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『この天の虹』(1958/松竹)

 相変わらずLeminoというドコモがやっているサブスクで今まで観る機会のなかった日本映画を観ています。特に配信事業にあまり積極的ではない松竹の映画が多く、まずは巨匠・木下惠介監督の作品を当たってみようと思ったわけです。

 ↑ 前回はこちら。

 川津祐介さんという大好きな俳優さんがいます。個人的には『ゴジラ vs メカゴジラ』『ガメラ2 レギオン襲来』での「若い人に理解のある人格者の博士役」というイメージの強い方ですが、昭和30年代半ばは木下惠介監督作品のファミリー役者でした。川津さんは本作がデビュー作。木下監督は相当に目をかけておられたのでしょうね。

 川津さんの隣にいらっしゃるのは久我美子さん。芹沢博士役でおなじみの平田昭彦さんとご結婚されまして、『ゴジラ vs ビオランテ』では久我さんも官房長官の役で出演していました。ということはこのツーショットは平成ゴジラシリーズのベテラン枠2人の若き日のツーショットでもあるわけですね。いま気がついたけどすごい!(オタク)

 という与太話はともかく、重厚な人間ドラマとエンターテインメントの匙加減が見事で、軽々しく使う言葉ではありませんが、「知られざる傑作」と言っていいだろうと思います。

 ……ガーン、実はU-NEXTでも配信されていたのでした。でも観始めたらものすごく面白かったので、そのまま最後まで観ました。

 ではレビューに移りたいと思います。


 八幡製鉄所の全面タイアップで作られた作品。けっこうな超大作だと思うのだが、今まで語られているのをあまり見たことがない。冒頭、工場見学的に製鉄所のいろんなお仕事をPR映像風に見せていくのだが、こんな危険そうなところにまで映画のキャメラが入っていったのかという驚き、そして、どうせ内部の映像は全部工場側で撮影した借り物のフィルムだろうと思っていたら……溶鉱炉の近くに佇む笠智衆! 巨大な機械を操作する織田政雄! 鉄の原料を放り込む高橋貞二! 加工された鉄の製造ラインに立つ大木実! 所長(本人)にお茶を出す久我美子! 鉄を運ぶ構内の機関車の先頭にしがみつく川津祐介! 超巨大要塞のような建築現場で一息つく田村高廣! 豪華キャストが一歩間違えたら確実に死ぬ現場に立たされ、完全に大工場で働く歯車になっていることが示される冒頭の十数分で引き込まれた。

 煙突からは明らかにヤバい色をした煙がバカスカと吐き出され、昭和33年の鮮やかなカラーフィルムの色彩を余計におどろおどろしいものにしている。タイトルにある「虹」とはこのヤバい色をした煙のことを言うのだが、では工場労働を無条件に礼賛する映画なのかというとそういうわけでもなく、休みの日はただ部屋で横になるしかない若い工員、健康の不安を抱える年配の工員、定年後は社宅を追い出される不安など、現代とまったく変わることのない日本人の生活苦が描かれる。違うのは八幡製鉄所とその周辺から話が一歩も出ることがないということだ。娯楽も行楽も含めてあらゆることが製鉄所の敷地内で完結してしまう生活インフラの異常な充実ぶりを宣伝するつもりが、結果として箱庭のなかで飼われている人々の哀れでやりきれない気持ちがこれでもかと描かれている。無論、それは島国日本の縮図でもある。オシャレで小ぶりな団地から出てくる大木実と久我美子が、まるでリカちゃん人形のようだ。

 なにもかもが大きい、製鉄所内の異常な建造物の数々だけでも観る価値がある。オールロケで特撮は一切使われていない。高度経済成長期の勢いとおそろしさを端的に感じることができる。


 木下惠介監督は戦時中にも『陸軍』という映画で、「戦時中の戦意高揚映画というフォーマットで反戦映画を撮る」というとんでもない離れ業をやってのけた方です。今回も「産業奨励のプロモーション映画」の形を借りて、そこにある本質、問題点を見事に浮き彫りにしています。明らかに監督よりも立場が上のスポンサーがいるような作品で、ここまで自分の美学を貫き通せる映像作家は、他にいないんじゃないでしょうか。木下惠介、あっぱれ。

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