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セロトニンの真実──「幸福ホルモン」じゃなかった!

医学探偵浮島真一が今回はセロトニンの真の役割に迫ります。
この記事の続きです。読んでおいてくださいね。



「セロトニンが少ないと、うつになる。」
「セロトニンは幸福ホルモンだ。」
「朝、日光を浴びるとセロトニンが出て気持ちが上がる。」

こういった話を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。テレビの健康番組でも、メンタルヘルスの本でも、精神科の診察室でも、この説明は当たり前のように語られてきました。そしてその説明に基づいて、何千万人もの人がSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を処方されてきました。

しかし、探偵はここではっきりと宣言します。

セロトニンは幸福ホルモンではない。セロトニン仮説は終焉した。

これは過激な主張ではありません。すでに存在している科学的事実を、正しくフローチャートの上流から眺めれば、自然に辿り着く結論です。今回はその道筋を一緒に歩いてみましょう。


これまでのセロトニン仮説——「幸福ホルモン」の誕生

まず、セロトニン仮説がどのように生まれたかを整理しておきましょう。

1950年代、研究者たちはうつ病の患者の脳内でセロトニンが少ないという観察事実を得ました。そこからシンプルな仮説が生まれました。

「セロトニンが少ないからうつになる。だからセロトニンを増やせば治る。」

この仮説に基づいて開発されたのがSSRIです。SSRIはシナプスでセロトニンが再吸収されるのを阻害し、セロトニン濃度を高く保ちます。実際に一定の割合の患者に効果が出たことで、この仮説は強固に定着しました。「セロトニンは気分を司る幸福ホルモンだ」という説明が医学の常識になり、一般にも広く浸透しました。

しかし、この仮説には最初から説明できないことが山積みだったのです。


セロトニン仮説が答えられなかった問い

仮説が正しければ、次の疑問に答えられなければなりません。しかしどれも、答えが出ませんでした。

なぜSSRIは約3割の患者に効かないのか

セロトニンが少ないことが原因なら、セロトニンを増やせば全員に効くはずです。しかし実際には3人に1人には効きません。この事実は長年「個人差」という言葉で片付けられてきました。

なぜSSRIは飲んでから効くまでに2〜4週間もかかるのか

薬を飲めばすぐにセロトニン濃度は上がります。しかし気分が改善するまでに何週間もかかります。「セロトニンが少ないから気分が悪い」という直接の因果なら、濃度が上がれば即座に改善するはずではないでしょうか。

なぜトリプトファン枯渇実験では健康な人に症状が出ないのか

セロトニンの原料であるトリプトファンを急激に枯渇させると、脳内のセロトニン合成が阻害されます。もし「セロトニン低下→うつ」という因果が正しければ、健康な人にもうつ症状が出るはずです。しかし実際には健康なボランティアにはほとんど症状が現れません。症状が出るのは、すでに抗うつ薬で寛解中の患者においてのみです。この「なぜ」に、セロトニン仮説は答えられませんでした。

これらの問いに対して、仮説の支持者たちは「受容体の感受性の問題だ」「個人の代謝の違いだ」といった補助的な説明を付け加え続けました。後付の理屈で取り繕ってきたのです。
考えてみれば、これは奇妙な論理です。鎮痛剤を飲んで頭痛が治ったからといって、「頭痛の原因は鎮痛剤不足だった」とは誰も言いません。しかしセロトニン仮説は、まさにそれに近い論理を半世紀以上やり続けてきたのです。
セロトニン仮説は実はとっくに破綻した仮説だったのです。


ではセロトニンの真の役割は?フローチャートの上流から探ってみましょう。
「フローチャートの上流から考える」、これが医学探偵には必須の思考方法です。


セロトニンの本当の役割①——NEのネガティブフィードバック役

では、フローチャートの上流から見ると何が見えるのでしょうか。

覚醒を司る青斑核(LC)がなんらかの理由で刺激されるとノルエピネフリン(NE)を過剰に放出します。これが脳全体の覚醒・警戒レベルを上げます。

ここで、1980年代からすでに確立されていた神経科学の基本事実が登場します。

青斑核(LC)とセロトニンを放出する縫線核(DRN)は、解剖学的に相互に神経を送り合っています。LCからのNEがα1受容体を介してDRNのセロトニン放出を促進し、逆にセロトニンがLCのNE発火を抑制するという双方向の関係が確認されています。

つまりこういうことです。

NE上昇 → セロトニン上昇 → NE抑制

セロトニンはNEが上がりすぎないようにブレーキをかける役割を担っていたのです。NEが上昇し続けると興奮が収まらず大変なことになってしまいます。
この働きをネガティブフィードバックと言います。これはセロトニンとNEだけの関係に限りません。生体は常になにかを増やす働きに対してそれを抑制する働きがセットなのです。血圧が上がったら下げる作用。血糖値が上がったら下げる作用、これらは全てセットです。これで生体は恒常性を維持しているわけです。
そして、この構造から論理的に導かれる結論があります。

NEが低下すれば、セロトニンも連動して低下する。

うつ病ではなぜセロトニンが低いのか。それはNEが低下した結果だからです。セロトニン低下は原因ではなく、結果です。しかしこの単純な因果を、セロトニン仮説というパラダイムの中に深くはまり込んだ研究者たちは、誰も繋げませんでした。


セロトニンの本当の役割②——ANLSのエネルギー需給管理者

さらに決定的な発見があります。

前の記事でANLS(アストロサイト-ニューロン乳酸シャトル)について解説しました。アストロサイトがグルコースを乳酸に変換して神経細胞に渡す、脳のエネルギー供給システムです。

このANLSを直接制御しているのが、セロトニンだったのです。

セロトニン → アストロサイトのcAMP/Ca2+ ↑ → 乳酸産生・放出 ↑ → ANLS亢進 → 神経細胞ATP ↑

この因果連鎖が生体内で直接確認されています。つまりセロトニンは、NEの上昇に伴ってエネルギー需要が増大するとき、アストロサイトに働きかけて乳酸産生を増やし、神経細胞への燃料供給を増強する役割を担っていたのです。

これを踏まえると、セロトニンの本当の姿が見えてきます。

セロトニンは「幸福ホルモン」でも「気分調節分子」でもありませんでした。NEの過剰をブレーキで抑えながら、同時にNEの上昇に伴うエネルギー需要の増大に対してANLSを増強するエネルギー需給バランスの管理者だったのです。NEに連動して上がるべきときに上がり、下がるべきときに下がる。それだけのことです。そこに「幸福」も「気分」も、本来は関係ありませんでした。


全てのピースが揃う——謎が一気に解ける

この理解に立つと、セロトニン仮説が答えられなかった問いが一気に解けます。

なぜSSRIは効くのか

セロトニンを増やすことで、アストロサイトの乳酸産生を増やし、ANLSを促進し、神経細胞のエネルギー枯渇状態を回復させるからです。「気分が改善する」のではなく、「燃料が届くようになる」のです。

なぜSSRIは3割に効かないのか

アストロサイト自体がANLSフリップの繰り返しで損傷を受け、乳酸を産生できない状態になっているからです。アストロサイトが壊れているなら、セロトニンで鞭を打っても乳酸は出ません。出ないものは出ない。

なぜ効くまでに2〜4週間かかるのか

セロトニン濃度が上がっても、損傷したアストロサイトが乳酸産生能力を回復するには時間がかかります。即座には効かないのは当然です。

なぜトリプトファン枯渇実験で健康な人に症状が出ないのか

 ANLSに余力がある健康な人は、セロトニンが欠乏しても燃料切れにはなりません。ところがANLSの余力がない寛解中の患者は、セロトニン欠乏によるANLS抑制が直接燃料切れを引き起こします。だから患者にだけ症状が出るのです。

謎が謎だったのは、フローチャートの途中から見ていたからです。上流から眺めれば、全て当たり前の話でした。


なぜこの事実は広まらないのか

ここで一つ、不思議なことをお伝えしなければなりません。

セロトニンがANLSを制御しているという発見から2年以上が経過しています。しかし、この発見をもとにセロトニンの機能を「気分調節分子」から「エネルギー代謝調節分子」へと再解釈した研究者は、今もいません。セロトニン仮説は軌道修正されていません。

研究者たちが愚かだったわけではないのです。「セロトニンが主役だ」という巨大なパラダイムの中に深く入り込んでしまったために、目の前の明白な事実でも、そのストーリーに合わないものは見えなくなってしまっていた——探偵はそう指摘します。

そしてその結果として、何が起きたか。何千万人もの患者がセロトニンを増やす薬だけを処方され、治らないまま「一生付き合っていくしかない」と告げられてきました。


まとめ

セロトニンについて、探偵が示す結論をまとめます。

セロトニンには二つの本当の役割がありました。一つは、NEが上がりすぎないようにブレーキをかけるネガティブフィードバック役。もう一つは、NEの上昇に伴うエネルギー需要の増大に合わせてANLSを増強するエネルギー管理者。

セロトニンの低下はうつの原因ではありません。NEが低下した結果であり、ANLSが破綻した結果です。

そしてSSRIは、「気分を上げる薬」ではなく、「エネルギー供給を回復させる薬」として作用していました。効く人には効き、効かない人には効かない理由も、これで完全に説明されます。

セロトニン仮説は終焉しました。


最後に重要なお願い

この記事を読むと、「SSRIをやめてしまおう!」と考える患者さんが出てしまってはいけないので最後に注意喚起します。
SSRIには離脱症状があります。
この記事を読んで理解できたと思いますが、SSRIの離脱症状はセロトニンの低下によるANLSの急速な低下が原因です。離脱症状に下痢もありますが、この原因も主流医学が言う「脳腸相関」などではなく、腸のセロトニンが低下して、神経細胞がエネルギー不足になるためです。つまり、勝手に断薬することは、神経細胞のエネルギー不足を招き、危険な離脱症状を引き起こします絶対に勝手な断薬をしてはいけません。


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