごとに異なることを示している。
さらに本研究は、縄文人祖先は中央アジア起源、弥生人祖先は東南アジア起源という仮説を支持しており、従来の形態学的・遺伝学的モデルとは異なる可能性を示唆した。
※ 従来モデル=縄文人と弥生人はいずれも主に北東アジア圏に起源を持つとする説。この論文は祖先地理起源を主目的にしていない。下記、中央アジア起源説・東南アジア起源説は仮説レベルである。
狩猟採集民は、最終氷期最盛期後に陸続き(陸橋)が水没する以前(約12,000年以上前)に到来し、縄文文化を形成した。
↑ ※ 注意:この記述は本論文で検証された結果ではなく、従来仮説に基づく解釈である。その後、弥生人の移住により、朝鮮半島から水稲農耕が約2,300年前に日本へもたらされた。
↑ ※ 注意:この記述は本論文で検証された結果ではなく、従来仮説に基づく解釈である。現在の全ゲノム研究では、弥生主源流は北東アジア寄りとする説が強い。
(4) 用語:
◉ STR(Short Tandem Repeat):
DNA にある同じパターンが何度も連続して並んでいる部分。
パターンの回数の違いが指紋のように個人の目印になる。
パターンの回数の違いが時間の経過を測る物差しにもなる。
ハプログループがどの家系かを決める大きな住所だとしたら、STRはその中の誰かを絞り込むための番地のようなイメージ。
例えば、ある村の人全員の名字が「田中」だった場合。よく見ると人によって「な」(=STR)の数が違う。
Aさん:田ななな中(「な」が3回)
Bさん:田なななななな中(「な」が7回)
この回数が世代ごとに変わりやすいため、個人識別、親子鑑定、祖先の年代推定、などに使われる。
親子鑑定の場合: 基本的には親の回数を受け継ぐ(父が10回なら、子も10回持っている可能性が高い)。一致すれば親子だとわかる。
祖先の年代推定の場合: この回数は、数世代〜数十世代という長い時間のどこかで、たまに「1回増える」「1回減る」といった小さなコピーミス(突然変異)が起きる。 「これだけ回数がズレているということは、枝分かれしてから〇〇年くらい経っているな」と計算できるため、人類のルーツを辿る時計として使われる。
実際には1箇所だけで判断するのではなく、DNA上の複数のSTR領域(十数箇所以上)を同時に調べる
すべての箇所の回数が一致する確率は天文学的数字になるため、犯罪捜査でも決定打になる。
◉ STR多様性を用いた共祖(コアレセント)解析:
STRのばらつき量から、その遺伝系統がいつ頃、共通祖先から増え始めたかを推定する方法。
ばらつきが大きい → 古くから存在
ばらつきが小さい → 比較的新しい
推定できるのは「その系統が増え始めた時期」であり「日本に来た時期」ではない。
◉ 査読誌:
研究論文が掲載される前に、同じ分野の専門研究者(第三者)が内容を審査し、科学的に妥当かどうかをチェックした上で掲載される学術雑誌。
専門家による事前審査を通過した研究だけを載せる雑誌。
(5) 図:



(6) 発表誌:PNAS
Proceedings of the National Academy of Sciences
アメリカ合衆国科学アカデミー(National Academy of Sciences)が刊行する、世界的に権威のある総合科学誌の一つ。
Nature や、Science に次ぐ、世界的に高い評価を受けているトップクラスの査読誌。
(7) 主要著者:
① マイケル・ハマー(Michael F. Hammer)氏
アリゾナ大学 人類学部 教授。
1959年 アメリカ合衆国 生まれ。
人類集団遺伝学では国際的に高く評価されている研究者。特にY染色体研究において、国際的な研究手法の確立に大きく貢献した。
トップティア誌へ論文を継続的掲載している。
② 宝来聡 氏
国立遺伝学研究所 教授(当時)。
総合研究大学院大学(SOKENDAI)教授を兼任。
1948年 日本生まれ。(2004年逝去)
専門分野は人類集団遺伝学・分子人類学。
特にミトコンドリアDNA(母系遺伝)を用いた人類起源研究の先駆的研究者。
1990年代より、縄文人骨、現代日本人、東アジア集団を対象に、古代DNA・mtDNA解析を世界に先駆けて実施。
日本人集団の成立過程について、縄文系、大陸系という複数系統の共存構造を、分子遺伝学的に示した研究者の一人。
PNAS を含む国際一流誌(トップティア誌)に論文を継続的に掲載し、日本人起源研究を国内研究から国際研究へ引き上げた中心人物。
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