【連載小説】ダッチン! ~日本の寄付を文化に変える男~ ≪8≫
8 小野寺未唯 その②
スマホの通知音が鳴った。
晩ごはんを作る手を止めて、私はスマホを操作した。
え? 雅樹さんからのメッセージだ。
早すぎる……。
まさか、もう読み終えた?
逆かしら。途中まで読んで、答えを出したとかか。
先々週、誠一のアドバイス通りに、私は雅樹さんに、正直な気持ちをメッセージで伝えた。
雅樹さんからは、「宇宙兄弟を読んでから判断させてください」という、大変ありがたい返信をいただいている。
しかし、2週間でコミック45巻を読み終えるのは早すぎると思う。
雅樹さんは社長業で、日々、ものすごく忙しい。noteの記事に、睡眠時間が極端に短いとも書いてあった。
怖いけど、メッセージを読むしかない。
メッセージを開く。
冒頭に
全巻読みました。
全巻を、2回読みました。
とあった。
「え!? 2回も!?」と、私は思わず声に出していた。
雅樹さんのメッセージは、
すばらしいマンガです!
僕の息子たちにも読んでほしい、と思いました
ぜひ協力させてください!
とあった。
私は、スマホを胸に抱きしめた。
ヒザから力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまいそうになったが、キッチンに手をついて、なんとかこらえる。
でも、頬を伝う涙はこらえようがなかった。
誠一に伝えたい。一刻も速く、誠一にも伝えたい。
lineを送りたいのに、涙でスマホの画面が良く見えない。料理も作りかけのままだ。
lineはやめて、晩ごはんのときに直接話そう。
きっと誠一も、喜んでくれるはず。
*
晩ご飯を食べ終えた誠一が、「そういえばさぁ」と言った。
私は、帰宅したばかりの誠一に、雅樹さんのメッセージを伝えてあった。
誠一は、自分事のように喜んでくれた。それがとても嬉しかった。
久しぶりに私の胸が、キュンと反応した。
「なあに」と私は言う。
自分の声を、いつもより柔らかい声だなと思った。我ながら少し恥ずかしくなり、耳たぶが熱くなったのを自覚する。
「オレもKindleで『かつお』を読んだんだけど、大学生の雅樹さんって、なんであそこまでお金が無かったんだろう? 借金とかしてたのかな。まぁ、大学生は皆お金なんて無いけど、100円玉1枚しかないっていうのは、あまりにも無さ過ぎだよね」と誠一は言った。
カットフルーツをダイニングテーブルに持って行き、「はい、デザート」と言った。笑顔になっているのが自分でも分かる。そして、「その頃の雅樹さんはね、ラップで、名古屋ではチョットした人気者だったんだって。その雅樹さんを慕う後輩とか取り巻きとかがいて、雅樹さんは、その後輩たちの飲食代を、無理して、チョクチョク奢ってたみたい」と説明しながら私はイスに座り、パインを1つ口に入れた。
「それって、芸能人の文化かな。芸能人って、先輩が後輩に奢るのが決まりというか、そんな文化があるってテレビで聞いたことがあるけど」と誠一は言ってマスカットを食べる。
「きっと、そうなのかもね」
「まあ、あるいは芸能の世界でトップを目指す者としての、矜持だったのかもしれないな。……ん。それって未唯ちゃん、雅樹さんと直接会って聞いたの」と、誠一の声が少し硬くなった。
「会ってないわ。岡さんと3人でZoomで打ち合わせして、その時、世間話の中でチラッと出たんだよ。岡さんが、雅樹さんに聞いたの。誠一と同じで『お金、無さ過ぎですけど、何かあったのですか?』って」と私は答えた。
「ああ、あの時のZoomね」と誠一は言って、「それだけお金が無いと、消費者金融に行きそうだけどね。それはなかったんだね」と言う。
「借金は絶対にしないって、決めてたんだって。そこはやはり、経営者の家で育ったからじゃないかしら」と私は言った。「居酒屋で後輩たちに『お金が無い』とは言えなくて、『さっき食べてきた』と言って、自分は飲み物だけでガマンしてたみたい」と、私は少し笑いながら言った。
私は、このエピソードがお気に入りなのだ。
お腹ペコペコなのにヤセ我慢して、目の前の料理を食べずニコニコしてて、しかも、お会計は自分が全部払うって、はたから見たらアンパンマンじゃないかって、Zoom打ち合わせの時に思ったのだ。
あらためて考えてみても、雅樹さんらしいなって、思ってしまう。
ほんとアンパンマンみたいで、可笑しくてたまらない。
リアリストの誠一は、「キツイな、それ。何も食べてなくて腹ペコなのに、眼の前の料理を自分は食べられないのかぁ」と驚いていた。「やせガマンして、帰宅してもキャベツしかなくって……。しかも、そのキャベツまで、かつおに全部あげて、自分はティッシュって、信じられない。……そうか、借金に抵抗がないならティッシュを食べる前にお金を借りてるよね。確かに、借金はしないと決めたがゆえのティッシュなんだな。やせガマンもそこまで行けば、ある意味立派だよなあ」と、複雑な顔をしていた。
「雅樹さんは、『僕は100円の大切さを知っている』って、言ってたわ。寄付の100円に『誰よりも感謝できる』とも言っていて、その言葉には説得力があったの」と私は言った。
「なるほど。だから『かつおクラブ』も、月額100円からなんだね。確かに説得力があるね」
「うん。『1人が1万円寄付する未来より、100人が100円寄付する未来を作りたいんだ』って言ってて、その考えにも共感したの。そんな考えの雅樹さんだから、寄付すべきところに寄付してくれるはずだって、ホント、そう思えるんだよねぇ」
「その『かつおクラブ』に提案して、共に『宇宙兄弟』を寄贈しようって、そう思いついたのは未唯ちゃんのファインプレーだね」と誠一が言った。
誠一が、私のアイディアを褒めるなんて、初めてじゃないかな。
昔、あったかもしれないけど、思い出せないから今日が初めてみたいなものだ。今日は、褒められた記念日だ。
私は、今日、岡さんから届いたLINEを思い出して言った。
「でもね。雅樹さんの20代後半は、ドン底だったみたいよ」と。
「ドン底?」と誠一は言った。
9 に続く
PS.
この記事は、小説です。
連載します。週1の投稿を目標とします。
でも、ときどき投稿できない週もありそうです。(大目に見てほしいです)
おそらく、28話前後となります。
雅樹さん ⇓ が主人公です。
雅樹さんにインタビューをZoomで行ないました。
それを元に書いています。
あと、
雅樹さんのnoteの記事も参考にしました。
雅樹さんのkindle本も参考にしました。
ゆえに、雅樹さんのことはほぼ実話です。
それ以外の登場人物についての描写は、インタビューや記事やkindle本を元にした僕の創作です。フィクションです。
登場人物には、一部、架空の人物も登場させています。(小説ですので…)
物語の案内役である小野寺未唯みいは、
ミイコさん ⇓ がモデルです。
モデルとは言っても、描写は100%僕の創作です。
『かつおクラブ』はコチラです。
『宇宙兄弟』寄贈プロジェクトはコチラです。
拡散大歓迎です。
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