見出し画像

【小説・ヴィーナス症候群】〔345〕邪道な僕さ

生まれつき両腕のない「ヴィーナス児」の中学生・笠幡玲奈は、スマホの三脚を立ててその日もバトントワリングの練習を撮影していた。
肩から伸びる義手で器用にバトンを回し、投げ、キャッチする。
何度も何度も練習を重ねてきた動作だった。

動画をTiktokに上げる。
けれど「いいね」が付くのは、相互フォローしている数人からのお義理程度。
画面を見つめて、玲奈はため息をついた。

——どうしてこんなに差がつくんだろう。いとこの八重姉ちゃんみたいにもっと過激にお尻でも出した方がいいのかな?(285

思わず学校で隣の席になっている野木のSNSを覗いた。
彼は別のアプリで、気持ち悪い恋愛小説を書いている。
題材は人気アイドルグループ「推しっ子」のメンバー・下呂白馬。

放課後の教室に残っていたのは、俺と下呂白馬だけだった。
「数学、全然わかんなかったんだけど」声をかけると、下呂ちゃんは俺の机に身を乗り出してきて、「○○君って、ほんと頼りないよね」と笑う。
距離が近すぎて頭が真っ白になる。
「もっと私に頼っていいんだよ」その一言に心臓が爆発しそうになり、強がって「べ、別にお前なんかに!」と返すと、下呂ちゃんはくすっと笑って「じゃあ一緒に帰ろっか」と言った。
俺は真っ赤になりながら後ろをついていくしかなかった。

お世辞にも文才があるとは思えない。それなのに、フォロワーは5000人。ひとつの投稿に2000ぐらいの「いいね」が付いていた。

こっちは本気でバトンを練習しているのに。汗を流して、体を酷使して、義手まで工夫して。
「なんで、あんな妄想小説に負けなきゃいけないのよ……」

翌朝。教室でついに爆発した。

「何なのよ! あの下呂ちゃんとの気持ち悪い妄想小説に千個もいいねが付いて! 私なんかどんなに練習しても十個付けばいい方なのに!」

野木はぽかんとした顔でこちらを見た。
「へ? そんなの努力の方向が間違ってんだろ」

「努力の方向?」玲奈は眉をひそめた。

「そうだよ。お前、せっかく義手でバトンやってんのに『安っぽい感動はいらない』とか抜かしてんだろ?」

「当たり前じゃない。感動ポルノにはしないわよ」

「それがダメなんだよ」野木は肩をすくめる。

「どうせバトンが好きだとか言っても全国で一位取れるとかじゃねえんだろ? だったら『義手でも頑張ってます』って感動を売ってくしかねえだろ? つまんねえプライドにこだわって感動ポルノにはしませんとか言ってたら、バズるわけねーじゃん」

玲奈は口を開けたまま言葉を失った。
「そりゃお前に比べたら邪道な僕さ。だけど俺はお前に気持ち悪いとか言われる程度にはプライドは悪魔に売り渡して妄想小説作ってるからな。それにちゃんと売れ線も研究してる。売れ線も研究してません、プライドは守りたい、でもバズりたい——そんなの甘すぎんだよ」

玲奈は呆れ顔で笑った。
「……あんたにそこまで考える脳があったなんて、初めて知ったわ」

#AI小説 #小説 #ヴィーナス児 #ヴィーナス症候群
#笠幡玲奈
#アマノ文筆クラブ


いいなと思ったら応援しよう!