見出し画像

SF短編小説・喫茶「遊郭」幻想奇譚、その1

【他作品のキャラクターをお借りした、初コラボ作品】

この作品は投稿サイト「エブリスタ」内において、クリエイターのborderfieldさんのご協力により、お借りしたキャラクターをマフィンの作品に登場させるという、キャラクターコラボ作品として執筆したものです。
今回その内容を大幅修正して、新たにnote版として再投稿しました。
ご協力頂いたborderfieldさん、今回もありがとうございました。
それでは、摩訶不思議な『SF・侵略テーマ作品 』をお楽しみください。

 地球上では相次ぐ侵略戦争に勝利し、それに酔いしれ浮かれ騒いでいる真っ最中だった。
 異星人何するものぞ。
 侵略者のなす事、取るに足らず。
 地球人類の武力の前に敵は無し。
 
 といっても地球人同士による領土、資源の奪い合い、民族対立による戦争行為が無くなった訳では無い。
 それらの争いは一時棚上げにして、今は戦勝ムードで世界が賑わいを見せているという事だ。

 外惑星及び暗黒星系連合による新たな地球侵攻が始まろうとしている事を、地球人はまだ知らない。
 そして今回、話しは少し前に巻き戻る。

 喫茶《遊郭》のVIPルームで、玉葱たまねぎ太夫と若旦那が侵略計画について決意し、具体案を話し始めた頃。
 施錠された部屋の入り口の前で、一人の遊女が室内の様子を覗き見をしようとしている最中であった。

 彼女の名前は海獺らっこ太夫。
 彼女の正体は帝国海軍健武隊、海神号によって滅ぼされたムー帝国皇帝陛下の娘。
 皇女イメリアーナだった。

「ああ、もう!この透視聴器、いかれているでなんし。ノイズが多過ぎてちっとも覗けないなんし……玉葱姐たまねぎねえさんが何かやらかしたがっているのは解ってるでありんすが……」

 小型の透視聴装置をガチャガチャいじりながら、悪態をつく太夫。
 室内の様子が気になって仕方が無いようである。

「いっそ、この扉を破壊して中に乗り込んでやるとするなんしか。あちきの、このムーの高祖神様より賜りし聖なる力、高熱の波動を生み出すこの宝玉の力で……」

 紅玉の装飾がひときわ美しい腕輪、それと一体化した手甲。
 その宝玉が太夫の思念に反応し、急激に強い光を放ち始めた……が、直ぐにその光が消えうせる。

「だ、駄目でありんす。ここでこれを使うのはご法度……あちき等が決めた掟に反する行為でありんす。いかにこの店があちき等に対して理解のある環境とは言え、敵地の中にある事には変わりないなんし」

 そして彼女はきつく唇をかみしめると、施錠された扉を恨めしそうに見つめた後、渡り廊下を引き返して行こうとした。
 ムー帝国皇女の出自は伊達じゃない。
 着物の裾を持ち上げるように歩くその姿は、さすがに店で1、2を争う太夫の貫禄と艶やかさに溢れていた。

 その時である。

「お困りですかな、お嬢さん?」

 どこからともなく、聞きなれない男の声が聞こえてきた。

「ど、どなたはんでありんすか?」

 太夫は驚き、辺りを見回してみる。
 が、姿はどこにも見当たらない。

「ど、何処にいっらっしゃるでありんすか。隠れていないで、あちきに姿を見せておくれなんし」

「ふふふ。私の姿、お見せしても構わないが……大声を上げたりなどしないでくれたまえ」

 声は、大夫の真後ろから聞こえてきた。

 太夫が振り向くとそこには……紫のスーツをラフに着こなし、顔面が真っ白なドーランで塗りたくられ、さらにその口は大きく裂け、吊り上がり、それが引きつった笑顔を作っているように様に見える男が立っていた。

「!!!」

 声を呑んで、目を見開く海獺太夫。
 だが、すぐさま相手を見据え、気丈な態度で謎の男性に言い返す。

「だんさん、どちらから来なんした。ここは一限さんには入れなんだなし……それにそのお顔、人外の者でありんすか」

「人外、か。ふむ。それも悪くない。だが、そう言う君はムー帝国皇帝陛下のクローン体。かなりの遺伝子操作もされている筈だ。純粋な人間とは言えないと思うがね」

 そう言いながら男は太夫に近づくと跪いて、その手を取り敬意を表すそぶりを見せた。

「な、何を……何をするんでありんすか」

「皇女たる君が何故こんな所にいるのか。帝国臣民の嘆きの声が聞こえて来るぞ。憎き帝国海軍健武隊、そしてその艦長。奴らは君の一族、臣民達を地の果てまで追いかけて行き、殲滅させるだろう。君は皇女、いや新皇帝としてそれを許すと言うのか。或いは異星人共の犬となり下がるか?」

 男の裂けた口が更に引きつり、大笑いの表情に見える。

「ああ、そ、それは……ああ、憎き帝国海軍ども。我らムーの怒り、無念を一体どう晴らしてくれよう……」

『地球人に報復を』それが主な趣旨で作られた異星、異界人類同盟。
 しかしその実態と言えば、ムー帝国は異星人達の言うなりだった。

 その上、今回は海獺太夫の心は、この突然現れた謎の怪人によって
荒波にもまれる小舟のような状態になっていた。

「さあ、行くがいい。鍵は開いている。君の夢が叶うチャンスが、その中で待っているようだ。ああ、そうだ。彼らに『Selene.Luna.13』と言う言葉を教えてやるとといい」

「せれーね・るな・さーてぃん……でありんすか?」


「その通り。では、私はこれにて」

 言うが早いか、男の身体がゆらりと陽炎のように揺れ、すぐに姿が見えなくなった。

「ああ、だんさんそんな……もっとゆるりとなさればよござんしょ。あちきの客として、たっぷりとご奉仕するなんしな。せめて、お名前だけでも」

「……ハリス。恐怖を君に」

 声は亡霊の放つ歓喜の声のように聞こえた。
 そしてすべての気配が消え去る。
 辺りはいつもの、見慣れた店の廊下だった。

「ああ、あの御仁は一体……?とてもこの世の、普通の人間には見えなかったでなんし。かといって、あちき等の同族とも思えなんだし」

 これから地球人を、恐怖と絶望のどん底に叩き落してやろうと画策している彼女であったが、突如現れた怪人に心を砕かれた感じで、その足元は甚だ頼りないものになっていた。

 彼は、地球人なのか?
 だとすれば、今この背筋を這い上がって来る「恐怖」感は、一体何なのだろう。
 たかだか地球、それもたった一人の地上人によって、人間の姿に身をやつしているとはいえ、1万数千年の歴史と超文明と呼ぶに相応しい科学力を持つ自分達が、ここまで震撼させられるとは。

 彼女は自分の手首にはまっている手甲のブレスレットの部分、ひときわ大きな宝玉に目をやった。
 それは沈黙したまま、ただ静かな輝きを放っているだけの、ただの宝石だった。

 太夫は、もはやじっとしていられなくなり、意を決して個室の扉に手をかけ思い切りそれを開け放った。


ねえさま、た、玉葱太夫……大変でありんす!」

 扉を開けると同時に、そう叫んでいた。

「ら、海獺らっこ太夫かえ。一体何でありんすか。そない慌てふためいて。個室に堂々と入って来るとは非礼極まりないなんしな」

 場をわきまえない海獺らっこ太夫の行為に、玉葱太夫は不快感をあらわにして睨み付けた。

「すまぬでありんす。で、でも、それどころでは無いんでありんす。この店の中に、世にも恐ろしい者が入り込んでいたでありんすよ」

 海獺太夫は怯えてその場にうずくまる。
 帝国皇女の貫禄は何処へやら。
 もはやただの花魁でしかない。
 それを目にした玉葱太夫は鼻で笑っていたものの、怯える海獺太夫の姿が尋常では無いと感じ取り、彼女の側にしゃがみこみそっと肩に手を添え、彼女を落ち着かせようと優しく語りかける。

「気をしっかり持ちなんし。太夫は皇女さまでありなんしょ?そんな顔をしていては興覚めなんし。さあ、お立ちなんし」

 玉葱太夫の手を借りて、海獺太夫はゆっくりと立ち上がった。

「ありがたしでありんす。姐さま」

 そのまま玉葱太夫に支えられ、着物の裾を引きずりながらソファの方へ移動していった。

「何があったんだ?まあ、これを飲んで少し落ち着くといい」

 若旦那……天神貿易商会の社長、はテーブルのデキャンタから年代物のウイスキーをシングル分。
 ショットグラスに注ぐと海獺太夫に差し出した。
 太夫はそれをそっと手に取り、迷わずに口に運んだ。
 つつーっと、琥珀色の液体が彼女の喉を下っていった。

「ああ。ありがたなんし。……ちぃと、辛うなんしな」

 ほんのりと桜色に染まる太夫の頬。
 白魚の指先でグラスの縁を撫で、テーブルにそれを置く。
 幻想の世界から抜け出してきたかのようだった。
 だがそれは比喩でもなんでもなく、文字通りこの世の者ではない二人の若い娘が、この世のものではない美しさ競い合っているのだ。

「で、海獺太夫。この部屋の外で、一体何がありなんした?」

 海獺太夫の百花繚乱の匂い立つ美しさを放ち、一方の玉葱太夫は輝き光る宝石のような美しさだった。

「玉葱太夫、この部屋は施錠した筈だな?」

 若旦那が玉葱太夫に確認する。

「ええ。それはもう、しっかりと。あれは内側から出なければ開かないでありんす。合鍵はあちきが今持っている鍵以外、店のお母はんしか持って無いはずなんし」

 そう言って玉葱太夫はカードキーを着物の帯の間から取り出して見せ、きっぱりと言い切った。
 ここの施錠を解く為にはこのカードキーか、女将の持つマスターキーを使う意外に術はないのだと。

 この特殊な施錠を施された個室はこの店に全部で3つあったが、一つがこの極光おーろらの間、玉葱太夫の専用個室。
 もう一つが鬼灯ほおずきの間、海獺太夫の専用室だった。
 最後の一間は空き部屋になったままだ。

「なるほど。それを何者かが外側から開錠したと……海獺、まさか君、『能力』を開放したりしてないだろうね」

 若旦那に問い詰められ、急いでそれを否定する。
 真相を話す事などとても出来ない事だった。
 海獺太夫がした事、それこそがスパイ行為そのものなのだから。
 彼女はしらを切るしかなかった。

「だんさんのいけず……嫌やわ、そないな事をしたらあちきはここにはおらしませんわなぁ。店の中とはいえ、ここ地上にいる間は、上位の力の開放はご法度なんし」

 頬が激しく赤くなり、とろんとした表情の海獺が首を振り若旦那に抗議する。
 彼女は必死になり事実を隠そうとした。

「あ、ああ。そうだな。キミがそんな軽はずみな真似をする訳も無いか。女将や他の花魁共は、我々の精神操作によって操り人形だしな」

「じゃあ、一体誰が?」

「口が耳まで避けた、顔面が真っ白の男でありんす」

 二人の顔色を窺いつつ、海獺はやっと部屋の外、廊下で会った出来事について話し始める。

「何だと?」
「なんでありんすか?」

 二人が同時に声を上げ、玉葱太夫はその身を大きくのけ反らせていた。
 若旦那の顔に不安の色が浮かび始める。
 それを太夫達に悟られまいとして煙草を手にし火を点けようとするが、ライターを取り落としてしまった。 

「だんさん、しっかりしておくんなんし」

 玉葱がそれを拾い、灘儀が加えている煙草に火を点ける。

「口の裂けた白塗り男?何だ、そいつは。人間だったのか?」

「あい……多分。本人が人外では無いと。たしか、ハリスと申しておりなんした」

 海獺太夫は、あの白塗り男の真っ赤な目を思い出し、身震いをした。
 何よりも自分達の素性を総て見通されている。
 只の人間では有り得ないだろう。
 敵か味方か、皆目見当もつかない謎だらけの男だ。

「ハリス……うーむ、聞かない名前だな。で、そいつが何と?」

 若旦那に問いかけに対し、海獺太夫は先刻のいきさつを二人に話そうとして硬直する。
 同時にすぐに不振に感じた若旦那が、海獺に一つの疑問を投げかける。

「海獺太夫。君が身に着けている《あみゅれっと》には何も反応は無かったのか?もし何者かが接近したりすれば、それはすぐに存在を感知して知らせてくれる筈だろう?」

 若旦那は煙草を揉み消しながら、海獺太夫の顔色をじっと伺うように見つめていた。

「ええ。全く何も起きなんだなんし。あちきがこの部屋の前で……」

 そう言いかけて太夫は口元を抑え、黙り込む。
 話せば自分がその時しようとしていた行為を、二人に対して全て白状しなくてはならなくなる。

 暫くの間の沈黙。海獺太夫の荒くなった息遣いが、部屋の中で大きく聞こえる。
 彼女を横目に見ながら玉葱太夫は立ち上がり、移動すると若旦那の隣に腰を下ろした。
 そっと若旦那の膝に自分の手を置く。

「海獺太夫はどうやら、あちきらには言えない何かを知っている様でありんすね。なぁ、旦はん、あちきらはここにいる以上、秘密、隠し事は無しでござんしたなぁ?」

 玉葱太夫は若旦那の手に自分の指を絡めながら、鋭いまなざしを海獺太夫に向け、えぐるような語気で言い放った。

「ううむ、ら、海獺太夫、そうなのか?」

 若旦那にそう尋ねられ、弾かれたかのように太夫は身を引き、若旦那を見つめた。
 旦那の口調は優しいが、自分を見つめ返す目つきには鋭い疑念の感情が浮かんでいた。
(次回に続く)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『borderfield氏の作品はこちらから』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『作者の呟き』この作品に登場する【ハリス】は、エブリスタにて活躍されているborderfield氏の作品、Codo-D.D.シリーズよりお借りしたキャラクターです。私の昭和レトロ風の作品に、borderfield氏の近未来的なキャラを使わせて頂いたことで自作品の新たな可能性を見つける事が出来、とても感謝しております。

今回も読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。<(_ _)>
もし、この作品を気に入って頂けましたなら……
スキやフォローなどのご支援を頂けたら幸いです。
甘口辛口、コメントも大歓迎。
モチベーションアップで次回の執筆の励みになります。
それではまた次の記事でお会いしましょう。
See you again !

『こちらの作品もよろしくお願いします』


いいなと思ったら応援しよう!

ママンマフィン 応援ありがとうございます!もしもこの記事があなたの心に響いたのなら、チップでの応援、とっても嬉しいです。頂いたチップは、次回作の創作パワーとして大切に使わせて頂きます!