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【小説・ヴィーナス症候群】[509]ペガサス挑戦券

サイセイ義肢で「トルソーさん」をやっている割出結菜のスマホが震えた。
作業台の横、義肢用の白いパーツに囲まれた休憩室で、彼女はLINEを開く。

――平浜優。

土浦の国立先端医工学研究センターで義肢装具士をしている友人だ。

「高梨先生に聞いたけど、結菜ちゃん土浦に来てたの?」(492
「行ってたよ。優ちゃん探したけど、いなかったからさ」
「その日、横浜で講習会だったんだよね」

画面越しのやりとりは、いつもの調子だった。

「でも、土浦リハ新しくなったよね」
「そうなの。国立土浦リハビリテーションセンターの頃に比べたら、広くなったし新しくなったし。現場の人も患者さんも、みんな喜んでるよ」
「国が力入れてるんだよね」
「うん。私たちサイボーグのためにね」

冗談めかして打たれたその一言に、結菜は少し笑った。
優もまた、片足が義足だった。

しばらく他愛もない話が続いたあと、優がぽつりと切り出す。

「そういえばさ、霞ヶ浦の近くにいい牧場があるの。乗馬体験とかできて」
「え、行ってみたい!」

話は早かった。
年末年始の休みの始め、土浦駅に集合し、路線バスに揺られて霞ヶ浦近くの観光牧場へ向かうことになった。

牧場は思っていたよりも広く、空が低かった。
搾りたての牛乳で作ったソフトクリームを手に、二人は並んで歩く。

「こういうの、久しぶりだね」
「仕事以外で土浦来るの、珍しいもんね」

そのとき、柵の向こうに白い馬が見えた。
陽に照らされて、やけにきれいだった。

「あ、白い馬。かわいいね」
結菜が言うと、近くにいた係員が声をかけてくる。

「乗馬体験もできますよ。この白い馬は暴れん坊なんで、特別料金がかかりますけど」

冗談とも本気ともつかない説明に、優が笑う。

「暴れん坊だって」
「へえ……」

結菜はもう一度、白い馬を見た。
少しだけ背筋が伸びる。

「……ペガサス挑戦券、か」


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