【小説・ヴィーナス症候群】(330)ギャルと一軍女子
ガーリー系ブランド「Ria」の「トルソーさん」家久綾音は、休日の午後、おしゃれなカフェでラテを啜っていた。
向かいにいるのは、サイセイ義肢の「トルソーさん」割出結菜。
畑は違えど「トルコミ」でつながっていて、気安い仲だ。
「私のところ、ギャル高だったからさ」
結菜がぽつりと言うと、綾音は目を丸くした。
「えっ、結菜ちゃんがギャル高?写真見てみたい!」
「見る?」
結菜がスマホを差し出すと、スカート丈のやたら短い制服姿が映し出された。

「……めっちゃギャル!考えられない!」
綾音は吹き出した。
結菜は肩を揺らして笑い、言葉を続けた。
「昔はギャルってかスカート短いのに憧れてたんだよね。金沢でもそういう子が集まる高校だった。ほら、義手つけてるとロボット扱いされるじゃん?だから逆に生身の脚を強調したくて」
綾音は「分かる」とうなずいた。
小学校高学年から中学生の頃、多くのヴィーナス児が参加する「コルキャン」(コルチカムの会のサマーキャンプ)でも、よく話題になっていた。義手ばかり注目されるからこそ、脚や服装で「普通の女の子」を主張したい――みんなが抱えていた感情だった。

結菜はスマホをしまい、にやりと笑った。
「でも綾音ちゃん、絶対“一軍女子”だったでしょ。他のトルソーの子も言ってる」
「え、わたし?」
花柄ワンピースの綾音は首を振った。
「たしかに私立のエスカレーター校だったけど、ああいうところの“一軍女子”って別格だからね」
綾音は義手の指を折りながら思い出す。
「まず誕生日パーティーがホテル貸切。披露宴会場みたいなところで小学生からドレスアップしてお祝いするの」
「えー!?」結菜の声が大きくなる。
「夏休みはハワイとかヨーロッパ。お土産話が“どこのホテルのプールが良かった”ってレベル」
「……信じられん」
「通学に毎日タクシー。雨の日限定じゃなくて普通に。放課後は“ちょっと原宿寄ろう”って、行くのは青山のセレクトショップ。制服のカーディガンも三万とかしたし」
「……やばいわ」結菜は呆れ顔になった。
そして少し考えてから言う。
「金沢にも“北國女学院”っていうお嬢様学校あったけど、そんなレベルの子は多分いないと思う。せいぜい、親が地元の病院やってるとか、会社の役員とか……。ホテル貸切とか、毎日タクシー通学とか、別世界だよ」
綾音は苦笑した。
「東京の“エスカレーター一軍女子”はほんとに別格。わたしなんて端っこで眺めてただけだから」
カフェのスピーカーから、どこか切実な歌声が流れ始めた。紅微塵子とVtuberぬぽぺのコラボ曲。
毒親と縁を切った夜に
残ったのは孤独だけ
どこかのアルバイトがよそった
牛丼のぬくもりが 胸を温める
痛みを詩に変えたその旋律は、店内のざわめきを一瞬やわらげる。
「紅微塵子、いいよね」
綾音が口元に微笑を浮かべて呟く。
すると結菜が、ストローを指でいじりながらさらりと言った。
「実は中学校の同級生。金沢で」(第317話)
「えっ!?」綾音が目を丸くする。
結菜は苦笑しながら続けた。
「いじめられたとか言ってるけどさ、実際は私の義手を見て悲鳴上げて泣き叫んでたんだよ。「義手怖い!気持ち悪い!」って。それで担任に“同じ班にして慣れさせろ”って言われて、一緒にさせられたのを『担任までグルになって陰湿ないじめだ』って歌詞にしてるわけ。あと毒親とか言ってるけど、ただ単に障害者いじめするなって怒ってただけだからね。あの子のお母さん、今寝込んでるよ」
綾音はぽかんとしたあと、首をかしげて小さく吐き捨てた。
「何それ?なんで自殺するまでいじめなかったのよ」
結菜は一瞬驚き、次に声をあげて笑った。
「綾音ちゃんがそれ言うとさ、独特な迫力あるんだよね。やっぱ“一軍女子オーラ”ってやつだわ」
二人は顔を見合わせて笑った。
女子の話題は尽きることがなかった。
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