【連載小説】ダッチン! ~日本の寄付を文化に変える男~ ≪1≫
1 小野寺未唯 その①
夫、誠一の性格は、かなり細かい。
誠一に言わせると、私は、かなり「雑」らしい。
もしくは、「いいかげん」とか「思慮不足」などと指摘される。その指摘は微に入り細を穿ち、とても細かい。
私の夢や目標、行動や発言、挙句には努力まで、それら全てが否定されてきた。私には、肯定されたという記憶がない。
私は自分の性格を、「おおらか」とか「ピュア」と捉えている。
だから、そのように反論するのだけれど、まったく受け入れてもらえない。
「おおらかとかピュアとか、そういう面もあるけど、やはり雑だよ」と、私の反論は、何のためらいもなく、一刀両断されてきた。
にもかかわらず誠一は、「オレ、未唯ちゃんのこと、大好き」と、チョクチョクほざく。
いったい、どの口が言っているのだろうか?
そんなことを言われても、日ごろ否定ばかりされている私は、そのセリフを素直に受け取ることが出来ない。
いつから否定されるようになったのだろうか。
結婚して、2~3年はラブラブだったから、それ以降になるのか……。
救いが1つだけある。
誠一が私の存在を否定したことは、これまでに1度もなかった。
常に、私のそばに居たがるし、良く「未唯ちゃんは未唯ちゃんのままでイイんだよ」と言ったりもする。
私の言動は、いちいち否定するけれど、私のことは本当に好きみたい。
そして、独占欲が強い。嫉妬心も強く、かなり束縛してくる。男性のいる飲み会に、私は参加できないほどに。
そんな束縛はもちろん鬱陶しいけれど、愛されている証と思えなくもない。
愛されていると思えるのは、少しだけ嬉しかったりもする。
でも、私の誠一への思いは、恋愛から家族愛へと移行しつつあった。それはごく普通の変化なのだろう。どこの夫婦も似たような感じだと思うし……。
昔は、ソファーに並んで座るのがお決まりだったけど、この数カ月間、私は誠一の隣に座ることを避けてきた。あまりにも隣に座ることを避け続けてきたため、今では隣に座ることができなくなっている。
これって、やはり、倦怠期ってことになるのかしら。
私は、ちゃんと家事を全て行ないつつ、節約や投資も、それぞれ結果を出してきた。その結果は友人に説明したとき、お世辞抜きで賞賛されたほどだ。
なのに誠一は、ひと言も褒めてくれない。
ず~っと否定ばかりされたなら、きっと誰でも、ソファーの隣には座らなくなると思う。
友人に聞いてみても、あるいはnoteで仲良くなったママさんに聞いてみても、みんなパートナーに不満を抱いている。
ラブラブな中年夫婦って、本当にいるのかしら。
ときにnoteで、愛妻家と思われる方を見かけるが、よくよく記事を読んでみると、それはあくまでも「自称愛妻家」であって、奥さんはそう思っていないというケースがほとんどだし……。
いずれにせよ私は、誠一に否定ばかりされ、おのずと相談することは減ってしまい、今では事後報告さえも省略しがちだ。
でも、今日は相談したい。
私の、大事な【夢】にかかわる問題なのだ。
そして、今、私は、自分の判断に自信が持てない。
相談するためには、経緯を説明する必要がある。
なんとも、気が重い。
また否定されるのかな。
誠一のヤキモチが発動しちゃわなきゃいいけど。
でも、夢のためには、勇気を出すしかない……。
*
誠一は、好物の唐揚げを食べながら「相談ってなに?」と言って、私の瞳を見た。
私の作った唐揚げを、美味しそうに食べている。
ここまで美味しそうに食べてくれると、とても嬉しくなる。
私は、帰宅した誠一に、「晩ごはんを食べながらで構わないから、ちょっと相談を聞いてほしい」と、お願いしたのだった。
否定されても構わない。
もし否定されたなら、その時は1人で考え、1人で決断するだけ。
「誠一が私に薦めてくれたマンガ『宇宙兄弟』って、きっと熱狂的なファンが多いんじゃないかしら?」と、私は切り出した。
「多いね。名言をまとめてるサイトもあるし、あと『公式ファンクラブ』もあって、熱狂的というか、熱いファンが多いと思う」と誠一が言った。
「私、コミックを読んでいるとき、何度も誠一に感動を伝えたでしょ。何度も泣いたし、たくさんの勇気も貰ったわ」
「想像以上に嵌まってたねぇ」
「あまりにも感動しちゃって、私、行動しちゃったの」
「行動って、『宇宙兄弟』絡みの行動?」
「うん。私、宇宙兄弟のコミックを全巻、全国の小中学校に寄贈したいの。子供たちに読んでほしいから」
「宇宙兄弟を全巻、寄贈かぁ」
「私の夢なの。そのために、もう、いくつかの学校と交渉を始めたのね」
「ほぉ~。全巻だから1校に贈るのに……3~4万円かかるね。でもイイんじゃない」
「えっ? 反対しないの?」
「反対なんてしないよ。少しずつ、コツコツ寄贈していくのだったら、凄くイイと思う。『宇宙兄弟』は名作だから、あれはマジで読んだ方がイイ。大人だって読むべきだけど、小中学生って、まさにドンピシャだよ」
誠一は否定しなかった。
これは、全肯定だ。
驚いている場合ではない。このチャンスを逃さないように、どんどん説明しなくちゃ。
「でしょ。子供たちにこそ読んでほしいよね。ところがね、本の寄贈って、かなり難しいみたいなの」
「難しい? 寄贈できなかったの?」
「断られたわけではないんだけど、私の考えが甘かったっていうか……」
「甘かった?」
「うん。コミックを寄贈したいわけだから、なんていうか無料で提供させていただくわけだから、きっと先方も喜ぶものだと思っていたの。でも現実は、見知らぬ人から何かを寄贈され、それを受け取ることって、先方にすると、どうやら簡単なことではないみたいなのね」
「なんか怪しいって警戒するのかな。まぁいずれにせよ寄贈される学校側には、何かしらオレらの知らない事情があるんだね。しかし、それはマジで意外だね」
誠一が、否定することなく私の話を聞いている。
これは夢なのかな。
いや、たぶん、現実なはず。
「それでね、誠一は嫌かもしれないけど、私、note仲間の雅樹さんに協力をお願いしてみようかなって。今、そんなことを考えてるんだ」
「note仲間ねぇ。SNSの繋がりは、インターネット上で完結するのなら問題ないんじゃない。リアルで会ったりしないなら、ぜんぜんイイと思うよ」
私は誠一の、【SNSで知り合った人に会う = 犯罪に巻き込まれる】という決めつけは、極端過ぎると思っている。
しかし今は、そんな所を問題にしている場合じゃない。せっかく、全否定夫が、肯定を示しているのだ。
後から、誠一お得意のヤキモチが発動するのかもしれないし、今のうちに、しっかりと言質を取っておこう。
「雅樹さんは、小牧市にある足立熱処理研究所という会社の社長さんで、noteでは『かつおクラブ』という寄付活動を行なっている方なの」
「へえ~、寄付活動って、なんかスゴイね」
「これまでには、例えば、障碍者のデイサービスへ備品や楽器を寄贈したり、最近では、能登に、ボランティアで炊き出しに行くという支援団体に『活動資金』を寄付したのよ」
「ほ~お~」
「私が『宇宙兄弟』を小中学校に寄贈するとき、寄贈実績のある『かつおクラブ』が間に入ってくれたなら、きっと交渉がスムーズに進むんじゃないかな、って思ったのね」
「なるほど」と誠一は、かなり真剣に私の話を聞いてくれている。
「寄贈するための費用は、当然だけど私が負担するわ。でも、どこの誰かも分からない、謎の人物『小野寺未唯』が交渉するのと、寄贈実績のある『かつおクラブ』という団体が交渉するのとでは、先方の安心感に雲泥の差があると思うの。そういう協力ってお願いできないでしょうか?って、雅樹さんに、noteでメッセージを送ってみようかなぁって、そう思っているの」
「なるほど……。未唯ちゃんの『宇宙兄弟を寄贈する』というアイディアを実現するために、寄贈実績のある『かつおクラブ』に対して、そのネームバリューをお貸いただけないか。そういう依頼になるね」
私も、図々しいお願いなのではないかと思っていた。それが、ためらいの理由だった。
しかし、『かつおクラブ』にもメリットがあるはずという思いも、偽りない本心だった。
思考は、何周どころか何十周も回り、もはや自分では判断ができなくなっている。
図々しい、無礼な申し出なのか。Win-Winとなるアイディアの提案なのか。
私は、ノドの奥から絞るようにして声を出した。
「誠一は、このアイディア、どう思う?」
* *
「悪くないと思う」、と誠一は言った。
「ただ、未唯ちゃんにはメリットあるけど、雅樹さんはメリットを感じないかもしれない。メリットがあるとオレは知っているよ。だってオレ、『宇宙兄弟』の大ファンだから。ちなみに、その雅樹さんって『宇宙兄弟』を読んだことあるの」
「そうか、読んだことがあるかないかで、ぜんぜん違っちゃうよね。でも、忙しい雅樹さんに40巻以上もある漫画を『読んで』なんて言えないなぁ」
「読んでほしいなんて言う必要はないよ。そうではなく、未唯ちゃんの本心を伝えたら? 『かつおクラブ』にご協力をいただきたいって、正直にお願いしてイイさ。そういうメッセージを送るのは、オレは、ぜんぜん構わないと思う。未唯ちゃんの課題は、未唯ちゃんの想いを正確に伝えることだよ。その先は、未唯ちゃんではなく、雅樹さんの課題さ」
誠一に相談して、良かった。
メッセージを送るとき、誤解を与えないよう細心の注意が必要だと思えたのも、凄くありがたかった。
今日の誠一は、ちゃんと最後まで私の話を聞いてくれた。
茶化されなかったし、否定もされなかった。逆に背中を押してくれた。
ありがたい。
しかし、どうしてだろう。いつも否定ばかりしてたのに。
誠一の大好きな、『宇宙兄弟』のことだからかな。
もしかすると、私がダイエットを成功したから?
未唯も口だけではないって、そういう風に、私に対する認識が変わった?
いや、もっと単純に、私が昔のスタイルになって魅力的に感じてるとか?
最近、誠一の視線に熱を感じることがあるし……。
「未唯ちゃん、どうしたの、ボ~っとして」
「あ、え。ううん。ありがとう。メッセージの文章を考えてみるわ」
「ところで、ちょっと気になってたんだけど『かつおクラブ』の『かつお』って、何なの?」と、誠一が言った。
* * *
晩ごはんを終えて、私たちはリビングに移動した。
誠一はソファーに座り、私はナナメ横のプーフに座った。ソファーテーブルに、ウイスキーの水割りセットと、ちょっとしたツマミも持ってきた。
私は、ウサギのかつおについて語った。
誠一がヤキモチを妬かないように、「雅樹さんのnoteに書いてあったんだけどね」という、枕詞を省略しないように気をつけて話した。
「つまりね、雅樹さんにとって【かつお】は、単なるペットではなかったのよ。雅樹さんが、ギリギリのところで起死回生できたのも、かつおのおかげだって、雅樹さんのKindleに書いてあったわ」と私が言うと、誠一が眼を大きく見開いた。
「Kindle出版か。……未唯ちゃん、オレ、ひらめいたよ」と誠一が言う。
「なにが閃いたの」
「今度、岡に会って、相談してみる」
「岡って、ライターの岡さん?」
「そう。ドキュメンタリーを書いてみないかって、提案してみる。アイツ、今、Kindle出版に力を入れてるんだ。雅樹さんや、その周りの関係者にインタビューを行なって、noteにドキュメンタリーを連載すれば、その物語の中で、ごく自然に『かつおクラブ』というネーミングにも触れることになると思うんだ」
「そ、それは、そうね……」
「もちろん『かつおクラブ』のことも解説することになるし、宇宙兄弟の寄贈のことにも触れることになるよ」
「あ、そうかも」
「少なくとも、『これを読めば分かる』というKindle本があったなら、何かと便利じゃん」
私にも、誠一の言わんとすることが、なんとなく分かってきた。
告知のチャネルは多い方がイイし、もしかしたならバズルかもしれない。
「岡との交渉は任せて」と誠一が言った。
「未唯ちゃんは雅樹さんに、協力依頼のメッセージを送らないとね」と言って、ウイスキーのグラスを持ち上げた。
私は少し戸惑ったけど、誠一のグラスに自分のグラスを合わせた。
カチリ
と、グラスが鳴った。
照れくさくて、でも、心地好い音色だった。
2 に続く
PS.
この記事は、小説です。
連載します。週1の投稿を目標とします。
でも、ときどき投稿できない週もありそうです。(大目に見てほしいです)
おそらく、28話前後となります。
雅樹さん ⇓ が主人公です。
雅樹さんにインタビューをZoomで行ないました。
それを元に書いています。
あと、
雅樹さんのnoteの記事も参考にしました。
雅樹さんのkindle本も参考にしました。
ゆえに、雅樹さんのことはほぼ実話です。
それ以外の登場人物についての描写は、インタビューや記事やkindle本を元にした僕の創作です。フィクションです。
登場人物には、一部、架空の人物も登場させています。(小説ですので…)
物語の案内役である小野寺未唯は、
ミイコさん ⇓ がモデルです。
モデルとは言っても、描写は100%僕の創作です。
『かつおクラブ』はコチラです。
『宇宙兄弟』寄贈プロジェクトはコチラです。
拡散大歓迎です。
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