【連載小説】ダッチン! ~日本の寄付を文化に変える男~ ≪4≫
4 2004年7月 足立雅樹 19歳
「ごめん、かつお。……ごめん」
オレは、巧大の部屋に入ると、ゲージの前に突っ伏してしまった。
徹夜明けでクタクタだ……。
巧大がいないのに、オレは昨夜、ここに帰って来れなかった。
かつお、すまん……。
「お腹すいたよな」と、かつおに話しかける。
ゲージの中のかつおは、鼻をヒクヒクさせながら、オレの目をジーッと見つめていた。
スマン……。金が無くて何も買ってきてない……。
「明日、バイト代がもらえるから、今日1日ガマンしてくれ」と、言ってみたが、言い訳だなと、オレの内心が即座に否定する。
かつおを、さらに1日飢えさせるのなら、消費者金融に借りてでも金を作ればいい。親や友達に頭を下げて、数千円、借りればいい。
そうしないのは、オレの美学でありプライドであり見栄だが、かつおにしてみれば、ただの約束不履行じゃないか。
……もう正午を回っている。
かつお、……腹ペコに決まっているなぁ。
ちなみにオレも、丸2日、ほとんど何も食べていない……。
おお。出す、出す。スマン、スマン。
さあ、かつお。ゲージから出てイイぞ。
かつおは、オレの顔にすり寄ってきた。
めっちゃ可愛い……。
匂いもクサくない。でも後で、一緒にフロに入ってキレイに洗ってあげよう。フロにも、だいぶ慣れたしな。
「かつお、巧大はやさしいか?」と話しかけ、頭を撫でた。
かつおを、潤のアパートからここに移動して、1ヶ月とちょっとだ。
どうやら、新しい環境にも慣れたみたいだな。
数日前、巧大から「週末はサークルの合宿で、軽井沢で一泊するから、土曜の夜は、かつおのこと頼むね」と電話があった。
……忘れたわけではない。
今オレは、音楽に命を懸けている。ラップに命を注いでいる。
曲作りも作詞も練習も、メンバーが揃った上で取り組めるというタイミングは、めちゃくちゃ希少で、ものすごく重要なのだ。
上半身を起こし、胡坐をかいた。
かつおを、胡坐の中に入れる。
かつおの背中を撫でた。
「オレ、……ラップで天下を取るから」
その言葉に、かつおのリアクションはなかった。
でも、オレの言葉を100%肯定し受け入れてくれた、と感じた。
かつおとは時々、以心伝心ができる。
思い込みかもしれないけど……。
絶対に金持ちになる! 心の中でオレは、オレ自身に檄を飛ばした。
そして、かつおに話しかける。
「かつお。……オレ、才能あるかも。昔から国語だけは得意だったし、作詞の才能があるって、よく言われるんだ」
ラップを、アルバイトよりも優先している。いや……、正確に言うなら大学の授業よりも優先している。彼女よりも優先している。
常に金欠だけど、今は、アルバイトに精を出している場合じゃない……。
ただ、かつおに、充分な食べ物を与えることは義務だ。
飼い主の、最低限の義務だ。
自分のメシより優先して、当たり前だ。
しっかし……。
くそっ……。なにも食べてないから、……めまいだ。……天井が回る。
あっ! そうだ……。
デニムハーフパンツのコインポケットを探った。
手が入りにくい。立たなきゃ……。
ここに、イザというときに備えて、百円玉を1枚入れていたはずだ。
あった。
ふらつく……。
パンッ! パンッ!
自分の頬を両手で、思いっきり叩いた。
少し、シャンとした。
「かつお、待っててな。野菜、買ってくるから」
そう声をかけ、部屋を出た。
近所のスーパーで、半分にカットされたキャベツを買った。
かつおと、半分ずつ食べよう。
玄関を開け、廊下のミニキッチンでキャベツを半分に切った。
かつおに近づく。
かつおは、すでに、大ハシャギだ。
「ほら、かつお。……キャベツだ」
4分の1のキャベツを、そのまま与えた。
かつおが、むさぼり食う。
アニメそっくりの、「ムシャムシャムシャ」という音が聞こえる。
笑える。
微笑ましいし、オカシイ。
「ははっ」と、声に出して笑った。
かつおの口が、キャベツの水分で濡れている。
全力でキャベツをむさぼる、その、かつおの愛おしさに、オレは暫し見とれた。
幸せだ、と思った。
キャベツの匂いが、胃袋を突っつく。
かつおに負けないくらい腹ペコだ。
マヨネーズを取ってくるため、立ち上ろうとする刹那……。
かつおと目があった。
かつおの視線が、オレの動きを止めた。
かつおの視線は、固まって動けないオレの目からキャベツへと移動した。
そして、また、オレの目を見た。
かつおの声が聞こえた、……気がする。
雅樹はキャベツを食べないのか? 嫌いなのか?
オイラはキャベツを、もっと食べたい。
かつおの視線は、今一度キャベツに移動し、止まった。
熱い視線だった。
かつお、僕も腹ペコなんだ。
これは、勘弁してくれ。
以心伝心してくれ……。わかってくれ……。
そう念じるが、かつおはオレを見ない。
熱い視線はキャベツに注がれたままだ。
これも食べたいのか?
かつおがオレを見た。
マジか……。こっちは以心伝心しちゃうのか……。
笑える……。
やばい、ツボに入った。
笑い声がモレてしまう。
「わかった。オレの負けだ。はは……」
苦笑いしながら、手に持つ4分の1のキャベツを、かつおの前に置いた。
また、アニメのような「ムシャムシャムシャ」という音。
ははは、1ミリも遠慮はなかった。
かつおは、ガツガツむさぼり食っている。
「ダハハハハハ~~~」
オレは爆笑した。
半分やけでもあるが、でも、めっちゃオモシロイ。
かつおは、最高に可愛い。
愛らしい。
愛おしい。
オレは、また、ティッシュで凌ごう……。
しつこいくらい嚙み続けていると、ふと、奇跡的に味を感じることがある。
今日のおかずは、この、ピザ屋のチラシだな……。
……情けない。これ以上ないほどに、悔しくもある。
その理由は1つ。
金が無いから。ただ、それだけだ。
くそっ……。
今は、それでいい。情けなくていい。
でも、必ず金持ちになる。
テレビにも出演し、武道館だって満員にしてやる。
スターにだって、不遇の時はあったんだ……。
かつおが擦り寄ってきた。
床に寝ころび、ティッシュを噛み続けているオレの頬に、かつおの鼻が触れる。
「かつお。オレ、金持ちになるからな」
かつおは無言だが、オレには「おお」と聞こえる。
「リズムを研ぎ澄ませ、言葉を磨く」
小さな声で、そうつぶやいた。
かつおの目が、「雅樹ならできるさ」と語っている。
「かつお。もう少しだけ、待っててくれ」
また、かつおの、「おお」という相づちが聞こえた。
5 に続く
PS.
この記事は、小説です。
連載します。週1の投稿を目標とします。
でも、ときどき隔週になるかもしれません。ご容赦くださいませ。
おそらく、21話前後となります。
雅樹さん ⇓ が主人公です。
雅樹さんに、Zoomインタビューを行ないました。
それを元に書いています。
あと、
雅樹さんのnoteの記事も参考にしました。
雅樹さんのkindle本も参考にしました。
ゆえに、雅樹さんのことはほぼ実話です。
それ以外の登場人物についての描写は、
インタビュー、
note記事、
kindle本、
を元にした僕の創作です。フィクションです。
登場人物には、一部、架空の人物もいます。
物語の案内役である小野寺未唯は、
ミイコさん ⇓ がモデルです。
モデルと言っても、描写は僕の創作です。
『かつおクラブ』はコチラです。
『宇宙兄弟』寄贈プロジェクトはコチラです。
このように、noteにはリンクも貼ります。
リンクを省き、文章だけにして、TALES(テイルズ)にも投稿します。
テイルズはこちらです。
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