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ストリートオブアシッドレイン2

『支配に抗い、抗争に生きる若者たち』

【ロット・クールなボディに熱き情熱を燃やす男】

パート1

これは、サイボーグ・グラフィティでは描かれていない、都市の影の物語。

 日没後、2時間くらいたった頃──

 グラスナッツストリートの商店街。
 半壊したネオンが、チカチカと不機嫌そうに点滅しながら、いい加減な光の言葉をまき散らす。
 質の悪いスピーカーからは、ノイズだらけな、耳障りで猥雑な音楽が垂れ流しで聞こえてくる。
 酔った客の罵声。
 商売っ気たっぷりの女たちの嬌声。

 大人共は俺達の事を非難ばっかりしてるが、それはお互い様じゃないか。
 こっちは、お前らを見て育ってるんだ……

 俺は、目の前で義体の改造具合を確かめている仲間の一人、デビーの逞しい両腕に視線を向けていた。

「ノッキングチキン」ここが俺達の拠点

(相変わらず、豪快な改造をしてやがる。金もねえくせに……まぁ違法改造だし、それは俺も人の事は言えねぇ)

 デビーは俺よりも大柄で、全身の7割以上を強化改造してある機械化人マシーナリーだ。
 チームの中では、切り込み隊長としてメンバーからの信頼も厚く、俺も奴を頼りにしている。

 アジト代わりに使っている、修理とドリンクの店『ノッキングチキンズ』の壁に掛けられている、半分ひしゃげた時計に目を向けた。

(出かけるには少し、早そうだしな……"これ"を渡したらあいつ、なんて言うかな)

 俺は、ポケットに入れてある『気合いのプレゼント』の箱にそっと触れてみる。

 胸の奥に沸騰した感情がこみ上げ、自前の脳内では、気の利いたセリフを生成しようと必死だった。
 電脳化なんてしゃれた機能を持たない俺達は、何時だって生の感情をむき出しで生きている。

 そしてこの街は、そんな連中が受け入れられる数少ない街の一つだった。

「なぁロット、お前聞いたか?あいつら……radicalsnakesラジカルスネークスのヘッドが、パクられたって」

「本当か?なら、奴らの縄張りを奪う、今が絶好のチャンスって事だな」

 radicalsnakesラジカルスネークスっていうのは俺達、wildbeastワイルドビーストと対立してる隣町のチームの連中だ。
 暇さえあれば勢力争い、ぶつかり合いをしている。

「本当は今日にでも計画を練りたかったんだが、お前今日、あいつに会いに行くんだろう?」

 義体の調整がすんだデビーは、俺の胸に指を突き付け、注文したまま放置してぬるくなってしまったドリンクで喉を潤した。

「心配するな。副長のお前がいなくたって、俺達は動ける。おまえは安心してジェシカの元へ行ってこい」

 デビーはそう語ると、俺と拳を交わし合った。

 デビーの左上腕部には狼のタトゥーが刻まれていた。
 俺は右側に、同様のタトゥーを施している。

 仲間として、信頼の証として刻んだものだった。

「ああ、サンキューな。じゃぁ、そろそろ行ってくる──?」

 ズガガガァアーン!

 激しい銃撃音と共に、店内には真っ赤な火の手が上がり、人々の悲鳴と怒号が飛び交った。

「なんだ!ま、まさか?」

 驚くべき瞬発力でデビーは席を立ち店の外に飛び出していった。
 やや遅れて俺もその後に続く。

 そこで待ち受けていたものは……

てめぇ、ここで決着をつけてやるぜ!

「おう!てめぇら、俺達がポリスにやられて、自分達が勝ったと思ったか?残念だったなぁ。この通りチームは無傷だぜ……俺もこの通り無事だ」

 radicalsnakesラジカルスネークのリーダー、ブローカー・ブラッドが嘲笑を浮かべてそこに立っていた。

「てめえ!」

 既にスイッチが入ってしまったデビーが、相手に向かってとびかかって行った。

 同時に相手側も待機していたメンバーが数名、思い思いの武器を手に破壊行動を開始した。

 そして俺も、声を大にして、ノッキングチキンズの店内にいるメンバーを呼んだ。
 即座に店内から飛び出してきた仲間が、相手のメンバーに向かっていく。

 怒号、銃声。
 爆発と閃光。
 義体同士がぶつかる鈍い音。

 もう、止める術はなかった。

「うおおーっ」

 俺達のリーダは生憎『上の組織』から召集を受けていた。
 俺は副長として黙っている訳にもいかず、敵のリーダーを打つべく左の拳を唸らせた。
 頭の片隅でジェシカの姿がちらついていたが、身体の制御がそれをかき消そうとしていた。

 目の前のデカブツに向け、ピンポイントで急所を狙って攻撃する。
 殴って、蹴って、体当たりを喰らわせてやった。

 さらに、爆発で飛んできた鉄パイプを手に、滅多打ちに攻撃する。

 しかし……

「ネズミ共には、こいつをお見舞いするぜぇ~!互いにサイボーグなら、これぐらいやってもいいだろうが」

「?」

 ドオォォーン!

 奴らはロケットランチャーで攻撃してきやがった!
 俺は爆風で吹っ飛ばされたが、何とか体勢を立て直し着地する。
 その時、上着の中の小箱が飛び出し、燃え盛る建物の中に消えて行った──

な、なんてこった……俺の3年間が!

 それは今夜、俺がジェシカに渡そうとして、手に入れるまで3年かかった小さな愛の証……婚約指輪だった。

「!」

 俺はその光景を目にして……全身が真っ赤な怒りで燃え上がるような感覚になっていた。

「畜生、てめえら許さねぇ!全員叩き潰す!」

 路のすぐそばに転がっていたレーザーガンを拾い、連中めがけて引き金を引こうとした。
 だが、それを止めたのはデビーだった。

「やめとけ。おまえここでドンパチしてる場合か?それに、聞こえるだろ?」

 通りの向こうから、SPセキュリティポリスのサイレンが聞こえてきた。
 武装警官がここに来たら、恐らく全員無事では済まないだろう。

「ぐずぐずしてる場合か?早く行けって。……捕まるなよ」

 デビーがあたりを警戒しつつ、俺に脱出を促してきた。

「仕方ねぇ、全員撤収だ。後で、また会おう。……しかしなぁ、肝心の婚約指輪が燃えちまった」

 再会の約束を交わすとともに、俺は自分の失態を告げていた。
 それを聞いたデビーが、呆れたように目を剥く。

「ああ?なんだと!……けどな、男だったらよぉ、自分の想いは自分自身の言葉で伝えろ!お前の心は、その程度で砕けるのか?炎で焼き尽くされたりするのか?」

「ああ……そうだな。わかった!」

 そして俺はその場を後にした。

 失った指輪の代わりに、自分の言葉で愛を伝える……
 その言葉を胸にジェシカの笑顔を想い描いた俺の視界に、とある『素材』が目に映った。

 それをそっと拾い上げた俺は、不器用ながら新たな「印」を作り上げていた。
 鉄パイプを曲げて作った枠に、ガラスの破片をはめ込んだ、俺の自作の指輪を手に、俺はジェシカの待つ場所に向けて走り出した。

俺は、俺の言葉で愛を伝えるんだ!

 背後に、SPのサイレンを聞きながら……

(END)


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