ジャンヌが愛した「旗」について
ジャンヌは、戦いの後の裁判の折、このように語っています。
「剣よりも旗の方が40倍も好きです。」と。
常に前線にあり続けたジャンヌでしたが、武器を振るうより旗で皆を鼓舞することが好きでした。
決して楽をしようとしたわけではありません。当時、旗を持っていれば当然目立って戦いでも真っ先に狙われます。
しかもその立ち位置は常に前線です。
実際に彼女は戦場で負傷した記録が良く残っています。
また、彼女の物とされる兜の傷あとの深さから本格的な白兵戦に巻き込まれていたという研究もあります。
それでも彼女は旗を守り、味方を鼓舞する事を選んだのです。
そのジャンヌが愛した旗は私の知る限り現存していません。
恐らく宗教改革の頃に焼き尽くされたと思います。
しかし、その旗に関しての記録が残っています。
・二等辺三角を横にしたペナント型で先端が2つに分かれていた。
・布地は麻、または麻の入った木綿、あるいは絹(後の裁判の証言より)
・色は白。周囲は絹で縁取られていました。
・救世主の両側に天使が配置された図柄
・イエズス、マリアという文字をの刺繍があり、その周囲にフランス王家を表す百合の花を散らしたデザイン

この写真は、サント・カトリーヌ・ド・フィエルボワという教会にある旗です。
フランスの教会には幾つかジャンヌの旗を飾っている教会があります。
しかし、私はこの旗が一番記録に忠実で、実際に振り回せた大きさなのではないかと思っています。
ジャンヌもこういう旗を持って戦場に行ったのだと思います。
さて、そんなジャンヌの愛した旗ですが、実は旗に纏わるちょっとおっちょこちょいな一面を後世に残すエピソードがあります。
ジャンヌがオルレアンを奪還するための戦いに望んでいた時の事です。
激しい戦いでジャンヌは深い矢傷を負ってしまいました。
全軍の士気が下がってしまい、戦いは一時膠着状態、という時に起こった事件です。
ジャンヌが負傷し、士気が落ち込んでしまったフランス軍。
兵士に昼食を取らせます。
食事中、ジャンヌがお祈りをしていると、近くにあった軍旗がありません。
実はジャンヌの副官と、そのお付の男が「軍旗はもうちょっと敵の近くにあった方が士気もあがるだろう」とジャンヌがお祈りしている間に持って行ってしまったのです。
てっきり軍旗が盗まれたと思ったジャンヌは、旗に目掛けて走ります。
旗とジャンヌが砦に向かうのをみたフランス軍は突撃の合図が出たと勘違いし、慌てて総攻撃を開始しました。
イギリス軍は不意を突かれ、夕方までに瓦解したそうです。
ジャンヌ・ダルクというとカッコいいイメージもあるかもしれませんが、少なくともこの戦いに関しては、勢いによって得られた物というのが歴史家のほぼ一致した意見と思います。
私はジャンヌはけっこううっかりさんだったのでは無いかと思っています。前述の裁判中も「ジャンヌが大切な旗を忘れて戦場に走っていったので、私が届けました。」とか、
「軍の規律を乱す女性がいたので、剣で追い払おうとした所、うっかり折ってしまった。」なんていうエピソードが色々あります。
少し、親しみが湧いてくると思いませんか?
そんな可愛らしい所もあるジャンヌですが、当然それだけではありません。
ジャンヌは、これらの戦いで必ず降伏勧告から行い、戦いのあとは敵味方区別なく、死傷者の為に祈り、敵兵でも重傷者がいればその側について告解を聞き、介抱していたそうです。
これは、当時の状況を考えると、類まれなモラルと思います。
きっとそこには理想のための行動と、現実の罪の意識との間で激しく心が揺れ動いていたと思います。
これらの断片的な記録の端々に私は彼女の生きた人間性を感じます。
そんな人間ジャンヌ・ダルクの事を、私はとても魅力的な人間だと思っています。
よろしければ、ジャンヌの旗を巡るエピソードをもうひとつ御覧ください。
ジャンヌの旗とそれを巡る人々
