一生ボロアパートでよかった【45】
あらすじ:新築の白い家を買った時、家族は幸せを手に入れたと思っていた。同時に、これからもその幸せが続くと確信していた。しかしその後、家族はそうはならなかった。白い家はゴミ屋敷に変貌し、父はアルコール依存症になり、母は蒸発した。そして少女は…。その過程を振り返る中で見つけた、少女にとっての本当の幸せの形とは?
これは、メンタルヘルスリテラシーの啓発を目的とした小説。
↓前話
【前話要約】不登校だったユイは、元親友・アオイちゃんと共に登校し、保健室にやってきた。アオイちゃんに誘導され、養護教諭のホノカ先生に母が蒸発した時に負った傷を見てもらうことに。傷ができた経緯を問われるが、ユイは父への自責の念から詳細を告白できずにいた。そこへ、ユイが嫌悪する担任・坂ティーが現れる。
↓本編
【45話】 不登校明け最初の障壁
開き放たれた保健室の扉に視線を向けると、そこには坂ティーが立っていました。決して驚いたわけではありませんでした。もちろん担任が坂ティーであることも忘れてはいませんでした。ただこれまであまりにも多くの問題が私の前に横たわっていたので、不登校の間は坂ティーが担任であるということは特別問題には感じていませんでした。しかし、こうしていざ対面してみると、再び嫌悪感が呼び覚まされ、私の再出発における最初の障壁のように感じられました。
「金井、学校来れたのか」
坂ティーは目を丸くして驚いた顔をしていました。続けて、はぁ、とため息か安堵の息かわからない空気を肺から吐き出しました。私はその空気が痛く感じられて、やっぱり坂ティーは嫌いだと思いました。
坂ティーは保健室に数歩入ってガクッと腰を折り、膝に両手をついてもう一度息を吐きました。保健室まで走って来たのか、少し呼吸が荒かったように感じました。
「あっ、あー、えっと、坂井先生!ちょうどこの後話にいこうと…」
ホノカ先生が坂ティーに話しかけようとするも、坂ティーは片手を挙げてそれを妨げました。そして私に再び話しかけました。
「いや、心配してたんだ、金井のお父さんと何度か電話したけど、金井には電話を繋いでもらえなかったから。金井、本当に、元気にしてたか」
坂ティーは、疲れきった表情をしていました。坂ティーはじっと私を見つめ、返答を待っていました。でも私は目を逸らして返答を拒みました。少しの間、沈黙が続きました。坂ティーはそれでも私を見つめていました。私の見た目から、元気かどうか推測っているようにも感じられました。
「………大丈夫です」
私は坂ティーが作り出したピリつく空気に耐えかねて、言葉を絞り出しました。そうでも言わないと、坂ティーが保健室から立ち去ってくれないと思ったからです。その後すぐにホノカ先生がピリつく空気を察してか、再び声を上げました。
「きょ、今日はまず、学校のリズムに慣れてもらうのがいいですよね、ねっ坂井先生!」
「え、ああ、はい」
「金井さんとはまた後でゆっくり話をするとして、ほら、先生も、もう職員室行かないと!職員朝礼始まっちゃいますよ!」
「…金井、また後で話に来ていいか」
私は坂ティーと対面するのはもうごめんだったので、返事はしませんでした。
「じゃあ、金井さん、また後でね、ベッドで横になっててもいいから!」
そう言ってホノカ先生は、坂ティーの背中を押して保健室から出て行きました。坂ティーはまだ私に何か言いたげな様子でした。私は2人が保健室から出ていくと、密かにホッとして肩の力が抜けました。
それにしても、今思えばこの時の坂ティーとホノカ先生の距離感はちょっと近かったなと思います。この時はまだ、2人が付き合っているとは思いもしませんでした。
つづく
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