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Vol.10 遺伝的に高リスクでも、生活習慣で運命は変えられる。


遺伝的にリスクが高くても、生活習慣で発症リスクは大きく変えられます。

この記事はVol.8 Vol.8 「遺伝だから仕方ない」でも「家族にいないから大丈夫」でもない。|ドクターO の続きになります。Vol.8では、遺伝的素因の影響と、それを家族歴だけで判断できないことをお話ししました。「では生活習慣を気をつけても意味がないのか?」——そういう声が聞こえてきそうです。

答えははっきりしています。遺伝的リスクが高くても、生活習慣は大きく結果を変えます。

最も強固なエビデンスは心臓病の領域から来ています。Khera AVら(NEJM 2016)は、約5万5千人を対象に、ポリジェニックリスクスコアと生活習慣(非喫煙・適正BMI・定期的な運動・健康的な食事)の関係を検証しました。結論はこうです——遺伝的高リスク群(上位20%)であっても、健康的な生活習慣を実践した人は不健康な生活習慣の人と比べて冠動脈イベントのリスクが約46%低下しました。具体的な数字を出すと、ARICコホートでの10年冠動脈イベント発生率は、遺伝的高リスク群で「不健康な生活習慣10.7% → 健康的な生活習慣5.1%」と、半分近くまで下がっていました。

糖尿病でも同様の知見が出ています。中国の約2万人を対象とした前向きコホート研究(Han Xら, J Clin Endocrinol Metab 2020)では、遺伝的高リスク群でも理想的な生活習慣(非喫煙・節酒・健康的な食事・適正BMI・十分な身体活動)を実践したグループでは、遺伝的高リスク+不健康な生活習慣のグループに比べて糖尿病発症リスクが49%低かったことが確認されています。さらに、UK Biobank約33万人の追跡データを用いた最新研究(Zhao Cら, Diabetes 2026)でも、遺伝リスクのすべての層で、不健康な生活習慣が糖尿病発症リスクを大幅に上昇させることが確認されました。日本人を対象とした研究(Oshima Mら, J Clin Endocrinol Metab 2026)でも、遺伝的高リスク群において、運動習慣・血圧管理・脂質管理が糖尿病リスクの低下に寄与することが示されています。

観察研究だけでなく、ランダム化比較試験のエビデンスもあります。米国のDiabetes Prevention Program(DPP)試験では、糖尿病予備群の約3,200人に対し、集中的な生活習慣介入(7%の減量と週150分の中強度運動を目標)を行ったところ、3年で糖尿病発症リスクが58%低下しました。21年後の追跡でも約24%のリスク低減が持続しており、「介入の効果は長く続く」というエビデンスは強固です。フィンランドのDPS試験でも同様に58%のリスク低減が示されました。

がんの領域でも同じパターンです。UK Biobankの約20万人・13種類のがんを対象とした研究(Byrne Sら, Int J Epidemiol 2023)では、健康的な生活習慣は全がんリスクの低下と関連し、特に遺伝的高リスク群ほど健康的な生活習慣による絶対リスク低減が大きいことが示されました。

Vol.8 Vol.8 「遺伝だから仕方ない」でも「家族にいないから大丈夫」でもない。|ドクターO でもお話しした通り、生まれつき高リスク遺伝子の方が必死に努力しても、何の努力もしていない低リスク遺伝子の方と同じくらいの発症率にしかならない、ということもあります。実際、Khera 2016のデータでも、遺伝的高リスク+健康的な生活習慣の10年イベント率(5.1%)は、遺伝的低リスク+不健康な生活習慣の10年イベント率(5.8%)と同程度でした。「遺伝的素因が低い人と同じスタートラインに立てる」と言うのが、より正確な表現です。場合によっては必死の努力もむなしく疾患を発症することもあるでしょう。しかし、同じ本人の中で比べたとき——努力をした場合としなかった場合で、発症率は大きく異なるのです。

つまり、他人(違う遺伝的リスクの方)と比べないことです。矢印は常に自分に。 私がこのコラムで繰り返しお伝えしていることです。

「遺伝だから仕方ない」は誤りです。同時に「遺伝は関係ない」も誤りです。

自分のリスクは変えられない。でも、その上に乗せる生活習慣は変えられる。遺伝的素因と向き合いながらも、変えられることに集中する——これが予防医学の本質であり、Vol.8から続くこの話の結論です。

出典:Khera AV, et al. "Genetic Risk, Adherence to a Healthy Lifestyle, and Coronary Disease." N Engl J Med. 2016;375(24):2349-2358.
Han X, et al. "Independent and joint associations of polygenetic risk score for type 2 diabetes and healthy lifestyle with type 2 diabetes risk." J Clin Endocrinol Metab. 2020;105(4):dgz325.
Zhao C, et al. "Joint Effects of Polygenic Risk and Lifestyle on Type 2 Diabetes Risk in UK Biobank." Diabetes. 2026;75(5):860-866.
Oshima M, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2026;dgag171.
Byrne S, et al. "Polygenic risk scores, lifestyle factors and 13 cancer outcomes." Int J Epidemiol. 2023;52(3):817-826.
Knowler WC, et al. (DPP/DPPOS Research Group). Lancet Diabetes Endocrinol. 2025;13(6):469-481.

*noteの記事の内容は筆者の個人としての見解です。筆者所属の医療機関の見解とは一切関係ありません。内容の正確性には細心の注意を払っておりますが、万が一不適切な内容がございましたらご指摘いただけましたら幸いです。

#予防医学の基礎 #遺伝 #生活習慣 #糖尿病予防

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