昭和レトロ風SF冒険小説3
【ぼくらの怪獣大戦争1939】(後編)
雨上がりの空を見上げると、わずかな雨雲の切れ端とちかちか瞬く星々、そして夏の大三角形を見る事が出来た。
数えきれない光の粒。
何億光年も離れているって、理科の先生が言ってたっけ。
その星々の中には地球のような惑星、或いはそれ以上の文明や科学力を持った星がきっとある。
そういった星々の世界、異星人との交流を……大人たちは宇宙はロマンだなんだと言って期待していたみたいだけど、いざやってきた連中ときたら。
友好的な挨拶どころか、いきなりドカーンと一発。
世界中がびっくり仰天。
「何?宇宙人が攻めてくる?馬鹿を言っちゃいけねぇよ。空にいるのはお釈迦様やら観音様よ」
そう言って高笑いをしていた町長は、海の向こうの大都市に円盤が現れたと聞くなり、真っ先にこの街から逃げ出して行ったっけ。
そして今、僕たちの目の前には宇宙からやって来たと思われる、怖い、というか不思議な感じのする女の人、人って言っていいのか判らないけど……と彼女が乗って来た機械仕掛けの銀の龍。
僕と勝ちんは息を飲んで、彼女が降りてくるのを見守っていた。
昇降板は不思議な光に包まれまるで鳥かごのように見えた。
それはほとんど音も無く地面に着く。
その中から女の人がゆっくり地面に降り立った。
けれども数歩進んだあたりでその場に倒れこんだ。
「あの人、怪我をしてるみたいだ!」
僕は勝ちんに背を向けたまま、女の人から目を離せずにいた。
「うん……なんだか苦しそうだね。うっ、こ、怖い。怖いけど、助けに行く?」
「お、おぅ。だが待て。もし、あいつが地球侵略に来た外惑星人だったら大変だぞ」
僕は強がっていた。
勝ちんに意気地なしだって思われたくなくて、怖い気持ちを胸の内に押さえ込んでただけなんだ。
だから今、僕ははっきり言う事にする。
「勝ちん、僕、怖いよ!目の前に異星人がいるなんて、どういう状況だと思う?」
「ええー!ここまで来てそんなぁ。おいらは功ちゃんを信じて着いてきたんだよ。ここでそんな意気地のないこと言わないでよ」
僕が地面に尻もちをついて振り向くと、ほっぺを膨らます勝ちんは、怒ったトラフグの様だった。
「ででで、でもさ。もし彼女がその、光線銃とか持ってたりしたら……」
僕の出した声は最高に情けなかった。
「あー、もう!判ったよ。おいらが行く。あの人怪我してるんだし、見捨てちゃ置けない」
完全に立場が逆転していた。
日頃へなちょこ呼ばわりされている勝やんが『漢、恵庭勝久』となった瞬間だった。
しかし、勝やんも怖さが完全に消えた訳ではないらしく、少しだけ腰が引けていて、ひょこひょこと歩いていく後姿を見た僕は、思わず吹き出しそうになっていた。
「おーい、気をつけろよ。ヤバいと思ったらすぐ引き返せよ」
「判ってるって!だ、大丈夫。大丈夫……」
まったく頼りにしていいのかそうでないのか。
もっともそれは僕自身もそうだから、おあいこってところだな。
地面に倒れこんでいる女の人のすぐ近くまで進んだ勝ちん。
もう少しで少女に手が届きそうなところまで進んだ彼は、そこで懐中電灯を取り出し明かりをつけて前方を照らした。
勝ちんとの距離がかなり広がる中、置き去りにされる恐怖を感じた僕は勝ちんの後を追った。
「ま、待てよ勝ちん。やっぱり僕も行く」
「ふふん。怖くなって来たんだろ?いいよ。実は、おいらも一人で相手をするのは怖かったし」
僕と勝ちんはゆっくりと少女の側に近寄って行った。
「う、うう、うっ」
苦しげにうめく声がきこえる。
彼女は地面に膝をつき、片手でわき腹を抑えている。
そのわき腹から真っ赤な液体がしたたり落ちていた……
「ち、血だよね、功ちゃん、あれ、血だよね」
「う、うん。多分、そうだと思う」
僕は地面に流れ落ちた赤黒い染みと、苦しげにうめく彼女を交互に見る。
その場の惨状に耐え切れず急激な吐き気に襲われた。
そして苦しむ彼女から目を反らす。
「うげぇ……だ、ダメだ、まともに見られねぇ」
「大丈夫かい、功ちゃん。でもさ、彼女はあんなに出血してるんだよ。ほっといていいの?死んじゃうかもしれないよ。おいらたちの前で!」
勝ちんが両手を握りしめ、力を込めた口調で僕を批難する。
「だ、だって、相手は人間じゃない。外惑星人、異星人なんだぞ。助ける義理があるか?」
「彼女、あの機械の龍で円盤を攻撃してたじゃん」
珍しく自分の意見を曲げずに頑張る勝ちん。
確かに、彼女は外惑星人の円盤群を一掃してはくれたけど、それでも僕は目の前の人物を信用しきれず、かといってその場を立ち去ることも出来ずにいた。
「いいよ、おいらが行くから」
「でも、だからって僕たちに何が出来る?傷薬一つ持ってないのに、あんな大怪我してる奴を助けられるのかよ!」
僕は勝ちんを責めるように言ったけど、それは自分の無力さと悔しさから出た言葉だった。
「この辺にはヨモギがあるじゃん、あれ、使えるかもしれない。おいらが彼女の面倒を見てるから、功ちゃん街に戻って誰か大人を連れてきて」
「なな、なんだと?ここに大人なんて連れてきたら、お前、えらい騒ぎになるぞ」
「でも、おいら達だけじゃ何もできないでしょ」
「うぐっ」
言われて僕は言葉に詰まる。
まさにその通り。
勝ちん、ずっと臆病者って思ってたけど、こんな一面がある事に僕は改めて驚いていた。
「はぁはぁ……うっ」
そんな苦しそうに呻く彼女の前までやって来た僕たち。
遂に異星人との接触の瞬間、かと思ったその時だった。
「オ、ネ、ガ、イ……ミズヲ、ミズヲ」
聞こえてきたその言葉の意味を僕たちは理解する。
だって、それは日本語で聞こえたきた言葉だったから。
「君は、日本人?」
僕の言葉に反応して、彼女がゆっくりと顔を上に向けた。
その顔は。
「……!」
想像を超えた驚きに、僕は声にならない悲鳴を上げた。
僕を見つめる彼女の瞳、それは金色に輝く明らかに普通の人間ではなさそうな瞳だった。
「コワ、ガラナイ、デ。ワ、タシハ、アナタ、タチノ、テキジャナイ」
さらに驚いた事として、かなり片言だったけど彼女の発する言葉は間違いなく日本語だった。
「あ、水、だね?判った。功ちゃん、神社に行って、水汲んできて!ついでにヨモギも。おいらは彼女を鍾乳洞に連れていく」
苦しげな彼女の身体をそっと抱き起こし、介抱しようとする勝やんは僕よりもはるかに肝が据わってるように思えた。
怖くないと言えば嘘になる。
でも目前の友の行為は僕を奮い立たせた。
僕は今こそ勇気を示す時って、そう自分に言い聞かせると神社の境内に向かって走り出した。
何度も転びそうになりながら。
両手に手水桶を下げ、僕は勝やんが待つ鍾乳洞に向かっていた。
向かう先を見れば、あの少女が乗っていた銀龍の姿。
葉の生い茂るブナの木の枝に隠され、樹木と同化するように佇んでいる。
静かに、主である少女を気遣い見守るように。
大蛇の口のような入り口は周辺に雑草が生い茂り、一見するとそこに鍾乳洞があるとは思えないような感じだった。
僕は手桶の水をこぼさないように慎重に、でも内心はドキドキになって穴の中へ入っていった。
洞窟の中は暗く、足場も良くはなかった。
慎重に、一歩づつ奥へと進んでいくと、勝ちんの話し声が聞こえてきた。
懐中電灯の明かりが、辛うじて辺りを照らし出している。
「お~い!水、汲んできたぜ。異星じ、いや、おねーさんの具合は?」
僕は臆病者呼ばわりされるのが嫌で、強気の態度で声を張り上げた。
「あ、功ちゃん!うん、なんかこの女の人凄いんだ。ヨモギで傷の手当てしようと思ったんだけど、まるで魔法か手品みたいに傷薬を取り出してさ、とりあえず自分で止血しちゃったよ」
勝ちんは幾分興奮した様子で、洞窟の奥から大声で返事を返してきた。
「ええ?なにそれ、どういう事?」
勝ちんは嘘をつくような奴じゃないけど、いったい僕がいない間に何があったのか、まるで見当がつかない僕は地面の平らな所を探して、二人の元へ向かった。
「おねーさん、水、持ってきたよ。あ、この柄杓を……これで飲んで」
僕は神社にあった柄杓と桶を彼女に渡して、その場にしゃがみこんで様子を見守ることにした。
金色の瞳のおねーさんは僕の顔を見るとにっこりと微笑むと、はっきりとした日本語で僕に対して言葉を返してきた。
「ありがとう。私の為に頑張ってくれたこと、とても嬉しく思うわ」
彼女の話す言葉には、ちょっとだけ外国人が話すような訛りがあったけど、立派な日本語だった。
これなら普通に話が出来る。
いったい彼女がどこから、何をしにやって来たのかも聴けそうだった。
僕から柄杓を受け取った彼女は、桶の水を汲むと一気に飲み干した。
そしてもう一杯。
その顔色は相変わらず青白く見えたけど、そこにほんのり薄い桜色が差したような気がした。
唇はそれよりもやや濃い目の紅色だった。
「ふぅ。助かったわ。水汲み、大変だったでしょう。勝久さんも、いろいろ気遣ってくれてありがとう。水さえ飲めば私の身体、生体機能は維持出来るから」
そう言うと、彼女は柄杓を僕に返してよこした。
「え?もういいの?」
「ええ。私たちは基本、水さえあれば生存出来るの。水だけで身体の生体機能を維持出来るわ」
そして、おもむろに立ち上がると洞窟内を見まわして、感激したように声を上げた。
「わぉ!ここって、鍾乳洞ってところね。私の世界では疑似自然で再現されてるけど、本物ってやっぱり凄い」
驚いたのは僕たちの方なんだけどなぁ。
でも、すっかり元気になったみたいで良かったよ。
後は……彼女の正体や何故この世界に来たのか、そんな話を聞きだすだけだった。
それで、おずおずと彼女に向かって質問をしようしたんだけど、その瞬間。
彼女はさっと身を動かし僕の前で屈みこむと、人差し指を僕の唇に当て首を振った。
「私の事を知りたいんでしょ。いいけど、君たちには少し難しい話かもね」
難しい話かぁ。
僕はそこまで勉強ダメじゃないけど、学校の授業なんて聞いていたら眠くなっちゃうからなぁ。
そんな事を考えていたら、勝ちんが彼女の周りで飛び跳ねながら話を聞かせて欲しいとせがんでいた。
「僕も聞きたいです……」
小声で僕はお願いする。
「判ったわ。なるべく簡単に説明するね。私はね、この時代からずーっと未来の世界から来たの。ええと、大体400年先の時代。そして私は幾種類もの遺伝子を組み合わせて造られた人間。その中にはあなた達と同じ「ニホン」の遺伝子が入ってるわ」
遺伝子って、学校で習ったぞ。
人間のいろんな要素を決める大事な「設計図」だって。
まだまだ謎が多い分野だから、日本や外国の偉い学者が研究してるって、先生が言ってた。
目の前のおねーさん達の世界って、物凄い科学力を持ってるんだな。
いや、あんな機械の龍を作れるんだしそれくらい朝飯前か。
「あ、日本の遺伝子って言ってたけど、日本の国はあるのかい?どんな国になってるの」
僕は400年後の日本の国を想像して興奮状態だった。
少年雑誌なんかに出てくる未来世界。
それが実現してるなんて最高じゃん。
僕と勝ちんは、ワクワクしながら彼女の返事を待った。
けれど、なぜか急に悲しげな表情になり、金色の瞳を伏せて首を振る。
「日本の国は……この国の未来は……ごめんなさい!400年後、この国は存在してないのよ。奴ら、ダークファクトに侵攻されて、いえ、日本だけじゃない、世界中が侵略によって壊滅寸前なの。私はそれを、未来を変える為の作戦に参加したのよ。なのに事故が発生して、予定していた時間軸とは別の世界……あなた達の、この世界に飛ばされてきたの!」
彼女の悲痛な声が洞窟内でこだました。
そして僕と勝ちんも言葉を失い、気まずい沈黙の時間が過ぎていった。
嫌な予感はしていたけど、そういうものに限って当たってしまう。
「そうだったんだ……え?じゃあ、あの銀の龍はもしかして?」
暫く呆けたように黙り込んだ僕たちだったけど、ようやく我に返る。
僕は可能性の一つとして話を振ってみたんだけど、それは見事にビンゴ、だった。
「ええ、あれは戦闘マシンでもあるけど、時間跳躍機能も組み込まれてるわ。ただし、時間跳躍には時空間操作が必要なの。その為には膨大なエネルギーが必要になるけど、今あの機体にはその余力が無いの」
彼女は洞窟の外が気になるらしく、そちらに何度も目を向ける。
「幸い、内部の駆動機関は大丈夫だから飛行は出来るわ。望みは僅かだけど、私の仲間達がこの世界に来てくれれば。そうだ、超空間通信を使えば私の居場所を知らせられるかも」
そう言うと彼女は暗闇の中、軽やかに走る小鹿の様に走って行った。
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(解説、のようなもの)
皆さん、今回も閲覧頂きありがとうございました。
「ぼくらの~」後編お届けいたしましたが、お楽しみ頂けたでしょうか。
相変わらずガバガバの設定で執筆しておりますが、エンディングに向けて一歩一歩進んでおります。(なるべく無理やりな展開で納めるという事態にならないよう、気を付けてはおります)
謎の少女の正体も判明しましたし、このストーリーのもう一つの世界線も出てきました。
この作品は短編として構想した為、本来はもっとざっくりした内容で、主人公たちが少女と遭遇するシーンって本当は無かったんですけど、調子に乗って書いちゃいました。
あ~、この先どうなるやら。(いえ、終わらせます。⇒完結編)
『この話の続きはこちら』
『こちらの作品もよろしくお願いします』
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