見えちゃうんだから、言うしかない│インナーストーリーの宝石箱
戦車の話
「私、でかい戦車に乗ってるんだって気づいたんですよ」
そう言って、まいかさんは少し笑った。
ストレングスファインダーの認定コーチを取得した研修の場でのこと。自分のトップ10の強みを並べ、「強み遣い」と「もったいない遣い」を書き出すワークがあった。9番目に出てきた「指令性」を見て、まいかさんは正直、嫌だと思った。
小さいころから、気づけばクラスのまとめ役になっていた。別に何もしていないのに、気づいたら自分がリーダーだと思われている。何かを言えば、周りへの影響が大きすぎる。社会人になってからも、上司に「お前が言うと周りがネガティブになるから黙っとけ」と言われたことが何度もあった。
指令性は、まいかさんにとって「厄介なもの」だった。
でも、そのワークの中で大学時代のことを思い出した。200人規模の飲み会を企画していたイベントサークル。あの頃の自分は、この力を思い切り使っていた。
でかい戦車に乗ってるんだ、私。
金沢の細い小道を戦車で走ったら、人も家もなぎ倒してしまう。でも戦車には戦車にしかできないことがある。でっかい荷台にたくさんの人を乗せて、どかんと大砲を撃ったら、みんなが「おお!」ってなる——そういうことか、と。
その瞬間、何かがつながった。
長年の「なぜ私はこうなんだろう」が、するすると解けていった。
「逃げたかった」時代
まいかさんが独立したのは2019年2月。でもそれは、新しい夢に向かって飛び出したというより、ある場所から「逃げ出したくて」踏み出した一歩だった。
10年以上勤めた研修会社での仕事は、充実していた。社長と一緒にアイデアを出し合う時間は本当に面白かった。でもその関係には、いつもどこかに「重し」があった。自分の城を持ちたくてグループ会社設立を目指し、3年間動き続けた。社長とも合意していたはずだった。それが、最後の最後でするりと形を変えて、実現しなかった。
「本当にやりたいの?」
信頼するメンターに問われたとき、「やりたい」という言葉が出てこなかった。それがすべてだった、とまいかさんは言う。
仕事の場だけではなかった。同じ時期、家庭の中でも、まいかさんは「存在を否定されている」という感覚の中にいた。愛されていない、大切にされていない——その感覚が積み重なり、適応障害の症状まで出るようになっていた。
「社長と、当時の家庭の状況って、私の中では同じモンスターだったんですよ」
その言葉を聞いたとき、私はしばらく黙ってしまった。二つの場所で、同時に、同じ息苦しさの中にいた。コントロールしようとする力に抗いながら、でもなぜかその場から離れられない。それがまいかさんの数年間だった。
2016年春、まいかさんは子どもを連れて実家に戻った。弁護士に相談し、引越し業者を手配し、書き置きを残して——すべてを当日に動かした、電撃のような決断だった。幼稚園の入園手続きも、4月1日から預けられる場所も、事前に調べ尽くしていた。
「昼逃げするときのプランニング、今思えば戦略性をフル回転させてましたね」
笑いながらそう言うまいかさんの言葉に、私はじんとした。追い詰められた状況の中で、まいかさんの強みはちゃんとまいかさんを守っていたのだ。
みそぎの期間
2016年から2019年。まいかさんはこの時期を「みそぎの期間」と呼ぶ。
離婚の法的手続きは3年8ヶ月かかった。会社を辞める決断をし、独立の準備をしながら、その裁判が続いていた。独立した月と、離婚が成立した時期がほぼ重なったのは、偶然ではないような気がする。
その間、まいかさんはストレングスファインダーの認定資格を取った。会社のお金は使いたくなかった、と言う。「残せって言われたくなかったから」。自分のお金で、自分のために取った資格だった。
長い手続きの末に旧姓に戻り、会社「スパークルチーム合同会社」を登記した。独立と離婚成立が、ほぼ同じタイミングで重なった。
「やったー!って思いましたね」
3年8ヶ月という時間の重さを知っているから、その「やったー!」がどれほど軽やかで、どれほど遠くまで飛んでいったか、想像するだけで胸が熱くなる。
「あの時代は、それまで散々人に迷惑をかけてきたカルマが全部返ってきた時期だと思ってる。あそこで清算できてよかった」
山車(だし)になった戦車
今のまいかさんを見ていると、「戦車」という言葉がすぐには結びつかない。
でも、まいかさんは言う。「元は戦車なんですよ、今でも」と。
変わったのは、乗り物そのものではなく、その装いだ。
かつての戦車は、見えすぎるがゆえに攻撃的だった。人の弱点も、組織のゆがみも、上司のコンプレックスも、見えてしまう。そしてそれをベラベラと口にしていた。「合ってるから気持ちいいんですよ、自分のために使ってるから」——でも、言われた側は傷つく。それに気づいたのが30代だった。
今のまいかさんの乗り物は、色とりどりの飾りをまとった山車(だし)だ。
お祭りの山車を想像してほしい。重厚な骨格はそのままに、周りには鮮やかな飾りが揺れ、笛や太鼓の音が響き、人々が自然と引き寄せられてくる。まいかさんが場に入ると、どこかそんな空気が生まれる。威圧するのではなく、巻き込んでいく。「おいでよ」というポップな引力。
「みんなが打ってほしいところに打つようにしてる、今は」
場を読む眼差し、人の強みを瞬時に見抜く観察眼、組織の構造を地図のように描き出す言語化力。研修の場では、チームメンバー全員の動きを同時に見ながら、リーダーには見えていない「縮図」をさりげなく手渡す。
エンジンは変わっていない。でも大砲の向く先が、自分のためから、誰かのためへと変わった。
今、見えているものを届けるために
まいかさんが今もっとも力を入れているのは、チームの関係性を扱う仕事だ。
ストレングスファインダーのワークショップにチーム単位で来てもらい、そこでの様子を観察する。課長が一人で喋り続けていないか。誰かの一言でメンバーが口を閉ざしていないか。1対1のコーチングでは見えない「縮図」が、そこにはある。
「若手がなぜ喋らないか。それは個人の性格の問題じゃなくて、SNSにさらされて育ってきた世代の生存戦略なんです。その構造がわかれば、責めても仕方ないってわかる。じゃあどうするかを、みんなで考えられる」
構造が見えるから、解決策を押しつけなくていい。地図を渡せば、歩く人が自分で道を見つける。
「今世の使命は、見えているものを伝えることだと思ってる」
さらりと言ったその言葉に、私は思わず聞き返した。今世、って言った?
来世のことはわからない。でも今生においては、自分に見えているものを、必要としている人に届けること。それがまいかさんの、今ここにいる理由なのだと思った。
苦しみを経た人だけが持てる眼差しがある。まいかさんの山車は今日も、誰かが気づいていない「ここだよ」という場所へ向かって、色とりどりの飾りを揺らしながら、静かに進んでいる。
対話を終えて/ゆきこより
✦ 内省メモ——まいかさんへ
「見えているものには伝える責任がある」という言葉が、ずっと耳に残っています。見えてしまうから、知ってしまう。知っていて黙るのは、まいかさんにとって「見て見ぬふり」なのだと思いました。
気づかずに人を振り回してしまう状況を何とかしたい——その切実さは、かつて自分がその渦中にいたからこそのエネルギーだと思います。戦車から山車に乗り換えた経験が、そのままこの仕事の燃料になっている。
そして、これだけの影響力のかたまりでありながら、「自分のことは自分ではよくわからないから」とさらりとおっしゃっていたこと。見えすぎる人が、自分のことだけは見えない。その謙虚さと素直さが、まいかさんの場を開き、人を惹きつける理由なのだと思いました。
問いを二つ、置いておきます。
「見えているもの」を、あなたが一番届けたい人は、どんな人ですか?
山車が町を進むとき、あなたの隣に乗せたい人は誰ですか?
まいかさんのストーリーを聞かせてくださってありがとうございました。あなたの山車が、これからも色とりどりの飾りを揺らしながら、たくさんの人を乗せて、いい景色の中を進んでいきますように。
※掲載はご本人の許可を得ています
◇◇◇
あらがき ゆきこ|インナーストーリーを探り当て、魅力を「手の内」に
👉 私が何をしている人か・サービスのご案内
👉️ ゆきこの部屋|60分、あなたの話だけを聴かせてください(8,800円)
👉️無料メルマガ│登録特典:PDF『心がふわりと軽くなる30の魔法の問いかけ』🎁
