【連載小説】ダッチン! ~日本の寄付を文化に変える男~ ≪2≫
2 水野巧大の談
ええっ? ウサギのかつお⁉
憶えてます、憶えてます! なつかしいっ! ええっと、何年前になる? 大学1年生の時だから、もう20年前になるのかぁ~!
インタビューされるなんて初めてですからね。なんか、緊張するなぁ。
かつおは、潤が飼ってたウサギです。薄い茶色というか、ベージュ色というか、そんな色でした。
はじめて見たのは、かつおが赤ちゃんで、…ちっちゃくって可愛かったなぁ。
潤は、大学時代の友達です。大学に入って、すぐ仲良くなったのが、潤と雅樹と啓樹で、いつも4人で遊んでました。
潤の部屋が大学のすぐ近くだったんですよね。正門まで、歩いて3分とかからない距離だったんです。
あと、潤の部屋はワンルームではなく、ふた間あったんですよ。そんなこともあってか、自然と、潤の部屋がタマリ場になったんですよ。
啓樹は実家暮らしで、雅樹は実家から通学できなくない距離なのに、気がつけば俺の部屋に入りびたりでした。1年の時は、ほぼ同居に近かったくらいです。
俺、福井の田舎から名古屋に出てきたんで、なんていうか、やる事すべてが大学デビューで…。
雅樹は、俺の先生だったんですよ。
ファッションも音楽も、夜遊びも全部、雅樹に教えてもらいました。
あ、いや、…教えてもらったっていうか、勝手に俺が、真似てました。
雅樹はモテましたから。
女にモテて、男にもモテるんです。なんか、そういう空気をまとってんですよね。イケてるヤンチャっていうか…。マジで俺、憧れてたもんなぁ。
2年生になると、俺の部屋に泊まることは無くなりましたね。どこをほっつき回っていたのかはよく分かんないけど、ファンとか取り巻きとかいっぱいいましたからね。
そう、ファンです。
雅樹は、名古屋ではソコソコ知られたラッパーだったんです。
ああ、かつおでしたね。ウサギのかつお。
まずは、かつおのことを話しますね。
潤は、かつおを飼って半月もしないうちに、仔猫も飼い始めたんです。おそらく潤は、仔猫を飼うようになってから、かつおの世話を一切しなくなったんだと思います。
ウサギって、甘えたり懐いたり、ましてや芸を覚えたりしないんですよね。リアクションが無いから、「コイツ、つまんねえ」ってボヤいてて…。
まあ、その気持ちは俺にも分かりますけどね。
しかも、かつおは、潤には甘えないのに、なぜか、雅樹には甘えるんです。雅樹の手のひらからはエサを食べるのに、潤や俺の手のひらからは、絶対にエサを食べないんですよ。
それで潤は、仔猫を飼ったんでしょう。ペットショップから連れて帰った日に、「仔猫、見にこいよ。可愛いぜ」って、電話がありました。
久しぶりに潤の部屋に行ったら、とんでもなくクサイんです。
外廊下で「クサッ!」って、声が出ましたから…。
部屋に入ると、ゴミ屋敷でした。臭いは外廊下の10倍クサくって。
悪臭の発生元は、……かつおでした。
あれは絶対に、何週間もゲージから出してない、って思いました。ゲージ内は糞尿だらけで、よく見てみると小さい虫がいっぱいいるんです。
さすがに、かつおが可愛そうで、潤に、いろいろ言ってみたんですけど、ぜんぜん聞く耳持たないんですよ。仔猫とジャレあい、仔猫の可愛い自慢を繰り返すだけでした。
俺は、悪臭に耐えられなくて、スグにあきらめて帰りました。
駅に向かう道中で、啓樹に電話をしました。啓樹は、仔猫のことは初耳で、でも、かつおの悲惨な状況は知っていました。「あれはヤバイよな」と言ってたので…。
ただ、啓樹はマイペースなんですよね。自分のことについて誰かにアレコレ言われるのが超〜キライで、そのかわり人にもアレコレ言わないタイプなんです。
だから、かつおを何とかしなきゃ、とはならなかったんです。
結局、俺が雅樹に言うしかありませんでした。
雅樹は、飼い主の潤以上に、かつおを溺愛していましたから、あの状況を見た以上、伝えないワケにはいかないと考えたんです。
部屋に帰ると雅樹が来ていて、俺は、見たまんまを話ました。
黙って話を聞いていた雅樹が、バッ!と立ち上がって、顔がみるみる険しく変わっていくんです。ヒザも震え出して…。
雅樹は、「見てくる」と言って飛び出して行って、戻って来たのは、夜の、だいぶ遅くなってからだったなぁ。
ゲージを持っていました。
ゲージの中には、もちろん、かつおがいました。
最初、ゲージを新品に買い替えたんだと思ったんです。でも、良く見ると、同じゲージで…。
雅樹は「公園の水道でゲージを洗った」って言ってました。凄くピッカピカになっていて、どんだけ丁寧に洗ったんだろうって思いましたよ。
こうして話していると、昔のことなのに映像が浮かびますね。どんどん記憶が戻ります。
雅樹は、「フロ場で、かつおも洗った」と言って、かつおをゲージから出しました。実家のフロ場で洗ったのか、どこで洗ったのかは聞かなかったけど、かつおはとてもキレイになっていました。
俺も、かつおを抱っこしました。毛並みがふわふわのフサフサになっていて…。雅樹は、かつおとゲージをキレイにすることに、丸1日使ったんだなって思って、ちょっと感動したのを憶えています。
雅樹の腕は、引っ搔き傷だらけで、なかにはかなり深い傷もありました。
「フロ場で、かつおが暴れて大変だった」って言って、シャツをめくって見せたんですよ。
胸も腹も傷だらけでした。
念のため病院に行ったら?って、俺、本気で言ったもんなぁ。スゴイ傷でしたから…。
そして、雅樹はマジメな顔になって「かつおを、ここで飼わせてくれ。エサ代はオレが出す。かつおもゲージも、基本オレが洗う。でも、オレが来れない日は、悪いけど巧大に面倒を見てほしい」って、頭を下げて言ったんです。
俺のアパートは、ペット禁止です。
雅樹も、そのことを知っていました。
でもね…。
雅樹の真剣な目を見て、キレイになったかつおを見て、ピカピカのゲージ、雅樹の傷だらけの腕、そういったのを見ていたら、……断れなかった。
潤のところに返すなんてことは、絶対に出来ないと思ったし。
あっ。…ただね。変な話なんですけど、俺も、かつおの世話をするようになったら、潤の気持ちが少し分かったんですよね。
なんっていうか、ほら、アレです。
かつおは、いつも、世話する俺よりも、たまに来る雅樹に甘えるんです。
それがまた、あからさまで。
雅樹のかいた胡座の中に、ピョンって入ってチョコンと座るとか、そういうのってメッチャ可愛いんですよ。うらやましいの。
俺には絶対にしてくれないし、逆に、胡座の中に座らせてもスグに出て行くんです。
俺の手のひらからは、結局、何一つ食べてはくれませんでしたしね。
かといって雅樹に八つ当たりするのも変だし、とにかくモヤモヤしました。
いやいや、違います、違います。ぜんぜん違う。
だからかつおを河原に捨てたとかって、それは誤解です。
聞いて下さい。事実を話します。
コレは、言い訳ではありません。事実の説明です。
あの日、田舎から、おやじとおふくろが突然きたんです。
俺が、お盆にも実家に帰らなかったから、それでおふくろが心配になっちゃったみたいで。
おやじが、「名古屋駅に着いた。これから電車でそっちに行くから駅まで迎えに来い」って。
びっくりしました。
そして、メッチャ慌てました。
アパートを借りるために、両親について回りましたから、何十万円も出してもらったことを目の当たりにして知っていたし、出迎えないワケにはいきません。
でも、このアパートはペット禁止で、契約時にその説明があったことを憶えていて、親も憶えているはずで…。おやじは考えが古く頑固だし、ルール違反だどうのこうのと面倒なことを言い出すだろうし…。そうなると、おふくろが俺をかばって、おやじとおふくろが夫婦喧嘩になるかもとか…。
要は俺、パニクってました。
はっ!と閃いたのが、河川敷の草むらに、一時的にかつおを隠そう、というアイディアでした。
親が帰ったら、また、連れて帰ればいいだけですから、われながら良いアイディアだと思ってました、その時は。
河川敷の草むらに、かつおの入ったゲージを置きました。
念のため、戻る途中、草むらの上のサイクリングロードから見てみました。
ゲージがあるなんて、まず分からない。置いた俺が、見つけるのに苦労するんです。何も知らない人が、そこに何かがあるなんて、絶対に気づくはずない。
ゲージのロックは確認したから、かつおが逃げる心配もない。
だから俺は、なんの心配もしてなかったんです。
まさか保護されるなんて、思いもしなった。
夕方、おやじたちが帰る時間になって、俺は、最寄り駅まで送って行きました。それから河川敷に行ったんです。
そうしたら、どんなに探してもゲージが無い。当然、かつおもいない。
必死になって探しました。
サイクリングロードに上がって、記憶にある置き場所を、あの辺だなと確認して河川敷に下りて、草むらに入りゲージを探す。これを何度も繰り返しました。
記憶がまったく違うかもと、探す範囲を広げました。そうこうしているうちに、草むらのほぼ全部を探し尽くしていました。
雅樹に怒られる。そう思いました。
隠したくても隠せることではないし、謝るしかないと、肚を括ったことを憶えています。
「かつおが居なくなった」と、電話で伝えました。
雅樹がアパートに来て、俺は事情を全部、正直に話したんです。
胸ぐらをつかまれ、殴られました。
たぶん、俺の腰が引けたせいで、雅樹のコブシは頭を掠めたくらいで…。
だから、頭の痛みは大したことはなかった。
ただ、頭の100倍、胸が痛かった。
雅樹の顔は、怒って真っ赤になったって思いません?
逆だったんですよ。
雅樹の顔は、真っ青でした。
俺、言葉が出なかった。
雅樹は保健所に電話して、次に、警察に電話をしていました。
それで、雅樹の言葉だけでも、なにか手掛かりが見つかったんだと分かりました。
雅樹は、部屋を飛び出して行きました。
それから2〜3時間後に、「かつおは無事だった。俺が面倒をみる」という電話がありました。
いえ。
雅樹とは、ケンカ別れにはなっていませんよ。雅樹は、俺の部屋に来ることはなくなりましたが、でも、大学で会えば普通に話しましたから。たまに、飲みにも行ったし。
世話した上に、殴られて、腹が立たなかったか?…ですか。
ぜんぜん腹は立ちませんでした。かつおを河川敷に置き去りにしたのは、100%俺が悪いですから。
あと俺は、やっぱり雅樹が好きだったから。
……過去形ちゃうな。
今でも雅樹が好きですからね。
雅樹はヤンチャすぎたり、そりゃあ欠点はありましたが、それ以上にカッコイイんです。
最初は、尾崎豊のコピーバンドをやってて。で、少しして気づいたらラッパーになってました。
どんどんファンやら取り巻きやらが増えてって。なんか、オーラみたいなのを感じたもんです。なかなかの人気でしたよ。
もうそろそろ大学卒業だなぁって頃に、雅樹と駅でバッタリ会ったんです。大学の最寄り駅でした。
その時、雅樹は1人でしたから、気軽に話しかけることができて、……俺、その時のことを今でもよく思い出します。
なんと雅樹は、肩に、かつおを乗っけてたんです。
かつおがメッチャ奇麗だった。
毛並みがフワフワでね。目がキラキラしてた。
「じゃあな」って言って離れて、俺、ふとふり返ったんですよ。
雅樹の左肩に乗るかつおがコッチを見てて可愛いし、雅樹の後ろ姿は堂々としてて、めっちゃサマになってて……。
思わず俺、スマホで撮っちゃいましたよ。
3 に続く
PS.
この記事は、小説です。
連載します。週1の投稿を目標とします。
でも、ときどき投稿できない週もありそうです。(大目に見てほしいです)
おそらく、21話前後となります。
雅樹さん ⇓ が主人公です。
雅樹さんにインタビューをZoomで行ないました。
それを元に書いています。
あと、
雅樹さんのnoteの記事も参考にしました。
雅樹さんのkindle本も参考にしました。
ゆえに、雅樹さんのことはほぼ実話です。
それ以外の登場人物についての描写は、インタビューや記事やkindle本を元にした僕の創作です。フィクションです。
登場人物には、一部、架空の人物も登場させています。(小説ですので…)
物語の案内役である小野寺未唯は、
ミイコさん ⇓ がモデルです。
モデルとは言っても、描写は僕の創作です。(仮に小野寺夫婦の会話がリアルだったとしても、ミイコさん宅に盗聴器を仕掛けたりはしてませんので)
『かつおクラブ』はコチラです。
『宇宙兄弟』寄贈プロジェクトはコチラです。
このように、noteにはリンクなども貼ります。
リンクなどを無くし文章だけにして、TALES(テイルズ)にも投稿します。
テイルズはこちらです。
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