「なくしもの」は、部屋の中で起きていた
その日の夜、 私はもう一度、
リビングのホワイトボードの前に座った。
昨日とは、 空気が違っていた。
昨日は、 お互いに感情でいっぱいだった。
でも今日は、 少し落ち着いて話せる感じがした。
私は息子に言った。
「昨日さ、パニックになってたから、もう一回、安心した状態で整理してみたいんだ」
息子は、 静かにうなずいた。
私はホワイトボードに書いた。
『教科書がなかったらどうする?』
「もし本当に見つからなかったら、
週末に買いに行けばいいと思ってる」
「だから、“教科書がない”こと自体は、
実は解決できる問題なんだよね」
息子は、 「うん」 と言いながら聞いていた。
でも私は、 もう一つ気になっていることがあった。
「でもね、まだ解決してないことがあるんだ」
私は部屋を見回した。
ランドセル置き場には、
ティッシュの箱や、 工作や、
ノートや、 絵の具セットが積み重なっていた。
本来ランドセルを置く場所なのに、
ランドセルが置けなくなっている。
「教科書をなくした原因って、何だろう?」
「もし、“どこに何があるかわからない”が原因なら、そこを変えないと、また同じことが起きるよね」
息子は黙って聞いていた。
私は続けた。
「週末、“教科書を見つけてからゲームしよう”って話したじゃん?」
「でも、ゲームを始めると他のことを忘れるよね」
「ゲームするなって話じゃなくて、“物の場所がわかる状態”を作ることが大事だし、その時間を優先的にとってほしいんだよね」
部屋を整える。
ランドセルを置く場所を作る。
教科書を戻す場所を決める。
そういう小さなことの積み重ねが、
“困った”を減らしていく。
でも、 片付けって大変だ。
だから私は、
「毎日10分でも15分でも、一緒にやっていこう」
と話した。
息子は、 「うん」 と小さく返事をした。
その日は、 まず箱の整理をした。
「4年生の教科書、全部片付けたって言ってたけど、まだ残ってるね」
そう言いながら、 二人で仕分けをしていく。
紐で縛って、 “ありがとう”をして、 部屋の外へ出す。
少しだけ、 部屋が整った。
私は思った。
本当の解決って、 怒ることでも、
我慢することでもなくて、
少しずつ、
暮らしを整えていくことなのかもしれない。
少し片付いた部屋で、 息子はゲームを始めた。
昨日より、 少し穏やかな顔だった。
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このお話は
「親子でも対等ていたかった。」シリーズです。
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