企業が本当に見ているのは学歴ではない?
10年近く前。
大学職員として就職指導をしていた頃の話だ。
企業の人事担当者を招き、学生向けに「実践型の集団面接練習会」を開催した。
時期は3年生の秋。まだ就活慣れしていない学生が多い。
私は小教室の隅で、人事担当者が「どこを見て学生を差別化するのか」を観察していた。
合図とともに、5人の男子学生がリクルートスーツ姿で入室する。
知っている学生はいない。
5人は教室中央に一直線に並び、「お座りください」の声を待っていた。
すると、面接官がいきなり進行を止めた。
「今この瞬間ですが、私は真ん中の学生に一番関心を持ちました!」
空気が少しざわつく。
「スーツの着こなしが非常に自然です。緊張しているのに表情が明るい! 背も高いので、入室した瞬間に目が行きました」
まだ面接は始まっていない。
自己PRも、ガクチカも、志望動機もゼロ。
なのに、もう差がついていた。
正直、私は少し驚いた。
そんなことを最初に言ってしまったら、「中身を見ていない」と批判されそうだからだ。
だが同時に、こうも思った。
「まあ、現実ってそうだよな」と。
人間は、最初の数秒でかなり判断している。
就活だけは例外、なんてことはない。
面接後、私は人事担当者に聞いた。
「なぜ最初に、あえて差がついたことを伝えたのですか?」
すると、こう返ってきた。
「正直に言った方が学生のためだと思ったんです。
5人全員に細かいフィードバックなんてできません。実際に見ているのは、話し方、表情、雰囲気です」
さらに続けた。
「営業職採用なので、この人から買いたいかは重要です。能力試験だけでは決まりません」
なるほど、と思った。
結局、就活も恋愛も、人間関係の入口なのだ。
清潔感がある。
話していて不快感が少ない。
表情が柔らかい。
空気を読める。
こういう人は、恋愛でも就活でも強い。
逆に、清潔感がなく、会話が噛み合わず、他人と自然に接する経験が乏しいタイプは苦戦しやすい。
耳が痛い話だが、企業が最も警戒するのは、
「能力が低い人」より、「一緒に働きたくない人」なのだと思う。
グループディスカッションを見ていると、それは露骨に出る。恋愛経験ゼロ、友人少なめタイプは、
表情、視線、相づち、姿勢、間の取り方に対人経験値が出るからだ。
もちろん例外はある。
だが、多くの場合、「人と関わってきた量」は隠せない。特に営業職ではなおさらだ。
ちなみに、冒頭で人事担当者の視線を独占した学生は、男子バスケットボール部所属だった。
身長190センチ近く。細身だが、スーツ越しでも鍛えられた体格がわかる。
そして何より、自分が見られることに慣れていた。
企業は学歴、ガクチカだけを見ている。
そう信じたい学生は多い。
でもそれなら、面接は要らない。
現実には、「この人と毎日働けるか」が、想像以上に大きい。
