動きがないが攻めてるトーヴロー、動きがあって攻めてるチンチラ、どっちもイケてるMVだ!(オススメMV #197)
こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の197回目です。(連載のマガジンはこちら)
今回は、ちょっと変わった新しめのMVを2つ紹介します。
その2つのMVの共通点は『攻めてるMV』。
1つは動きが少ないものの攻めてるMVで、もう1つは激しい動きがある攻めてるMVとなります。
また、本連載では古めのMVを紹介することが多いのですが、今回は2つとも先月下旬に公開されたばかりの出来立てホヤホヤのMVですので、やけどしないように注意してご覧ください。
では、まず最初に『動きが少ないものの攻めてるMV』を紹介しましょう。
トーヴ・ローの「DNH」です。どうぞ!
ほとんど動きがないものの強烈なキャラクターでインパクト抜群の映像と、ビートが効いた圧が強めの楽曲とが絶妙にマッチした、一度観たら忘れ得ないMVとなっています。
二度三度と繰り返し観てしましますが、何度観ても飽きることなく観れるのは優れたMVである証(あかし)です。
トーヴ・ロー(Tove Lo)は、スウェーデンのアーティストというかシンガーソングライターで、2006年から活動を開始し、2013年にシングルでメジャーデビューし、翌2014年に1stアルバムをリリースしています。
スウェーデンのアーティストと言うと、なかなか馴染みが無いように思えますが、多くの世界的に認知されているアーティストを輩出しており、この連載で紹介したアーティストとしては、アヴィーチーやカーディガンズ、ロビンやギャランティスなどがいます。
そんな中、トーヴ・ローも、2013年にメジャーからの2ndシングルとしてリリースした「Habits (Stay High)」がUSチャートでNo.3に(スゴイ!)、翌2014年にリリースされたリミックス版がUKで6位となるビックヒットを飛ばし、一躍注目を浴びることになります。
ちなみに、「Habits (Stay High)」のMVも、YouTubeの再生回数もスゴイことになっていて、今現在、オリジナル版が5.5億回、リミックス版はなんと13億回と、合計約20億回というとんでもない再生回数となっています。
では、その後どうなったかと言うと、最初にビックヒットを飛ばしたアーティストによくあるのですが、それ以降はなかなかヒットに恵まれず、リリースする楽曲もMVもチョット迷走しているような感もあった...というのが正直なところです。
しかし!
今年2026年5月にシングルリリースされた「 I’m your girl right?」と翌6月の「des fleurs x stromae」では、楽曲もMVも迷いが吹っ切れたような出来栄えとなっていて、『おっ!?』と思っていたところに、7月にこの「DNH」がリリースされ、『これはとんでもないことになりそうだ...』という状況なのです。
というのも、来月2026年9月に6thアルバムのリリースが決まっており、その中から先行リリースされたのがこれら3つの楽曲なのです。
ということで、来月にリリースされる6thアルバム「Estrus」は、メチャクチャ期待大となっています。
前置きが長くなりましたが、肝心の「DNH」のMVの話に移りましょう。
YouTubeのサムネイルにある通り、革あるいはエナメル地の黒い衣装に身を纏(まと)ったトーヴ・ローが最初から最後まで同じポーズで立ち続ける映像が中心となっています。
ほとんど静止画のような映像ですが、トーヴ・ローが煙草を吸うときの手と、後ろのクラブと思(おぼ)しき建物から走り出てくる数名の女子だけ動きがあるものの、それもスローモーションとなっています。
また、映像自体、色彩や明度での印象付けもないため、映像効果だけをみると印象付けはほとんどありません。
逆に、「DNH」の楽曲は(上にも書きましたが)ビートが効いた圧が強めでインパクトがあり、普通であれば印象付けの弱い映像効果とのバランスが悪くなりそうです。
しかし、この「DNH」のMVは、楽曲と映像のバランスが悪いどころか、全く違和感なく観ることができます。
その理由は、漆黒の闇と暗い建物を背景に立つ、男装の麗人とでもいうべきトーヴ・ローの存在だけで強烈な印象付けを実現し、強いインパクトのある楽曲とのバランスを取っているのです。
このMVが『攻めている』という理由はここにあります。
通常であれば、細かなカット割りや動きのある映像を使ったり、色度や明度の高い映像にすることで映像の印象付けを強くし、インパクトの強い楽曲とバランスを取ろうとするところ、この「DNH」のMVでは通常の映像の印象付けの方法は一切取らず、映像の構図とトーヴ・ローの存在のみで勝負しており、その結果、唯一無二とも言えるMVとして仕上がっています。
『こんなMV、誰がDirectionしたんだ!』と調べたところ、チャーリー・デニス(Charlie Denis)という新進気鋭のフォトグラファーのようでした。
過去にも数本のMVのDirectionをされており、観てみたのですが、全く攻めておらずフツーのMVでした。残念...
今後の作品に期待ですね。
なお、「DNH」というタイトルにはどんな意味があるのか調べたところ、歌詞にもある「(女子が)酔ってムラムラしている」の略のようですが、なんのこっちゃ...という感じですね。
さて、続いて紹介するMVは、逆に『ガッツリ動いているが攻めてるMV』なのですが、『動いてて攻めてるってあたりまえじゃないの?』となるのが普通なところ、それには理由があるのです。
まずは、その『ガッツリ動いているが攻めてるMV』をご覧ください。
チンチラの「Dog Eat Dog」です。
目力(めじから)がハンパない女性が、チンチラそのヒトとなります。
カントリーっぽくもあるノリがよくパワフルな楽曲と、チンチラをメインに据えたダンスの映像のマッチングが良く、あっという間に見終わってしまう良作MVとして仕上がっています。
チンチラ(CHINCHILLA)は、イギリスのシンガーで、2019年にネットへの楽曲のアップロードから活動を開始したという、今どきのアーティストとなります。
そして、2021年にメジャーデビューし、2023年にはUSのダウンロードチャートで3位になる「Little Girl Gone」というヒットを飛ばしたのですが、その頃は全く存じ上げず、この「Dog Eat Dog」のMVで初めて知ったというのが正直なところです。
ちなみに、チンチラという名前はもちろん本名ではなく、どんな経緯や意味があってチンチラ(犬の種類ですよね)と付けたのか調べたのですが、全く情報がないため、モヤモヤしたまま現在に至っています。
もしご存じの方がおられたら教えていただければありがたいです。
さて、この「Dog Eat Dog」のMVは、YouTubeにレコメンドされて初めて視聴したのですが、カントリー調の軽快さもありながらもパワフルな楽曲にチンチラのソウルフルな歌声がマッチし、印象深い楽曲となっています。
チンチラはラッパーとしての活動もしており、ラップの楽曲も多数リリースしているのですが、私としては「Dog Eat Dog」で歌うチンチラの歌声のほうがぜんぜんイイな...と思っています。
そして、そのチンチラのソウルフルな歌声とパワフルな楽曲に組み合されるのは、カントリーチックなパブあるいはバーで4人の男性ダンサーを従えて踊るチンチラの映像です。
特段スゴイ映像と言うのではないのですが、楽曲と映像のマッチングが素晴らしく、印象付けはあるものの雑味が全くないという、完成度の高いMVとして仕上がっています。
そして、このMVを観て『あれっ、なんかこの映像、おかしくない?』と思って、何度か観てみたところ、この映像の秘密に気が付いたのです。
それは、「同じ場面を繰り返しているだけの映像だ」ということです。
1クール30秒程度の映像を、7回繰り返しており、最後の7回目の途中で映像がフェードアウトしながら終わっています。
このMVが攻めている点が、まさしくココにあります。
同じように、同じ場面を繰り返している映像を使っているMVは結構あるのですが、そのすべてが全く同じではなく、少しずつ変わっていたり、楽曲に同調して映像が表示されたりするものばかりです。(吉田調べです...)
しかし、この「Dog Eat Dog」のMVは、完全に同じ映像を繰り返し使っており、この点が『動きがあるのに攻めているMV』なのです。
MVの制作者(Director)は、良い作品に仕上げるために何らかの手を加えてしまうのが一般的ですが(もちろん、間違ったことではありません)、このMVでは敢えて手を加えず、完全に同じ映像を繰り返すという決断をされており、それが映像と楽曲のマッチングの良さを生んでいると思われます。
また、ダンスの映像だけで3分以上の楽曲の全てをカバーするとなると、ダンスのバリエーションが必要になり、かつ全てを高いクオリティーで保持するのは至難の業です。
かといって、違うシーンを差し込むとMVの洗練さが失われてしまうため、ダンスの映像の高い品質を保ちつつ、ダンスの場面のみで構成することで洗練さを保持しているのです。
つまり、『完全に同じ場面のみを繰り返すことで単調になる』というリスクがある中で、果敢にチャレンジし、その結果、高い品質を保ちつつ楽曲と映像がマッチしたMVが完成した...という『攻めたMV』なのです。
ちなみに、同じ映像を繰り返し使用するMVとしては、以前に本連載で取り上げたlivetuneの「Transfer」がお気に入りですが、カイリー・ミノーグやホット・チップのMVなど他にもいくつかありますので、また特集を組んでみようかなと思っています。
さて、今回の2本の攻めたMVはいかがでしたでしょうか。
トーヴ・ローの『動きが無いが攻めてるMV」、チンチラの『動きがあって攻めてるMV』、どちらも制作陣の果敢なチャレンジの結果、生まれた素晴らしい作品となります。
ぜひ、二度三度と繰り返し観ていただければと思います。
ではまた次回に。
