なぜ職場に「お局様」は生まれるのか?(個人の性格ではなく、組織の「構造」が生む必然)
「職場にお局様がいて、若手がどんどん辞めていく」
「本人に悪意はないようだが、周囲が萎縮している」
こうした相談は、規模や業種を問わず、経営者・人事担当者から繰り返し寄せられます。
多くの現場で、この現象は「特定個人の性格の問題」として処理され、当該人物への注意・異動・場合によっては退職勧奨といった対症療法で終わりがちです。
しかし、心理学・脳科学・進化心理学・日本の雇用史という4つの視点から読み解くと、「お局様」はある条件がそろえば誰にでも、どの組織にも発生しうる構造的な現象であることが分かってきています。
本記事では、その発生メカニズムと、経営・人事が取るべき実務的な打ち手を解説します。
なぜ、対症療法は再発を招くのか?

「若手がどんどん辞めていく」「周囲が常に萎縮している」「本人に悪意はないようだが……」―これが現場の悲鳴です。
これに対し多くの企業が取る対応は、
「特定個人の『性格の問題』として処理する」
「注意・異動・退職勧奨などの『悪者探し』をする」
というものです。
しかし、なぜこのアプローチは再発を招くのでしょうか?
答えはシンプルで、「お局様」は特定の悪人が引き起こすのではなく、組織の「構造」が生み出す必然的な現象だからです。
人を変えても、同じ構造が残っている限り、同じポジションに次の「お局様」が生まれるだけなのです。
▶ この章のポイント
・「お局様」問題への対症療法(個人攻撃・異動・退職勧奨)は再発を招きやすい
・「お局様」は特定の悪人ではなく、組織の構造が生み出す必然的な現象
4つの科学的視点から読み解く

本レポートでは、「お局様」発生のメカニズムを4つの科学的視点から解説します。
・脳科学:排他の快感と報酬系
・心理:内集団バイアスと支配の物語
・本能:群れの中の地位保持戦略
・歴史:日本型雇用の「動けない」構造
これらが重なり合うことで、「お局様」という現象が生まれます。
それぞれの視点を、順番に見ていきましょう。
▶ この章のポイント
・「お局様」現象は「脳科学」「心理」「本能」「歴史」という4つの視点から説明できる
・単一の原因ではなく、複数の要因が重なり合って生じる構造的な現象
視点1:歴史的背景――日本型雇用が生んだ「動けない構造」

日本企業に特徴的な終身雇用・年功序列型の人事制度、そして正社員登用の限られた非正規雇用の枠組みは、特定の人物が長期間にわたり同一部署・同一ポジションに留まり続ける土壌を作ってきました。
特に、定期的なジョブローテーションの対象になりにくいバックオフィス部門や非正規雇用のポジションでは、勤続年数だけが積み上がり、公式な権限は与えられないまま、非公式な影響力だけが肥大化しやすい傾向があります。
公式な役職や権限(キャリアパス)が与えられないまま勤続年数だけが積み上がり、職場の「空気」や「人間関係」に影響力の拠り所を見出す構造―これが「お局様」を生む土壌の一つです。
加えて、「お局様」という呼称そのものが多くの場合女性に向けられてきた背景には、女性の管理職登用が長らく限定的であった日本型雇用の歴史があります。
▶ この章のポイント
・終身雇用・年功序列型の人事制度が、特定ポジションへの長期滞留を生みやすくしてきた
・公式な権限がないまま勤続年数だけが積み上がると、非公式な影響力に拠り所を求めやすくなる
視点2・3:心理・進化――内集団バイアスと「支配の物語化」

社会心理学における「内集団バイアス」とは、自分が所属する集団のメンバーを、所属していない者よりも好意的に評価・処遇しやすくなる心理傾向です。
長年同じ職場に在籍する人物は、時間の経過とともに「職場=自分の内集団(テリトリー)」という感覚を強め、新人や異動者を無意識に「異物(脅威)」として扱う防衛反応を示すようになります。
さらに重要なのは、本人には「支配している」という自覚がほとんどないという点です。
「新人を一人前に育てている」「私が現場を守っている」という物語(ナラティブ)が本人の中で成立しており、指導の目的が本来の「相手を自立させること」から「自分の管理下に置き続けること」へとすり替わっていきます。
この物語化が進むほど、周囲からの指摘は「自己否定」として強く跳ね返されやすくなります。
進化心理学の観点では、集団内で高い社会的地位・発言力を確立し、それを維持しようとする行動は、霊長類にも共通して見られる「生存戦略」の一種と考えられています。
これは知性や人格の欠如ではなく、環境要因によって誰の中にも起こりうる認知的な固着現象なのです。
▶ この章のポイント
・内集団バイアスにより、新人や異動者は無意識に「異物」として扱われやすくなる
・本人に支配している自覚がないまま、指導が「自分の管理下に置き続けること」にすり替わっていく
視点4:脳科学――オキシトシンと「排除の快感」
脳科学者・中野信子氏らの研究知見によれば、「幸せホルモン」として知られるオキシトシンには、身内への結束を強める一方で、「よそ者を合理的な理由なしに低く評価する『外集団バイアス』を強める」という副作用があることが分かっています。
長年の勤続によって職場という集団への帰属意識・結束が強まるほど、この「身内は守る/よそ者は警戒する」という脳内メカニズムが強く働きやすくなります。
さらに、社会的排除に関与するとされる脳の報酬系(腹側線条体など)の研究では、他者の失敗や苦痛に対して快感に近い反応が生じるケースが報告されています。
組織のルールから逸脱していると見なした相手を「正す」行為が、当人にとって心理的な報酬を伴う可能性がある―排除行動は、進化の過程で獲得された「社会を守るための機能」であり、個人の悪意だけでは説明できないのです。
▶ この章のポイント
・オキシトシンには身内への結束を強める一方、よそ者への排他性を強める副作用がある
・「よそ者を正す」行為が、脳の報酬系を刺激し心理的な快感を伴う場合がある
統合的視点:システムが生み出す「必然的な産物」
ここまでの4つの視点を統合すると、次のような構造が見えてきます。
水面上に見えているのは、攻撃的な言動・属人化・周囲の萎縮といった「お局様」現象そのものです。
しかしその水面直下には、内集団バイアス・オキシトシンの副作用・支配の物語化があり、さらに深層には、日本型雇用の停滞構造・群れの中の地位保持本能が横たわっています。
「お局様」はシステムのバグではありません。
現在のHR制度と人間の本能が正常に稼働した結果生まれる「必然的な産物」なのです。
▶ この章のポイント
・「お局様」現象は氷山の一角であり、水面下には心理・脳科学的な要因が存在する
・さらに深層には、日本型雇用制度と人間の本能という構造的な要因がある
「悪」で終わらせない――機能とリスクのダブルエッジ

「お局様」的な存在を単純に排除すべき問題として扱うと、その人物が担ってきた機能まで同時に失うことになりかねません。
組織にとってのメリット(機能)としては、業務知識・暗黙知の継承者であること、緊急時・イレギュラー対応の最終判断役になっていること、職場の規律・ルールの強力な抑止力になっていること、顧客・取引先との長年の信頼関係を担っていることなどが挙げられます。
一方でデメリット(リスク)としては、若手の心理的安全性を損ない離職を招くこと、情報・評価のボトルネックとなり意思決定が歪むこと、マネジメント層から実態が見えず問題が潜在化しやすいこと、自己認識のギャップにより自浄作用が働かないことがあります。
機能を無視して「人」だけを排除すると、業務が停止するか、同じポジションに「次のお局様」が生まれます。
▶ この章のポイント
・「お局様」的な存在は、組織にとってのメリット(機能)とデメリット(リスク)の両面を持つ
・人だけを排除しても、機能が失われるか、同じポジションに次の「お局様」が生まれるだけ
対症療法から「構造の再設計」へ
問題解決のアプローチを比較すると、その違いは明確です。
従来のアプローチでは、問題の所在を「個人の性格・人格の欠如」とし、目的を「悪者を特定し、排除・是正する」こととし、注意喚起・部署異動・退職勧奨を主な打ち手とします。
しかしその結果は「再発(別の人がお局化する)」に終わりがちです。
これに対し、構造の再設計というアプローチでは、問題の所在を「制度の欠陥と人間の本能の掛け合わせ」とし、目的を「属人化した『機能』を組織の仕組みに埋め込む」こととし、権限の明文化・ルール化・ローテーションを主な打ち手とします。
結果として、持続可能な組織、心理的安全性の確保につながります。
▶ この章のポイント
・対症療法は「個人の排除」を目的とし、再発を招きやすい
・構造の再設計は「属人化した機能を組織の仕組みに埋め込む」ことを目的とする
組織の血流を再生する――4つのシステム再設計

具体的な打ち手は、次の4つのサイクルとして設計します。
①権限の再設計:属人化した影響力を制度へ
②滞留の防止:定期的なローテーション
③孤立の防止:若手の情報経路の多線化
④管理職の介入:影響のデータ可視化
「人を変えるのではなく、仕組みを変える」―これが本レポートの核心的なメッセージです。
▶ この章のポイント
・打ち手は「権限」「滞留防止」「孤立防止」「管理職の介入」の4つのサイクルで設計する
・目指すのは「人を変える」ことではなく「仕組みを変える」こと
ソリューション実装①②:権限の回収と、認知固着の防止

まず、属人化した権限を制度に置き換えます。
非公式な影響力の源泉になっている実務知・判断基準を棚卸しし、マニュアルや業務フローとして明文化します。
最終判断や例外対応の権限を、個人ではなく「役職」や「会議体」に紐づけ直すことが重要です。
次に、定期的なジョブローテーションを行います。
3年程度を目安に担当業務・部署を変え、特定ポジションへの過度な滞留を避けます。
非正規雇用・バックオフィス部門にも、可能な範囲で異動・役割変更の機会を用意することが望まれます。
▶ この章のポイント
・非公式な影響力の源泉を棚卸しし、マニュアルや業務フローとして明文化する
・3年程度を目安にローテーションを行い、特定ポジションへの過度な滞留を避ける
ソリューション実装③④:若手の保護と、データ駆動型マネジメント

第3に、新人・若手側の孤立を防ぎます。
指導担当を一人に固定せず、複数のメンター・相談ルートを用意します。
1on1やオンボーディングを通じて、特定個人の評価に依存しない情報経路を確保することが大切です。
第4に、管理職自身が「見て見ぬふり」をしないことです。
「あの人には言っても無駄」という職場の暗黙の了解を放置せず、現場の空気を定期的に確認します。
行動そのものではなく、「離職率・生産性・相談件数」などのデータに基づいて指導の根拠とすることが有効です。
▶ この章のポイント
・指導担当を一人に固定せず、複数の相談ルートを確保することで若手の孤立を防ぐ
・管理職は「見て見ぬふり」をせず、データに基づいて指導の根拠を組み立てる
外部EAPの活用――「感情」と「制度」を切り分けるフィルター機能

「お局様」問題の多くは、社内の人事・上長だけで対応しようとすると行き詰まりやすいものです。
当事者との人間関係の近さゆえに指摘がしづらい、相談者が「社内に伝わるのが怖い」と感じて声を上げられない、管理職自身に十分な専門知識がないといった構造的な限界があるためです。
外部EAP(従業員支援プログラム)が持つ、自社だけでは代替できない価値として、匿名性・中立性、専門性、早期発見・重篤化の予防、人事・管理職の負担軽減が挙げられます。
外部EAPのもう一つの重要な機能は、感情的な訴えの中から「個人間の相性・感情的な軋轢の問題(カウンセリングによるケアへ)」と「解決すべき制度・仕組みの課題(経営・人事による本質的議論へ)」を切り分けて整理する点にあります。
これにより、経営・人事は「誰が悪いか」ではなく「何を仕組みとして直すべきか」という本質的な議論に集中できるようになります。
▶ この章のポイント
・外部EAPは匿名性・専門性を活かし、社内だけでは対応が難しい問題を早期に発見できる
・「感情的な問題」と「制度的な課題」を切り分けることで、経営・人事は本質的な議論に集中できる
結論:持続可能な組織づくりの鍵

「誰が悪いか」を探す時代は終わりました。
「なぜこの構造が生まれたのか」を科学的に理解し、権限・情報・評価の仕組みを組織側から設計し直すこと。
それこそが、経営と人事に求められる真の役割です。
「お局様」は、性格の悪い個人が偶然生まれるのではありません。
内集団バイアスという心理メカニズム、オキシトシンや報酬系がもたらす脳内の作用、群れの中で地位を守ろうとする本能、そして異動の少ない日本型雇用制度という歴史的背景が重なり合って生じる、きわめて構造的な現象です。
あなたの組織では、属人化した「機能」を、どのように仕組みへと埋め込んでいますか?
組織の構造を、外から見つめ直す―株式会社リリオールのEAP支援
「お局様」問題への対応は、社内の人事・上長だけで抱え込むと行き詰まりやすいものです。
株式会社リリオールでは、20年にわたるEAP(従業員支援プログラム)の実績をもとに、組織の現状調査・各種研修・外部相談窓口の設置・心理的安全性を構築する組織開発を行っています。
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ご興味のある方は、ぜひこちらもご覧ください。
© 生産性カウンセラー® 前川 勇 | 株式会社リリオール
