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北野の鏡 — 緑色の近影

さて、前回の奇妙な出会いの余韻を残しつつ、再び三宮の地に降り立った。
サンロードの地下で豚丼を味わいながら、あてもなく辺りを歩く。

未練のあったケーニヒスクローネ本店のケーキを回収する。
独特な運用形式に、周囲の動きと視線を頼りにそれとなく擬態した。
初見ながら、席を確保してから注文する流れを読む。
分かりやすく言えば、ミ〇ドと同じ要領だ。

理解してしまえば、こちらのものだ。
とはいえ単身の男にとっては、それより席の確保が山場になる。
華やかなご婦人方が歓談する中、どこに身を置くか。
幸い、クマは喫煙者にも優しかった。
喫煙所に近いテラス席に腰を下ろし、五月の快晴の中でケーキを食べながら本を開く。

お飲み物は、おかわりできるようで

夕刻になり、クマもおやすみの時間となる。
再び三宮に放り出された私は、あのドッペルゲンガーが紹介していた店へ向かった。
英国のHAB式の立ち飲み。
ジンリッキーの苦味と独特な注文でのやり取り。
例のドッペルゲンガーは、この界隈ではそれなりに知られているらしい。
隣にいた淡路育ちの漁師と、酒を酌み交わした。


蹄鉄を模した灰皿が良い

いい時間になり、前回のバーへ向かう。
少し遅めの開店時間も、ちょうどいい。マスターが「先週ぶりですね」と笑みを浮かべ、おしぼりを差し出す。
こちらも軽く会釈を返した。

隣では、女性二人と男性一人の三人組が恋愛話で盛り上がっている。
両手に花のその男は、歌舞伎役者のような濃い顔立ちをしていた。
女性たちはどこか品がある。

どういう流れだったかは覚えていない。
ただ、その男と私が「緑色の雑貨屋」で繋がったことだけははっきりしている。
彼は三宮店で働いていたらしい。すでに閉店してしまったという。
私は埼玉の大宮店で、二年ほどバイトをしていた。
黄色い雑貨屋と間違えられると、妙に対抗意識が湧くあたりも同じだった。

スナックに行ったことがないと話した流れで、彼に連れられて店を移した。
幼馴染か同級生の店らしく、少しだけ信用してみることにした。

扉を開けると、カラオケと元気なママたちが迎えてくれた。
店内は賑やかで、想像していたような居心地の悪さはなかった。
むしろ、妙に馴染む空気だった。

促されるままに、寺尾聡の『ルビーの指環』を歌う。
続けてB’zの『Ultra Soul』。
酒も進み、場の温度に身を委ねた。

結局、その男――いや、紳士にすべてごちそうになってしまった。
別れ際、力強い握手を交わす。
その手の感触と、粋さだけが妙に残っている。


ここではない

また、三宮に行く口実ができてしまったな。

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