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【小説・ヴィーナス症候群】[680]ネタがない

神田の雑居ビルの3階。
生まれつき両腕のないヴィーナス児の当事者団体「コルチカムの会」の事務局で、階上つばさは金属の義手で頭を抱えていた。

「……ない」

机の上には「会誌4月号」のラフ。
そして、そのほとんどが白紙だった。

卒業も新入学も、先月号でやってしまった。
会員の結婚も訃報もない。
各地の支部に送った依頼メールの返信は、どれも似たような文面だった。

——「すみません、忙しくて書く時間が取れません」

つばさは小さくつぶやく。
忙しいことはいいことだ。

「いいことなんだけどさ……」

誌面は埋まらない。

プロのライターに頼む予算もない。
事務局長の守実徹も、会計の今諏訪善江も「今回は難しいな」としか言わない。

つばさは椅子にもたれ、天井を見た。
「あーあ。トルソーやってる子で、誰かパッと書いてくれる子いないかな……」

思い浮かぶ顔はある。
けれど、みんな今は忙しい。

「……じゃあ、自分で書くか」
ぽつりと呟く。

韓国フェミニンブランド「HANEUL」で、お試しトルソーをやったときのこと。(140
あの、キャバ嬢向けとしか思えないビッチな服装ばかり売ってると思いきや、現場は意外に真面目で優しい人ばかりだったということ。

それから——
「ビルのカワウソの話とか……」
1階の管理事務所で飼っている、やたら人懐っこいカワウソ。(467
あれはあれで、ちょっとした人気者だ。

つばさはノートパソコンの画面を見つめる。
カーソルが、点滅している。

「……でも私、文才ないしな」

しばらく、そのまま動かない。
外の神田の通りから、車の音がかすかに聞こえる。

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#アマノ文筆クラブ

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