桜を見ると、北海道の春を思い出す
同じ桜なのに、景色も気持ちもこんなに違う。
春が来るたび、あの頃の自分を思い出します。
春になると、北海道を思い出す
春になると、桜を探してしまいます。
別にお花見をするわけでもなく、
買い物の帰り道や、
車を走らせているときに
ふと目に入る桜を見つめてしまう。
そして毎年、この季節になると
思い出す場所があります。
それは、北海道で過ごした春です。
私の知っている春とは少し違った
北海道の桜の季節は、ちょうどGWくらい。
本州で暮らしていた頃の感覚からすると、
ずいぶん遅い春でした。
しかも、暖かいとは言い切れない。
長袖はまだ必須で、風が吹けば肌寒い。
「お花見」と聞いて思い浮かべる、
ぽかぽかした春とは少し違っていました。
私の中の春は、明るい色の軽い服を着て、
気持ちまで軽くなるような季節だったから。
桜が咲いているのに、まだ雪が残っている景色に、
最初はなんだか戸惑いました。
桜の下でお弁当じゃなく、BBQだった
だからお花見と言っても、
レジャーシートを広げる感じではありませんでした。
私たちは、桜を見ながらお散歩するくらい。
でもその散歩が、とても印象に残っています。
歩いていると、そこら中から
美味しそうな匂いがしてくるんです。
よく見ると、庭先や駐車場で
BBQをしている人たちがたくさんいて。
北海道ではそれが定番だと知ったとき、
本当に驚きました。
お花見はお弁当を持って
行くものだと思っていた私には、
その光景がとても新鮮で、
少しうらやましくも見えました。
エゾヤマザクラという、力強い桜
北海道の桜は、
エゾヤマザクラが主流でした。
開花と同時に赤茶色っぽい若葉が
芽吹くのが特徴で、
花だけが一斉に咲く
本州の桜とは少し違います。
本州の桜の約8割は
ソメイヨシノと言われています。
咲き始めは淡いピンクで、
満開になると白に近いピンク。
葉が出る前に花だけがドサッと咲くから、
木全体がモコモコに見える。
私の中の「桜」は、
ずっとその姿でした。
だから最初、
北海道の桜を見たときは少し地味に感じてしまったんです。
でも見ているうちにわかりました。
厳しい寒さに耐える力強さ。
山々を彩る、野生味のある美しさ。
派手じゃないのに、確かに春を感じさせる桜でした。
「思っていた春」との小さなズレ
それでも、正直少し寂しかった。
桜の季節なのに、まだ雪がある。
入学式でも雪がちらついて、
足元は悪く、スノーブーツで出かけることもありました。
本当に暖かくなったと感じたのは、
6月に入ってから。
やっと半袖で過ごせるようになる。
チューリップや菜の花、道端のたんぽぽ。
春の花が咲いているのに、
自分の中ではまだ季節が
追いついていないような感覚がありました。
思い描いていた春と、
目の前の春とのズレ。
それが少し切なかったのだと思います。
いつの間にか、好きになっていた場所
でも暮らしというのは不思議です。
最初は戸惑っていた北海道も、
気づけば大好きな場所になっていました。
仲良くなった友達もできて、
子どもたちにも思い出の場所が増えていった。
あの土地でしか作れなかった時間が、
確かにありました。
離れる日に、泣いてしまった理由
だから転勤が決まったとき、本当に寂しかった。
正直、離れるときは
号泣するくらい悲しかったんです。
もう二度と、
あんな素敵な家族の思い出を作れるとは思えない。
知らない土地でゼロから始めて、
少しずつ居場所に変わっていった日々。
それを全部置いていくような気がして、
胸がぎゅっとなりました。
フェリーを降りて見た満開の桜
そして引っ越しの日。
フェリーで北海道を離れ、
名古屋港に降り立ったとき。
目の前には、満開の桜がありました。
ちょうど3月下旬。見頃でした。
車を走らせていると
街路樹から花びらが舞っていて、
北海道を出るときに着ていた
カナダグースが暑くて仕方なかった。
「ああ、春だ」
その瞬間、気持ちがふっと軽くなった気がしました。
「帰ってきた」と感じたあの暖かさ
北海道は大好きだった。
でも、本土の暖かさの中で育った私たちは、
どこかで「帰ってきた」と感じていました。
どちらが良いとか、そういう話ではなくて。
体が覚えている季節の感覚みたいなものが
あるのかもしれません。
同じ春は、もう二度とない
桜を見るたびに思い出すのは、
景色だけではありません。
あの頃の私たち家族の空気や、
少し不安で、でも必死に暮らしていた自分のこと。
北海道で見た、白に近くて力強い桜。
名古屋で見た、花びらが舞うあたたかな桜。
同じ春なのに、まるで違う景色でした。
あのときは気づかなかったけれど、
どちらの春も、
ちゃんと私たちの春だったんだと思います。
今年もまた桜が咲きはじめて、
ふと立ち止まって空を見上げる。
そして少しだけ、
あの頃の自分に会いにいくような気持ちになるのです。
